第二十八話 公平は、説明がいる
28話です。
朝、畑は静かだった。
昨日の“平等の日”の疲れが、
まだ地面に残っている。
誰も寝坊していない。
だが、
集まる足取りが重い。
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先生は、最初に言った。
「今日は、仕事の前に話します」
ざわつきが起きる。
「長い?」
「たぶん」
誰かが小さく笑う。
だが、
その笑いはすぐ消えた。
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板が立てられる。
久しぶりに、
線ではなく、名前が書かれた。
「……名前?」
「はい」
全員の視線が、板に集まる。
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重作業
・トル
・ミナ
・ロウ
軽作業
・セラ
・イリス
補助
・カイ
・ユノ
沈黙。
誰も声を出さない。
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「……先生」
最初に口を開いたのは、トルだった。
「これ、昨日と同じじゃない?」
「違います」
先生は即答する。
「理由を書きます」
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名前の横に、
短い言葉が足される。
トル:持久力
ミナ:筋力
ロウ:経験
セラ:体調
イリス:集中力
カイ:判断
ユノ:記録
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「……能力表?」
「はい」
空気が、少しだけ冷える。
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「先生」
ミナが言う。
「それ、順位?」
「違います」
「でも……」
言葉が続かない。
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先生は続ける。
「優劣ではありません」
「役割です」
「じゃあ、変われない?」
誰かが言う。
「変われます」
「いつ?」
「理由が変わった時です」
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午前。
作業は始まる。
昨日より、
明らかに静かだ。
だが、
混乱はない。
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重作業は重い。
軽作業は軽い。
当たり前だが、
昨日はできなかった。
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昼前。
ロウが、汗を拭きながら言う。
「……俺、昨日より楽だな」
誰も反応しない。
だが、
誰も否定しない。
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セラは、日陰で作業している。
「……ずるいって、思われてる?」
彼女が、小声で先生に聞く。
「思われています」
即答だった。
「……フォローしないの?」
「説明しました」
セラは苦笑する。
「冷たい」
「説明は、優しさではありません」
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昼。
集まりができる。
「……納得できない人、いる?」
誰かが言う。
手は挙がらない。
だが、
目線は落ちる。
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「先生」
若い男が言う。
「これ、正直に言っていい?」
「どうぞ」
「……分かるけど、
気分は良くない」
正直だった。
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先生は頷く。
「正しい反応です」
ざわめく。
「え?」
「公平は、気分を良くしません」
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板に書かれる。
公平
→ 説明が必要
→ 比較が起きる
→ 感情が出る
だが
→ 仕事は回る
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午後。
作業は、昨日より速い。
誰も張り切っていない。
だが、
無駄がない。
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選ばれない仕事にも、
人が回る。
「……俺、今日は溝やる」
「理由は?」
「余裕あるし」
それだけだ。
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夕方。
セラが、先生の横に立つ。
「ねえ、先生」
「はい」
「これ……嫌われるよね」
「ええ」
「それでもやる?」
先生は、少しだけ考えた。
「嫌われる仕事を、
誰かが引き受けないと、
村は止まります」
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夜。
集まりは短い。
「今日は……」
「……各自で」
声は落ち着いている。
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布は敷かれない。
だが、
誰かが誰かの隣に座る。
触れない。
だが、
離れない。
※①
説明があると、
欲は暴れにくい。
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翌朝。
畑は、昨日より軽い。
誰も褒めない。
だが、
誰も不満を言わない。
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少年が、板を見る。
「先生」
「はい」
「これ……大人向けすぎない?」
「ええ」
「でも……」
「はい」
「嘘つかれない方が、いい」
先生は、少しだけ笑った。
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板の下に、最後の一行が足される。
公平
→ 納得しない人は出る
→ だが
→ 誤魔化すより、強い
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村は、
一歩進んだ。
成功ではない。
だが、
戻れない段階に入った。
誤字脱字はお許しください。




