2 くらくてこわいよる
また、夜が来ました。
昨日と何も変わらない夜…ではありません。
今夜は新月です。
それに曇り空が重なり、真っ暗な闇夜なのです。
昼間はあんなに晴れていたのに…。
女の子はいつも通り寝仕度を始めました。
だけどふと窓から空を見上げた時、
言いようもない不安が襲ってきたのです。
暗くて…怖いから…。
「仕度が出来たなら早く寝ましょう。」
お母さんの声です。
今日の寝かしつけはお母さん。
いつもはお仕事でいないので、女の子もワクワクです。
さっきの不安はどこへやら、
女の子は嬉しそうにベッドへ飛び乗りました。
今日は何のお話をして貰いましょうか。
…だけどベッドに横になった途端、
さっきの不安がじわりと戻ってきたのです。
読み聞かせをしようとするお母さんを見て、
ポツリと声をかけました。
「ねぇお母さん…。」
「どうしたの?」
「あのね…。」
「うん?」
いつもならハキハキ物を言う女の子が、
珍しく言い淀みました。
それでも何とか言葉を見つけて、お母さんに質問します。
「今日も、騎士様はお外でお仕事してるの?」
「どうして?」
「…あのね、お外真っ暗だから、大丈夫かなぁ?」
余程さっきの不安が気になったのか、
単に疑問に思っただけなのか定かではありませんが、
お母さんになら聞いても大丈夫だと思ったのでしょう。
お父さんは“お外の話”を嫌うのだと、
女の子は気付いていたから…。
「あぁ、今日は一段と真っ暗だものね…。」
お母さんは、外を見つめながらそう言いました。
そしてどう答えるべきか考えながら、
言葉を慎重に選んで女の子の質問に答えます。
「今日は皆がお休みの日だから大丈夫よ。
お母さんだって夜はお仕事で居ない事も多いけど、
今日は一緒に居れるでしょう?」
「お母さんは…ひばん?ってやつじゃないの?」
「…今日は違うのよ。
騎士の皆がお休みしていい日なの。」
「そっか、なら怖くないね。今夜は何かおかしいから。」
女の子の言葉を聞いたお母さんは、
子供特有の曖昧な感覚から出た質問だと思いました。
何となくの、不安や恐怖…みたいなものだと。
昼間の快晴との差が大きい今夜は、
大人にとっても不安を煽る状況だからです。
心配事が無くなって安心したからか、
女の子は読み聞かせの前にウトウトし出しました。
もう間もなく眠りそうです。
「お母さん…明日も……一緒に…あそぼ…ね…。」
「そうね。晴れたらピクニックに行きましょうか。
怖いのは今夜だけだから大丈夫よ。安心しておやすみ。」
「うん………。おばけ…いなくなる……よね…。」
「???」
女の子は謎の言葉を残して眠りに就きました。
おばけとは、何でしょうか…?
お母さんにはあまり馴染みのない言葉だったので、
夜に対する子供の不思議な表現だと思いました。
もしかしたら、お父さんだったら……。
多少謎を抱える事にはなりましたが、
早くに寝かしつけを終える事が出来たので、
女の子の頬を一撫でして寝室を後にしました。
お母さんが部屋から出て1人になった寝室で、
女の子は静かに寝息を立てています。
そんな中、窓辺にもやが現れました。
昨夜現れたものとは、少しだけ違うようです。
───オネガイ…ワタシタチヲタスケテ…
ドウカ…ヒカリヲモウイチド…───
幾つもの謎の声が、小さく響きました。
女の子を見つめながら、言うのです。
救いを求める…切実な声…。
女の子には聞こえない筈なのに、
ただひたすら繰り返しています。
そこへ、金色の眼を持つもやが現れました。
───マネコウ、ゼツボウノクニヘ…
イマハ、ヒトリデモオオク…───
その言葉を発すると同時にもや達は光り出し、
光は女の子を包み込みました。
しばらく光り続けた後、光は音もなく消えたのです。
女の子と共に…。
新月の夜、とある家から女の子が姿を消しました。
何の前触れもなく、痕跡すらも無く…。
ただ1つ、ベッドの温もりだけが残されていました。
お母さんは嘆き悲しみました。
何故側にいなかったのか…と。
涙に暮れながら、我が子の帰還をひたすら信じて祈っています。
お父さんは空を見つめて思いました。
あれは本当の話だったんだ…と。
一言も言葉を発する事無く、絶望をその眼に宿して…。
・
・
・
・
・
・
書斎にある『まっくらやみのくに 研究誌』
お父さんが読み聞かせた本でした…。
それは人知れず静かに光り、
やがて光は消えていきました。
そしていつの間にか曇り空は晴れ、
星が煌めく空へと変わっていたのです。
…あぁそういえば。
子供が消えたのがこの家だけで無い事は、
太陽が昇るまで誰も…気付かないのでしょうね…。




