第十九話 教えないと、壊れる欲
第19話です
朝、井戸の周りが騒がしかった。
水を汲む音が、
いつもより多い。
無駄話も、少ない。
「……昨夜、寝れた?」
「半分」
「同じ」
笑いは出ない。
代わりに、視線が長い。
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畑に出ると、距離が詰まっている。
人が増えたからではない。
触れない夜が続いた反動だ。
肩が当たる。
肘が触れる。
だが、誰も離れない。
先生は、板を持って立っていた。
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午前。
女たちが、順に集まる。
「先生」
「はい」
「聞きたいこと、ある」
声は低い。
だが、回りくどくない。
「……いつ、していい?」
直球だった。
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先生は、板に線を引く。
欲
→ 行為
→ 結果
線の下に、もう一本。
欲
→ 判断
→ 行為
→ 結果
「間に、判断を入れます」
「判断って?」
「時期、相手、場所、回数」
具体的だ。
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「回数?」
「はい」
空気がざわつく。
「……減らせってこと?」
「管理してください、という意味です」
「冷たい」
「現実的です」
誰かが、息を吐いた。
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昼前。
男たちも集まる。
「先生」
「はい」
「俺たちも、聞いていい?」
「どうぞ」
「……溜まる」
正直すぎる。
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先生は否定しない。
「溜まります」
「じゃあ?」
「出す場所と、出さない日を分けます」
沈黙。
「……そんなこと、できる?」
「できます」
「どうやって?」
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板に書く。
日
・作業重
・翌日作業
→ 控える
日
・余裕
・管理可能
→ 可
「感情ではなく、予定で決めます」
数人が、苦笑した。
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「先生」
セラが言う。
「それ、エロくないね」
「目的が違います」
「目的って?」
「続けることです」
セラは目を細める。
「……なるほど」
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午後。
村の中央に、布が一枚敷かれる。
夜のためではない。
話し合いのためだ。
「ここで決める」
「何を?」
「今夜、する人」
ざわつく。
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「手、挙げるの?」
「順番?」
「……点呼?」
冗談が出るが、
全員、真剣だ。
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先生は言う。
「申告制です」
「……申告?」
「したい人」
「控える人」
「理由は?」
「不要です」
欲を、評価しない。
それが、重要だった。
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夜。
灯りは三つ。
布の周りに、
距離を取って座る。
「……今日は」
一人が言う。
「控える」
次に、もう一人。
「控える」
三人目が、少し迷ってから言う。
「……する」
誰も、責めない。
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動きは、静かだった。
触れ合う人もいる。
触れない人もいる。
同じ空間で、違う選択。
それが、初めて許された夜だった。
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翌朝。
畑は、回っている。
目の下に影はあるが、
揉めていない。
セラが言う。
「先生」
「はい」
「これ、成功?」
先生は、板を指す。
欲
→ 判断
→ 行為
→ 管理
「壊れていないので」
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昼。
港の少年が、板を見る。
申告
→ 判断
→ 行為
「先生」
「はい」
「大人って、面倒だね」
「ええ」
「でも……」
「はい」
「勝手じゃない」
先生は、少しだけ頷いた。
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欲は、否定しない。
だが、
放置もしない。
農村は、
“エロを隠す村”から
“エロを管理する村”へ
一歩、踏み出した。
祝われない。
だが、
壊れていない。
それが、この段階の成功だった。
誤字脱字はお許しください。




