第三十四話 欠けた分を、どう埋めるか
34話です。
朝、畑に空きがある。
人数ではなく、
動線に。
昨日まで自然に埋まっていた場所が、
ぽっかりと空いている。
「……やっぱ、いないね」
誰かが言い、
誰も返さない。
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作業は始まる。
止まらない。
だが、
早くもならない。
「……この辺、昨日ユノがやってたな」
「そうだね」
名前が出るだけで、
空気が一段、重くなる。
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先生は、珍しく、畑の外を見ていた。
道。
森。
その先。
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午前。
集まりができる。
自然発生だが、
いつもより人数が多い。
「……このままで、回る?」
「回らないことはないけど」
「きつくなる」
否定はない。
ただ、
希望もない。
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セラが言う。
「誰か、呼ぶ?」
一瞬、
空気が固まる。
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「外から?」
「よそ者?」
「……大丈夫?」
言葉が、慎重になる。
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先生が、初めて口を開く。
「選択肢は三つです」
全員が、そちらを見る。
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先生は、地面に線を引いた。
一
残った人で耐える
二
外から人を入れる
三
村の形を変える
「どれも、
楽ではありません」
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「一は?」
誰かが聞く。
「全員が、
今より少しずつ重くなります」
「二は?」
「管理が増えます」
「三は?」
「……やったことがありません」
沈黙。
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午前の作業に戻る。
だが、
さっきの線が、頭から消えない。
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昼前。
水路のそばで、
男が言う。
「……外から来たらさ」
「うん」
「夜の話、どうする?」
一番、現実的な懸念だった。
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「ルール、通じる?」
「説明、する?」
「……信じる?」
誰も即答できない。
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セラが、小さく言う。
「ユノはさ」
「うん」
「ルール、守ってたよね」
「……うん」
「それでも、
去った」
その一言で、
“外”の重さが増す。
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午後。
作業は続く。
だが、
人の配置が、自然に詰まる。
「……ここ、二人要らない?」
「要る」
誰も、余裕がない。
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先生は、畑の端で、
少年と話していた。
「先生」
「はい」
「外って、
どんな人いるの?」
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先生は、すぐに答えなかった。
「選べません」
「え?」
「来る人を、
都合よく選ぶことはできません」
少年は、考える。
「……嫌な人も?」
「ええ」
「ルール守らない人も?」
「ええ」
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「じゃあ……」
少年は、言葉を探す。
「入れない方が、
安全じゃない?」
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先生は、首を振る。
「閉じる方が、
危険です」
少年は、眉をひそめる。
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夕方。
集まりが、正式に開かれる。
「今日、決める?」
「決めないと、
明日も同じ」
誰も反論しない。
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「一で行く?」
「……全員、耐える?」
「二は?」
「……怖い」
「三は?」
「分からない」
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セラが、深呼吸して言う。
「先生」
「はい」
「三って、何?」
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先生は、地面の線を指す。
「仕事を減らす」
「え?」
「やらないことを、
決めます」
ざわめき。
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「それって……」
「収穫、減る?」
「生活、落ちる?」
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「ええ」
先生は、否定しない。
「豊かさを諦めます」
静まり返る。
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「外を入れると、
管理が増える」
「耐えると、
壊れる人が出る」
「だから」
先生は続ける。
「小さくなる選択もあります」
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夜。
集まりは終わらない。
だが、
結論は出ない。
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誰かが、言う。
「……明日、
外見に行くだけ、
行かない?」
全員が、そちらを見る。
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「決めない」
「でも、
知らないままは嫌」
その言葉に、
皆が頷いた。
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翌朝。
畑は、回る。
昨日と同じ速度。
だが、
視線が、外に向いている。
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先生は、板を出す。
短く、書く。
欠けた
→ 補充?
→ 変形?
→ 縮小?
少年が、それを見る。
「先生」
「はい」
「これ……
どれが正解?」
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先生は、静かに答えた。
「正解は、
選び続けた後にしか
分かりません」
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農村は、
初めて
“自分たちの大きさ”を
考え始めた。
増えるか。
保つか。
小さくなるか。
それは、
成長の話ではない。
生き方の話だった。
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誤字脱字はお許しください。




