第十六話 芽吹きは、声を上げない(変化は、数より先に出る)
十六話です
変化は、音を立てない。
それに気づいたのは、
朝の畑でのことだった。
「……重い?」
誰かが言った。
「……いや」
「じゃあ、何?」
答えは出ない。
だが、動きが鈍い。
鍬を振る速度が揃わない。
休憩が、少し早い。
セラが先生を見る。
「来てる?」
「はい」
「数は?」
「まだです」
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昼前、井戸端。
水を汲む女たちの列が、長い。
だが、話し声は少ない。
「最近、匂いが変わった?」
「……分からない」
「私も」
誰かが苦笑する。
「考えすぎ?」
考えすぎ、ではない。
兆しは、感覚に先に出る。
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午後、板の前。
先生は、まだ数を書かない。
代わりに、丸を描いた。
体調
周期
疲労
「今日は、申告だけです」
ざわめき。
「数えないの?」
「数える前に、慣らします」
セラが首を傾げる。
「慣らす?」
「意識を向けるという意味です」
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夕方、小さな出来事。
畑の端で、
若い女が腰を押さえて座り込む。
「大丈夫?」
「……少し、重い」
水を飲み、深呼吸。
立てる。
だが、無理はしない。
誰も笑わない。
誰も責めない。
それ自体が、変化だ。
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夜。
灯りは一つ。
布も一枚。
「今日は……触れるだけで」
「同意」
触れ合いはある。
だが、慎重だ。
「先生」
囁き声。
「芽って、いつ分かる?」
「後からです」
「今じゃない?」
「今は、分からない時期です」
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翌朝。
畑は回る。
だが、配置が微妙に変わる。
重い作業は減り、
軽い作業が増える。
理由を聞く者はいない。
感覚で、調整している。
セラが言う。
「最近、皆、優しい」
「波の前です」
「……怖い言い方」
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昼、港の少年が板を見る。
芽吹きは、声を上げない
少年は呟く。
「……だから、見逃す」
先生は頷いた。
「だから、
見る訓練が要る」
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夕方、噂は静かだ。
代わりに、
気遣いが増えた。
「重いの、代わる?」
「ありがとう」
「無理しないで」
笑いは少ない。
だが、空気は柔らかい。
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夜が来る。
灯りは一つ。
教育は、
答えを叫ばない。
兆しに名前を付けるだけだ。
そして、
名前が付いた瞬間、
人は――
行動を変える。
芽吹きは、
まだ見えない。
だが、
畑は、もう準備している。
誤字脱字はお許しください。




