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18. She reminds me someone.

 夜の “Solutions & Answers” に情報収集を頼んで、ジオはギルドからの連続依頼に日々没頭していた。魔物の討伐だったり、護衛だったりの力仕事が主で、繊細な依頼はあまり来なくなった。


 公園で過ごして以降、ラカシアには会えていない。だからといってジオが立ち止まるわけにはいかないから、依頼を受ける。ここぞとばかりに集中して、剣の腕を磨くことにした。




「左!」


 ウィステンの声は高すぎず、魔物の悲鳴にも負けなかった。振り向きざまに左に剣を向ければ、そのまま獲物は自ら刺さりにきた。


「いい反応」


 短剣を納めて、ウィステンは疲れた様子も見せず倒れた魔物を引きずり重ねていく。一、二、三……依頼にあった五体の魔物。これを収穫するため、ジオはウィステンと組んだ。


「なぁ、あたしたち息が合うよな」


「ああ、今回は助かった」


 パーティを組んだウィステンは笑顔を大きくする。


「祝杯といこうぜ、ジオ!」


「一晩で金を使い果たすなよ」


「なにそれ? 楽しめるときに楽しまなきゃ」


 刹那的な考えの持ち主らしい。




 ギルドで依頼達成の報告を出して、目についた店に入った。料理も悪くないし、酒は美味い。

 向かい合わせに座ったウィステンはにこにこというよりにんまりという表情が似合った。

 上から添えられた手は小さい。


「なんだ」


 かすかに眉間にしわを寄せながら、尋ねた。


「んー。ジオって、仕事で関わった人とは寝ないタイプ?」


 わかりやすい女だとは思ったが、狙いはそれだったか。


「……即物的なやつだな」


 褒めてはいない。なのに、彼女は得意げな顔をする。


「いいじゃん」


 長いこと旅をしていればたまにこんな夜があった。行きずりの人間と行動をともにすることに特別な感情も湧かない。まとわりつく腕は熱っぽいのに、遠い世界の出来事のようだった。


 昔にはそれなりの仲になったこともある。そろそろ過去を忘れる、ことはできずとも、建設的な人生を歩んでもよいのではないか、と悩んでいるときに出会った女性と。でも違った。定住しようと恋人になっても、じっとしていられず仇の情報を探し続けてどこまでも歩き続けてしまう。憎しみを押し殺して平穏な日々を楽しむフリをする自分が気持ちが悪かった。それで別れた。


 人は掴めないものを確かめたいから快楽に耽る。美しいとされるもの、幻想、愛とか繋がりだとか。だがついぞ、ジオがベッドで女からなにかを得たことはない。


 ただ空っぽなことを自覚させられるばかり。

 瞬間は満たされた、これで正しいと感じられても、すぐに錯覚だったと思い知らされる。

 体温を交換し終わっても無感動で、無機質な行為にしか過ぎなかった。


 それに。ーーそれに、なんだ。ウィステンの金髪を見て、なにを連想した。具体的に誰を。気分は底知らずに沈み込む。


「やめろ」


 今夜だけでなく、とてもじゃないがそんな心情にはなれない。

 手を外して、テーブルの端に置く。


「んじゃあ、気分になったときに。ね?」


「ない。期待するな」


 ねだられた乾杯に応えるだけに留める。


「そー言わずに! 朝まで飲もう!」


 星を数えるようになるまで、何杯を干しただろう。

 再三ジオが帰ると言い出してやっと、ウィステンは腰を上げた。


 犬が吠えた。警戒でも甘えでもなく、存在を嗅ぎつけたぞと知らせるため。大型犬と小型犬の一組がジオへ向かってきた。二匹の主人は若い女性で、ジオとその横にくっついているウィステンに目を見開く。


 ぎくりと心の軋みを覚えた。ウィステンとは夜が明けるまで飲んでいただけで、飲んだくれていたことを知られたからといって気まずいわけはないのに。


「あ……おはようございます」


 男女に軽く頭を下げたのはラカシアだった。絡んでいたウィステンの腕をそっと解く。しかし彼女は引くこともせず、距離は変わらない。


 日の下で比べると、似ていると思った髪色は全く違った。黄色系統ではあるが、緑の影があり、ほんのりオレンジががったラカシアのほうがあたたかみがある。とうもろこし色(コーン・イエロー)のウィステンは砂っぽくてぼやけて見えた。


「おはよう。散歩か?」


 彼女の父親からは「娘と会うな」と言われてはいるけれども、これは待ち合わせてもいない偶然の出会い。二人きりでもない。挨拶するくらいなら、許されるのではないか。


 首輪から伸びる二本の散歩紐をゆったりと束ねて、ラカシアはそれぞれの犬の頭を撫でた。


「はい! 番犬なので半分はお店に残して交代でお散歩してます。いまはキックとバウの時間です」


「チューイーとワウは後で行くのか?」


「そうです。この子たちの名前覚えてくれてたんですね」


 心なしか犬たちも嬉しそうにしている。


「覚えやすかったからな」


「ふぅん、面白い名前」


 ウィステンがしゃがみ込んで、バウに手を伸ばす。綿毛のようにそよぐ毛玉はふわふわとしながら彼女の手のひらに鼻を押し当てた。


「いい子だ。かーわい」


「ありがとうございます。そっちの子がバウです」


 ウィステンは上を向いた。


「あんたも、ジオと寝た?」

 

 ラカシアとともに凍りついた。

She reminds me someone.

(誰かに似ているような。)

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