第四十四話 先生が、いなくなる日
44話です。
朝、畑に先生はいなかった。
昨日はいた。
一昨日もいた。
ずっと、そこにいた。
――今日は、いない。
⸻
「……まだ?」
誰かが、周囲を見る。
「……遅れてるだけじゃない?」
希望混じりの声。
⸻
配置は、自然に始まる。
昨日決めた通り。
昨日覚えた通り。
動ける。
止まらない。
だが、
確認する視線が行き場を失っている。
⸻
「……先生に聞こう」
口に出してから、
気づく。
誰も、そこにいない。
⸻
午前。
水路は回る。
畑も動く。
だが、
判断が一拍遅れる。
「……ここ、
増やす?」
「昨日は……」
言葉が止まる。
⸻
「昨日は、
昨日だ」
ベテランの男が言う。
「今日は、
今日だ」
それは、正しい。
だが、
重い。
⸻
昼前。
子どもたちが集まる。
「……先生、
来ないね」
「どこ行ったんだろ」
⸻
セラが、静かに言う。
「……来ない日、
あるって言ってた」
それでも、
胸の奥がざわつく。
⸻
昼。
集まりが開かれる。
自然に、
だが、
いつもより広い輪。
⸻
「……今日、
先生なしで、
回ってる」
誰かが言う。
「回ってる、
けど……」
言葉が続かない。
⸻
「判断、
全部自分たちだな」
当たり前のことが、
初めて重くなる。
⸻
午後。
小さな問題が起きる。
倉の鍵。
水の配分。
人の交代。
どれも、
致命的ではない。
だが、
一つ一つに時間がかかる。
⸻
「……先生なら、
すぐ言ったよな」
誰かが、つい漏らす。
⸻
セラが、首を振る。
「……言わない日、
あったでしょ」
沈黙。
⸻
夕方。
畑は終わる。
昨日より遅い。
だが、
終わっている。
⸻
「……できたな」
誰かが言う。
その声に、
安堵が混じる。
⸻
夜。
集まりは、自然に起きる。
先生はいない。
⸻
「……これ、
続けられる?」
正直な問い。
⸻
「続けるしか、
ないよな」
別の声。
⸻
「先生、
戻ってくる?」
誰かが、聞く。
⸻
沈黙。
誰も、答えられない。
⸻
セラが、ゆっくり言う。
「……先生はさ」
全員が、顔を上げる。
⸻
「戻ってこない前提で、
教えてた」
その一言で、
空気が変わる。
⸻
「じゃあ……」
「うん」
「……私たちが、
先生だ」
誰も否定しない。
⸻
翌朝。
畑に、
先生はいない。
だが、
板が一枚、置かれている。
⸻
文字は、少ない。
いない日
→ 思い出す
→ 依存を知る
いない日が続く
→ 自分で決める
⸻
子どもが、それを読む。
「……先生、
ずるいね」
誰かが、苦笑する。
⸻
畑は回る。
声が出る。
判断が交わされる。
⸻
だが、
全員が思っている。
「今日は、戻ってこなかった」
⸻
農村は、
先生の不在を
“事件”としてではなく、
現実として受け取り始めた。
それは、
自立の証だ。
だが同時に――
物語が、先生から離れ始めた瞬間でもあった。
誤字脱字はお許しください。




