第十二話 減らす技術、増える欲(制限は、別の扉を開く)
第十二話です。
制限は、静かに効いた。
夜の灯りは一つ。
布も一枚。
集まる人数は、少ない。
「……今日は、控えめで」
「了解」
「明日、畑」
言葉が短い。
それだけで、自制が共有される。
触れ合いはある。
だが、急がない。
呼吸が揃い、体温が移るだけで、いったん止まる。
「……止めるって、案外むずかしいね」
「慣れの反動です」
先生の声は低い。
淡々としているが、欲が消えたわけではない。
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翌朝。
畑は軽快だった。
足取りが違う。
鍬の音が揃う。
「やっぱ、減らすと楽だ」
「夜より昼」
「……でも」
“でも”が、あちこちで漏れる。
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昼休み。
木陰で、女たちが集まる。
笑い声は戻ったが、話題が変わった。
「夜が減るとさ」
「うん」
「昼に寄る」
「……どういう意味?」
「目が合う」
誰かが噴き出す。
別の誰かが肩をすくめる。
「それ、前からだよ」
「いや、増えた」
減らした分、
欲は別の場所に顔を出す。
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午後、板の前で一悶着。
「先生、夜の枠、増やせない?」
「理由は?」
「……我慢してる」
笑いが起きる。
半分は本気だ。
先生は板に書く。
制限=消失ではない
移動である
「移動?」
「はい。時間、場所、形」
「じゃあ、どうする?」
「分散します」
ざわめき。
「夜を減らす代わりに」
先生は続けた。
「昼の接触を許可します」
一瞬の静寂。
次の瞬間、どっと笑い。
「それ、余計じゃない?」
「監視、必要?」
「仕事進む?」
「条件があります」
先生は淡々。
「合意が見えること」
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夕方。
畑の端で、
荷運びの合間に、肩が触れる。
視線が合い、
小さく頷く。
「……今?」
「短く」
触れ合いは一瞬。
手が腰に回り、すぐ離れる。
見える合意。
「仕事、続けて」
「了解」
誰も止めない。
むしろ、流れが良い。
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夜。
灯りは一つのまま。
布も一枚。
「今日は、昼に使ったから」
「夜、静か」
「……落ち着く」
行為は起きる。
だが、短い。
昼に分散した分、夜は軽い。
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翌朝。
畑は、さらに回る。
「昨日、進んだな」
「うん」
「……変な感じ」
セラが笑う。
「減らしたら、増えたね」
「配置が変わりました」
「言い方!」
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昼、港の少年が言う。
「……欲って、減らすと、形を変えるんですね」
先生は頷く。
「だから、
押さえるより、通す」
「通す?」
「通路を作る」
少年は、板を見る。
書かれた言葉をなぞる。
制限は、設計である
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夕方、噂が走る。
「昼、許可されたらしい」
「短くね」
「効率的」
笑いが起きる。
軽い笑いだ。
夜が来る。
灯りは一つ。
慣れは続く。
だが、同じ形ではない。
教育は、
減らすだけでは終わらない。
欲の行き先を、設計する。
それが、
次の段階だった。
誤字脱字はお許しください。




