第十七話 数が揃う日(静かすぎて、誰も祝わない)
17話です
朝、畑に立った瞬間、分かった。
「……来たね」
誰が言ったわけでもない。
だが、全員が同じことを思った。
空気が違う。
音が少ない。
動きが、慎重すぎる。
先生は、今日は板を持ってきていた。
久しぶりに、数を書くためだ。
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午前、申告が始まる。
「……ずれてます」
「……重いです」
「……少し、吐き気が」
一人ずつ。
声は低く、短い。
冗談は出ない。
笑いもない。
先生は、静かに丸を付けていく。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ目で、
セラが息を吸った。
「……多くない?」
先生は答えない。
五つ目の丸を書く。
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昼前、板が立てられた。
初めて、具体的な数字が書かれる。
兆し:五
確定:未
想定:増
ざわめきは、起きない。
代わりに、理解が広がる。
「……五」
「同時に?」
「重なった、ってこと?」
先生は言う。
「分散しても、総量は減りません」
「……種の話だ」
「はい」
第十五話の比喩が、
ここで回収される。
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昼休み。
女たちは、木陰で座っている。
誰も横にならない。
「怖い?」
「……少し」
「嬉しい?」
「……分からない」
正直な答えだ。
誰かが、笑おうとする。
「一気に増えると、村、賑やかだね」
笑いは出た。
だが、すぐ消えた。
賑やか=負担
皆、もう分かっている。
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午後、配置が変わる。
重い作業から、五人が外れる。
代わりに、余っていた人間が入る。
「……居場所、できたな」
誰かが呟く。
あの“余っていた男”の顔が、
少しだけ上がる。
人口増は、同時に再配置を生む。
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夕方。
セラが、先生の横に立つ。
「先生」
「はい」
「これ、成功?」
先生は、即答しなかった。
「設計通りです」
「……冷たい」
「現実的です」
セラは苦笑する。
「じゃあさ」
「はい」
「失敗は、どこから?」
先生は、板の下に書き足した。
支える手が足りなくなった時
それが、
次の段階だ。
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夜。
灯りは一つ。
布は、敷かれない。
「今日は……なしで」
「同意」
誰も異議を唱えない。
欲より、判断が勝った。
触れ合いは、手だけ。
それで十分だった。
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翌朝。
畑は回る。
だが、速度が落ちた。
セラが言う。
「もう、前みたいには戻れないね」
先生は否定しない。
「戻る必要がない段階に入りました」
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昼、港の少年が板を見る。
数が揃うと、戻れない
少年は、小さく呟く。
「……先生みたいな人、増えるんですね」
先生は、初めて答えなかった。
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人口増は、
祝われない。
だが、
確定した瞬間に、物語は一段深くなる。
ここから先は、
選択ではない。
運営の話だ。
誤字脱字はお許しください。




