表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/60

9. Now I’ve done it.

 朝のギルドでラカシアは受付のお姉さんと対面していた。例によって護衛の依頼を出しに来ている。最後の配達から二ヶ月が経っていた。


「以前担当していただいたジオさんにお願いできますか?」


「ジオ・トレハトゥクさんですね。あー……現在、彼への指名が殺到しておりまして……」


「えっそうなんですか?」


 肩にかけていたバッグがずり落ちる。

 あれだけ仕事に忠実であれば、人望を集めるのも納得できる。忙しいのなら無理を通すこともできない。


「でしたら、ザカリー・グマレイドさんはどうですか?」


「はい、大丈夫です。承ります」


 手続きを済ませ、体を反転させる。見覚えのあるローブが視界に入ってきた。

 あのローブはジオの持っているものと同じだーーというか本人だ。彼のほうは先にラカシアがいることに気づいたうえで、用事が終わるまで声をかけるのを待っていた。


 目が合うと彼の雰囲気が変わった。

 この町で経験を重ね、相応の自信に満ちた笑みを浮かべる。


「ありがとう」


「……え?」


 かけられたのはこんにちはとか久しぶり、とかの挨拶でもなく感謝だった。びっくりしてしまった。


「きみが俺の評判を上げてくれたおかげで依頼が増えた」


「なんのことですか?」


 首を傾げると、ジオは目を瞬いた。


「違ったか。きみの護衛を終えてから急に依頼が増え出したんだ。依頼人たちはみんなきみから俺のことを聞いたと言っていたんだが」


「……あ……っ!」


 彼と会えない原因を作ったのは他でもない自分だった。惚気とも自慢ともつかない、ジオの素晴らしさを人に話していたために、噂を聞いた人たちが「それだけ信頼できる人ならば」と次々依頼を出してしてしまったに違いない。


「ジオさんには仕事でほんとうにお世話になったという話をしただけで、その、私、ご迷惑をかけるつもりでは……!」


「迷惑なものか。言っただろ、感謝してる」


 やわらかく形を変えた目尻に、心臓が変な動きをした。うっと喉を詰まらせる。形式的なものでなく、心の底からラカシアのしでかしたことをありがたく感じているらしい。


「ジオさん、いいですか?」


 別な窓口の受付のお姉さんが手を振っている。


「呼ばれたので失礼する」


「い、いってらっしゃいませ……」


 これが自分の首を絞めるという行為かぁ。自分のしたことで彼に会える機会を減らしてしまった。実績がなかったために依頼人たちから避けられがちだったジオに依頼が集中することは喜ばしいし、着実に依頼をこなしているからこそその後の評判も上がっている。ジオの手柄なのに、ラカシアが褒めてくれたからという謙虚な人柄だからこそ、人気もまた上がるという好循環だ。

 配達のための護衛を次回こそはと頼もうとしていたのに、ついぞ依頼のいの字も言い出せなかった。


 出口にのろのろと進もうとすると、横からぶわりと不自然な光が散った。外が覗けるような窓が近いわけでもないし、切れた電灯が取り替えられたのでもない。


うさぎちゃん(ハニー・バニー)!」


 どういう仕組みか、発光源は人間だった。流れるような金髪が迫りくる。忘れたくても忘れられないこの男は。


「すみません、そういう呼び方やめていただけますか?」


「気に入らなかった? ごめん。ナターシャちゃんだっけ?」


 笑顔が崩れないように頬に力を入れた。


「……ラカシアです」


 そりゃあ知り合う女性が多すぎて美人でもないラカシアの名前など完璧には覚えていられないだろう。顔を認識されただけじゅうぶんだ。


「ああ、失礼。ラカシアちゃん。許してね?」


 手を差し出されたのを無視する。無視しても、ヘナシェはこぼれるような笑顔を保ったまま。だんだんこのまま仲直りの握手を受け入れないラカシアのほうが大人げないように思えてきて、仕方なく手を重ねた。くるりとひっくり返されて、ヘナシェが顔を近づける。奇妙な感触があったのは手首の内側だった。性愛を伝える繊細な部位でもある。落とされた唇に、不快感が膨れ上がる。


「……なにをっ……!」


 振り払って、ごしごしとハンカチで擦る。


「こんなのは謝罪ではありえないですよね」


「あれ? みんなこれで許してくれるんだけどな。花束も用意すればよかった」


 悪びれなく肩をすくめるヘナシェは問題を起こした自覚がない。ご自慢の美貌と愛嬌で周囲からは全てを寛容に受け止められてきたのだ。

 彼を無視して、ラカシアは飛ぶようにして帰宅した。


Now I’ve done it.

(やっちゃったぁ。)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ