第十五話 種子は語らず、畑が答える(教えるほど、皆うなずく)
第十五話です。
朝の畑に、先生は袋を置いた。
中身は、麦の種子。
粒は揃い、乾いている。
「今日は、種の話です」
ざわめきが起きる。
最近、“種”という言葉は反応がいい。
セラが笑いをこらえながら言った。
「先生、今それ言う?」
「今だから言います」
先生は、畑を指した。
「良い畑は、何でも受け入れるわけではありません」
「選ぶの?」
「準備が要ります」
板に書く。
種子:質と量
畑:状態と時期
結果:遅れて出る
誰かが吹き出した。
誰かが、真顔で頷いた。
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先生は、畝を二つ示す。
「こちらは、耕した畑」
「こちらは、耕していない畑」
種を同じだけ蒔く。
「どちらが、よく育ちますか」
「耕した方」
「なぜ?」
「……受け入れやすい」
笑い。
だが、納得の笑いだ。
「受け入れる準備がないと」
先生は続ける。
「種は、流れます」
「……流れる?」
「はい。無駄になります」
咳払いが起きる。
視線が逸れる。
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昼前、実演。
先生は、種袋の口を絞った。
「量も重要です」
一気に蒔く。
密集する。
「どうなりますか」
「……取り合い」
「はい。栄養の奪い合いです」
次は、間隔を空けて蒔く。
「こちらは?」
「育つ」
「全部は育ちませんが、残ります」
誰かが言った。
「……最近の夜みたい」
笑いが広がる。
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昼休み。
木陰で、女たちが話す。
「畑の状態、ってさ」
「寝不足?」
「それも」
「気持ちも?」
「……ある」
笑いは小さい。
だが、自分事だ。
先生が通りかかる。
「補足します」
一斉に見る。
「畑は、休ませると回復します」
「……休む?」
「はい。耕しすぎは、痩せます」
「先生、それ」
セラが肩をすくめる。
「今、刺さる」
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午後、板の前。
先生は、丸を三つ描いた。
準備
受け入れ
間隔
「順番です」
「逆は?」
「失敗が増えます」
誰かが冗談めかす。
「先生、人生相談みたい」
「農業です」
笑い。
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夕方、畑の端。
若い女が、先生に小声で聞く。
「……耕しすぎたら、どうなるの」
先生は、畝を見て答えた。
「回復に時間がかかります」
「……どれくらい」
「季節一つ分」
深く頷く。
言葉は、それ以上いらなかった。
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夜。
灯りは一つ。
布も一枚。
触れ合いはある。
だが、間隔が意識されている。
「今日は……蒔かない」
「同意」
小さな笑い。
選択が、軽やかだ。
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翌朝。
畑は静かだ。
だが、期待がある。
セラが言う。
「種の話、効いたね」
「はい」
「エロいのに、健全」
「教育です」
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昼、港の少年が板を見る。
良い収穫は、夜に決まらない
少年は呟く。
「……準備、ですね」
先生は頷いた。
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夕方、噂が変わる。
「最近、間隔あけてる?」
「うん」
「畑のため」
笑いが起きる。
だが、判断が入っている。
教育は、
禁止しない。
例える。
種と畑に置き換えれば、
人は――
自分で、間隔を選ぶ。
そして結果は、
必ず遅れて、
まとめて、
畑に現れる。
誤字脱字はお許しください。




