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13. My biggest failure.

 先ほどから腕組みをしてにやにやと、ジオの隣にいる男がうっとうしい。今朝ラカシアが退(しりぞ)けたばかりだというのに。癒されてほぐれたばかりの疲れが再び凝り固まりそうだ。


「仕事なら直帰してるんじゃないの?」


 ラカシアから断られて暇していたであろう男は、こちらまでもが依頼主とデートにきたのだと決めつけている。


「寄り道したいというから従っただけだ」


「ふうん。僕らはデートだけどね」


 一日楽しんでいたのだと強調してくる。ご自慢の彼女はいまヘナシェのそばにはいないくせに。


「離れていったぞ。愛想を尽かされたんじゃないか」


「やだなぁ、嫉妬? きみのラカシアを見つめる目って真剣すぎて怖いよ」


「護衛対象だからだ」


 唇を歪ませたヘナシェを睨みつける。挑発的で、ぬるぬるとした性格だ。こいつとは根本的に相入れない。名前もまともに覚えない女に付き纏うし、何がしたいんだ。




「きゃあっ!」


「メイシー、どうした?!」


 視界いっぱいを遮られていたため、ヘナシェが振り向くまでなにが起こっているのかまったくわからなかった。


 目につくのは赤い花ばかりで、ラカシアがいない。草花の背丈は高くても腰まで。なのに立っていたラカシアがどこにもいなかった。気配はそこにあったのに。ヘナシェと一緒に来た女の体が傾いでいく。


 護衛中だから離れるなと言ったのはどこのどいつだ。護衛しなければいけないのに、目を逸らしてしまった馬鹿は。


 明らかに気が緩んでいた。配達は終わっていたし、戻るべき町が目の前になってこれだ。

 一旦腰を下ろして、長閑(のどか)な空気に釣られた。ヘナシェに調子を崩され、不愉快さに意識を乗っ取られてしまった。


「ラカシア?!」


 気配のあった場所に彼女は倒れていた。ヘナシェも隣で膝をついている。



 ブブ、と虫の不快な羽音がした。ラカシアの腕の近くにとまっている蜂にも似た、昆虫が息絶えようとしていた。


 腹部が半分消えている。消失部分はラカシアの腕の内側に痛々しくも刺さっていた。皮膚が変色しはじめ、じわりと広がっていく。毒か。ここからアレンサールに帰るまで十五分もかからないというのに。

 冒険者としての経験の差か、さすがにヘナシェは落ち着いている。女を抱え上げる腕も震えていない。


「病院に行くよ」


 ジオの返事を待たずに行ってしまった。




 ラカシアは万が一のために少量ずつ薬を持ち歩いていた。ジオにも説明してくれたから覚えている。毒への効果は不明だが、軽い傷なら数分で塞がる。上着のポケットに入れていた。


「勝手に使うぞ。薬だ、飲んでくれ」


 ラカシアの上半身を支えて、薬瓶を口に押し当てる。耳は聞こえているようで、唇が開いた。瓶を傾けて流し込み、飲み込んだことを確認した。


 彼女は自分の体を抱きしめるようにして丸まっている。呼びかけても、反応する余裕はないようだ。ぽかぽかの陽気の下で凍えている。


 ジオはローブを脱いでラカシアに巻きつけた。抱きしめて、余計なことを考えようとする脳を無理やり止めて病院への道のりを思い出すことに集中する。


 町には着実に近づいているのに、それよりも早くラカシアの血色がどんどん引いていく。体の震えが弱くなってきた。体温も維持できなくなってきている。




 救急口に駆け込む。


「急患だ。こいつに刺された」


 包みには虫の上半身が残っていた。空になった薬の小瓶も転がった。ラカシアと虫を見比べて、看護師の表情が険しくなる。


「先生! 二人目が来ました!」


 ヘナシェが女を運び込んだ後らしい。説明の手間が省けて助かった。


「薬を飲ませたが効かない」


 彼女の緊急連絡先などを聞かれ、実家である店の名前を出した。答えられる範囲で看護師からの質問に答えながら、手を開いては閉じる。汗が気持ち悪い。


 あっという間にストレッチャーに乗せられて、ラカシアはジオの手を離れていってしまう。あとは医師に任せるしかない。


My biggest failure.

(最大の失敗。)

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