第十四話 増える足音、重なる影(数は、ある日まとめて現れる)
第十四話です。
朝、畑が少し窮屈だった。
人が増えたわけではない。
動きが重なっている。
「……近い」
「ごめん」
「いや、私も」
鍬を振る間隔が、半歩ずつ詰まっている。
昨日まで空いていた畝が、埋まっている。
セラが周囲を見回した。
「先生、畑、狭くなった?」
「いいえ」
「じゃあ、何で?」
先生は板を出した。
人数:同じ
動線:増加
「動線?」
「人の往復です」
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昼前、井戸端。
水汲みの列が、やけに長い。
笑い声も多い。
「最近、井戸が混むね」
「朝も昼も」
「夜は……まあ」
誰かが咳払いする。
笑いが起きる。
「先生」
リーアが言う。
「これって、増えてる?」
「何が?」
「……仕込み」
先生は否定しなかった。
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昼休み。
木陰で、女たちが座る。
話題は、自然と身体に寄る。
「最近、周期ずれてない?」
「私も」
「寝不足かな」
「……それだけ?」
沈黙。
そして、苦笑。
「まだ、早いよね」
「数えてないだけ」
先生が通りかかる。
「数えますか?」
一斉に視線。
「……今は、いい」
「承知しました」
拒否が、軽くなった。
それも変化だ。
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午後、板の前。
先生は、静かに書いた。
接触回数:増
制限:緩
結果:遅れて出る
「遅れて?」
セラが聞く。
「結果は、数週間後です」
「……急に来る?」
「はい。まとめて」
ざわめき。
笑いと不安が混ざる。
「先生、それ、笑えない」
「現実的です」
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夕方、事件は小さく起きた。
畑の端で、
若い女がしゃがみ込んでいる。
「大丈夫?」
「……ちょっと、立ちくらみ」
水を飲み、深呼吸。
すぐ立てた。
「最近、多くない?」
誰かが囁く。
“多い”という言葉が、意味を持ち始める。
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夜。
灯りは一つ。
布は二枚。
「今日は……静かに」
「同意」
触れ合いはある。
だが、慎重だ。
触れ方が、変わっている。
「先生」
囁き声。
「最近、夜が怖い」
「理由は?」
「……結果が見えるから」
先生は、少し間を置いた。
「見える前に、備えます」
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翌朝。
畑に、小さな変化。
歩幅が揃い、
作業が分かれ、
“余白”が意識される。
セラが笑う。
「急に、丁寧」
「波の前兆です」
「波?」
「人口です」
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昼、港の少年が板を見る。
波は、音より先に足音で来る
少年は呟く。
「……足音、増えてます」
先生は頷いた。
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夕方、噂が形を変える。
「最近、夜どう?」
「減らしてる」
「私も」
笑いはある。
だが、判断が入った笑いだ。
教育は、
結果を止めない。
ただ、
波だと教える。
波だと分かれば、
人は――
避けるか、
乗るか、
準備する。
村は今、
足音だけを聞いている。
誤字脱字はお許しください。




