第十三話 見える合意、見えない嫉妬(笑顔は、だいたい遅れてくる)
第十三話です
昼の畑は、静かにざわついていた。
肩が触れ、
視線が合い、
短い頷きが交わされる。
――見える合意。
それが、最近の合言葉だ。
「……今?」
「短く」
「了解」
荷袋の影で、
手が腰に回り、
すぐ離れる。
誰も止めない。
誰も咎めない。
ルールは守られている。
なのに。
「……あれ、誰と?」
「知らない」
「昨日も、別の人だったよね」
声は小さい。
だが、耳に届く。
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昼休み、木陰。
女たちが集まり、
水を飲みながら、視線を投げ合う。
「合意、見えてた?」
「見えてた」
「じゃあ、問題ないよね」
言い切りのあと、
一拍の沈黙。
「……でもさ」
誰かが言った。
「回数、増えてない?」
笑いが起きる。
軽い笑い。
だが、目は笑っていない。
「分散しただけ」
「そう、分散」
「……集中より、気になる」
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午後、板の前。
先生が配置を書き換える。
夜:一
昼:分散
休み:二
「先生」
セラが言う。
「合意は見えてる。でも――」
「感情は、見えません」
「……そこ」
先生は板に書いた。
合意=許可
感情=別管理
「別管理って何」
「話す」
ざわめき。
苦笑。
「それ、一番面倒」
「回避不能です」
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夕方、事件が起きた。
畑の端で、
若い男と女が言い合っている。
「昼、あの人とだったよね」
「合意だった」
「……昨日も?」
女は黙った。
嘘はついていない。
だが、説明もしていない。
「先生」
セラが呼ぶ。
先生は二人を見る。
「合意は、ありましたか」
「……ありました」
「では、違反ではありません」
男が噛みしめる。
「じゃあ、何が悪い」
「期待です」
静かに、刺さる言葉。
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夜。
灯りは一つ。
布も一枚。
「今日は……静かに」
「同意」
触れ合いはある。
だが、慎重だ。
「先生」
囁き声。
「昼の方が、ドキドキする」
「理由は?」
「見られてるから」
小さく笑う。
行為は起きる。
だが、短い。
今日は、残す夜だ。
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翌朝。
畑は回る。
だが、視線が増えた。
「……昨日、誰?」
「知らない」
「聞くの、やめとく?」
笑いが出る。
苦い笑い。
セラが先生の隣に立つ。
「見える合意、便利だけどさ」
「はい」
「見えない嫉妬、増えてない?」
「増えています」
「対策は?」
先生は、少し考えた。
「順番を、曖昧にします」
「え」
「固定しない」
「余計に揉めない?」
「揉めます」
「……言い切った」
「ただし、軽く」
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昼、板が更新される。
固定:嫉妬が溜まる
流動:嫉妬が散る
港の少年が、それを読む。
「……散ると、消えます?」
「いいえ」
「じゃあ?」
「薄くなります」
少年は頷いた。
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夕方、畑に笑いが戻る。
「今日は、誰と?」
「秘密」
「ずるい!」
「合意は見えたでしょ」
冗談が冗談として回る。
嫉妬は、薄まった。
夜が来る。
灯りは一つ。
教育は、
感情を消さない。
ただ、
扱える濃度に薄める。
それだけで、
村は今日も回る。
誤字脱字はお許しください。




