第二十一話 数えられない感情
21話です。
朝、畑は静かだった。
昨日と同じ配置。
同じ人数。
同じ道具。
それでも、
同じ一日ではないことだけは、
誰の目にも分かった。
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作業は順調だ。
手が止まらない。
声も出る。
「ここ、任せる」
「了解」
やり取りは軽い。
だが、
視線だけが長い。
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先生は、板を持たなかった。
今日は、
数える日ではない。
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昼前。
女たちが、畑の端で水を飲んでいる。
「……眠い」
「夜?」
「うん」
それ以上は、言わない。
「控えた日って、
体、変な感じしない?」
「……する」
それで、話は終わった。
※①
欲が、
生活の一部として残っている。
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昼。
子ども用の畑で、
数人が作業している。
まだ、遊びに近い。
「これ、いつから働く?」
「……そのうち」
答えは曖昧だ。
先生は、
何も訂正しなかった。
※②
“そのうち”が、
一番重い言葉だからだ。
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午後。
余っていた男が、
鍬を置いて言う。
「……子ども増えたらさ」
「うん」
「人、楽になるよな?」
誰も即答しない。
先生が、代わりに言う。
「楽になる前に、
支える時間が必要です」
男は、黙って頷いた。
※③
労働力は、
すぐには増えない。
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夕方。
集まりは、短い。
「今日は……」
「……やめとく」
誰も理由を聞かない。
ただ、
明日の作業表が先に見られる。
※④
夜より、
昼が優先され始めている。
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夜。
灯りは少ない。
誰かの手が、
一瞬、誰かの背に触れる。
すぐ離れる。
「……ごめん」
「いい」
それだけで済む。
※⑤
欲はある。
だが、
今は“使われない”。
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翌朝。
畑は、回る。
昨日と同じ。
だが、
人の動きが、少しだけ揃っている。
セラが言う。
「ねえ、先生」
「はい」
「これ……大人になるってこと?」
先生は、少し考えた。
「選べるようになることです」
「全部?」
「いいえ」
「何を選ぶか、を」
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板は出ていない。
だが、
全員の頭の中に、
同じ線が引かれている。
労働。
休息。
欲。
子ども。
どれも、
切り離せない。
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先生は、
それをまとめない。
今日は、
感じさせるだけでよかった。
農村は、
一気に変わらない。
だが、
身体と生活の距離が、
確実に縮まり始めていた。
誤字脱字はお許しください。




