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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革農村編〜』  作者: くろめがね


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30/60

第三十話 決めない自由、決められる恐怖

30話です。

朝、畑は回っていた。


配置も、作業も、

昨日と同じ。


違うのは――

誰も、安心していないことだけだった。



「……おはよう」


返事はある。

だが、短い。


誰も怒っていない。

誰も不満をぶつけていない。


それが、

一番、怖い。



午前。


作業は静かだ。


鍬の音。

水の音。


その間に、

余計な沈黙が挟まる。



セラが、小さく言う。


「ねえ、先生」

「はい」

「昨日……何も起きなかったよね」


「ええ」


「それって……良かったの?」


先生は、すぐに答えなかった。



昼前。


井戸のそばで、

誰かがぽつりと言う。


「……誰も決めてくれない」


声は弱い。

だが、

確かに届く。



「決めないって、

 自由じゃないの?」


別の声。


「……自由すぎる」


それが、答えだった。



先生は、板を立てた。


今日は、

線を引かない。


言葉だけを書く。


→ 自由

→ 不安

→ 探り合い

→ 恐怖



「決めない自由は、

 強い人間に有利です」


ざわめきが起きる。



「声を出せる人」

「拒める人」

「断られても平気な人」


先生は、淡々と続ける。


「そうでない人は――

 待つしかない」



誰かが、息を飲む。


「……それ、

 夜の話?」


「昼も同じです」



午後。


作業の途中で、

二人がぶつかる。


肩。

肘。


「……ごめん」

「うん」


だが、

視線が離れない。



誰も、次の一歩を出さない。


出した方が、

責任を負うからだ。



セラが、先生の横で言う。


「ねえ」

「はい」

「決めないって、

 優しそうだったけど」


「ええ」


「一番、冷たいね」


先生は否定しない。



夕方。


集まりが、起きる。


だが、

誰も中央に来ない。


「……今日は」

言いかけて、止まる。



誰かが、言う。


「決めてほしい」


声は小さい。

だが、

昨日より多い。



「誰が?」

「……先生が」


視線が、集まる。



先生は、板の前に立つ。


「決めます」


その一言で、

空気が変わる。



「ただし」


全員が息を止める。



「私は、

 欲の理由を考慮しません」


ざわめき。


「回数」

「相性」

「好意」


「それらは、

 扱いません」



板に、書かれる。


夜の選択

→ 完全ランダム


沈黙。



「……それって」

「怖くない?」


正直な声だ。



「ええ」

先生は頷く。

「だから、恐怖を平等にします」



誰も、笑わない。


誰も、反論しない。


それが、

一番の証拠だった。



夜。


灯りは一つ。


布は、敷かれない。


板の前に、

全員が立つ。



「番号を振ります」


紙片が配られる。


誰も、開かない。



「今夜は、

 開かないでください」


ざわめきが走る。



「結果は、

 朝に分かります」


誰かが、声を荒げる。


「それ……意味ある?」



「あります」


先生は答える。


「期待も、拒否も、

 今夜は存在しません」



夜は、

静かに終わった。


だが、

誰も眠れなかった。



翌朝。


紙片が、開かれる。


数字が、見える。


誰が、選ばれたか。

誰が、選ばれなかったか。



誰も、喜ばない。


誰も、怒らない。


ただ、

空気が重い。



セラが、先生に言う。


「……これ、正解?」


先生は、少しだけ目を伏せた。


「正解ではありません」


「じゃあ?」



「逃げ道です」


その言葉が、

ゆっくり染みる。



板に、最後の一文が書かれる。


→ 放置すると壊れる

→ 管理すると嫌われる

→ だから

→ 誰かが背負う



農村は、

次の段階に入った。


欲を、

「話題」にする段階から

「制度」にする段階へ。


誤字脱字はお許しください。

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