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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革農村編〜』  作者: くろめがね


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第十話 余った手、足りない居場所(慣れとはつまりマンネリである)

第十話です

夜は、もう騒がしくならない。


誰が来て、誰が休むか。

布はどこに敷かれ、灯りはいくつ落とすか。

段取りが決まっているからだ。


「……今日は、三」

「了解」

「短めで」


声は低く、事務的。

冗談は一言だけ混ざる。


「明日、畑だからね」

「はいはい」


笑いは出る。

だが、必要以上に弾まない。


それが、慣れだ。



翌朝、畑は回る。


夜に出た者は休み、

出なかった者が補う。

板には、もう説明が要らない。


「先生」

セラが、板を見ながら言った。

「最近、誰も文句言わないね」


「慣れました」

「……良いこと?」

「効率的です」


セラは鼻で笑った。

「怖い言い方」



昼前、余りが見えた。


畑の外れで、若い男が立っている。

鍬は持っているが、持ち場がない。


「今日は?」

セラが聞く。


「……外された」

「理由は?」

「余ってる、って」


余っている。

この村で、人に使われる言葉になった。


先生は板を出す。


手:余る

畑:足りる

居場所:不足


「都市需要が増えるほど、

 畑は減りません」

「でも、人は増える」


誰かが冗談めかして言った。


「夜に回せば?」

笑いが起きる。

半分は本気だ。


「夜も、枠があります」

先生は淡々。

「無制限ではありません」


男が苦笑する。


「……俺、夜も外された」


沈黙。

それは、どこにも居場所がないという意味だ。



午後、噂が回る。


「余ってるって、あの人?」

「夜も?」

「じゃあ……」


言葉は途中で切れる。

続きは、想像だ。


リーアが言う。

「先生、これ……慣れすぎじゃない?」


「はい」

「悪い慣れ方」


先生は否定しない。



夜。


今日は、人数が少ない。

布は二枚だけ。


「静かだね」

「楽」

「……少し、寂しい」


肩が触れる。

呼吸が近い。

触れ合いはあるが、急がない。


「先生」

「はい」

「最近、夜が仕事みたい」


「仕事です」

「……言い切るね」


小さく笑う。


行為は起きる。

声は抑えられ、

動きは短い。


慣れているから、早い。



翌朝、例の男はいなかった。


「どこ行った?」

「都市に、出たらしい」

「仕事?」

「……分からない」


セラが先生を見る。


「止めなかった?」

「理由がありません」


「……そう」


畑は回る。

人数は足りている。


板が更新される。


余剰は、外へ流れる



昼、港の少年が言った。


「……慣れると、楽ですね」


先生は少し考えた。


「楽は、考えないことと近い」


少年は黙った。



夕方、笑いが戻る。


「夜、二人で十分だったね」

「昨日の三、いらなかった」

「効率化!」


冗談は冗談だ。

だが、冗談の形で本音が出る。


先生は板を拭いた。

白い跡が残る。


慣れは、便利だ。

同時に、人を軽くする。


教育は、

慣れを早める。


だから、

時々――

止めて、考え直さなければならない。


誰を、

どこまで、

当たり前にするのか。


その問いは、

まだ板に書かれていない。


誤字脱字はお許しください。

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