プロローグ 異世界の姫
わたくし、リリス・フォン・シュットガルトは、本日より魔王を名乗ります。
「……魔王?」
思わず声を漏らしたのは、御側付きのセバスだ。
「そうですわ! 目の前で横たわられておられるお二人が勇者様なのですから、そのお二人を欺き利用する私は勇者の敵。まぎれもなく魔王です!」
長いピンクの髪を少し揺らし大きな瞳をぱちくりと開け17歳の少女は高らかに宣言し自信満々に豊満な胸を張る。
リリスの面前には大きく強固なガラス包まれた30畳ほどの部屋があり、中央には太い赤や黄色のコードがいくつも伸びた酸素カプセルのような装置が2つ横たわっている。
その装置には14、5歳ほどの少女が1人づつ入れられ眠っていた。
1人は空色の髪を持ち短髪で身長140cmほどと比較的小柄な体躯をしており、もう1人の方は金髪長髪で150cmほどの背丈をしている。
2人とも顔立ちは非常に整っており、まるで天使のように美しい寝顔をしていた。
リリスはシュットガルト王国の姫であったが、帝国ガルガンドによって国は滅ぼされ、逃げる際に禁呪転移魔法を使い何とか生き延びた。
しかし、行きついた先は異界の惑星国家アンティオぺであった。
アンティオぺは何もかもが違っていた。文化も技術力も何もかもだ。
まず、魔法がなかった。いや、魔法と見間違うほどの技があった。
それを彼らは宇宙科学であると教えてくれた。魔力を使わない代わりに別のエネルギーを使うものだった。例えば、重力制御というものがあるらしい。それを使えば、空に浮くことも、海の底で息をすることも自由自在だというのだ。
そんな夢のような話があるのかと思ったが、実際に見せられて納得した。確かにこれなら空を飛ぶのは簡単だし、水の中でも呼吸ができる。
アンティオぺには見たこともないような道具が数多くあった。
しかし、資源がなかった。
そこで彼らはリリスが身に着けていた装飾品に目を付けた。
シュットガルト王国ではただの装飾でしかない石が、アンティオぺでは宇宙科学の根幹をなす資源であったのだ。
リリスとアンティオぺ宇宙科学局は一つの計画を立てた。
それは資源とアンティオぺ人が異世界で生存できるかの実験を兼ねて、2人の少女を勇者として異世界に送り込むことだ。
アンティオぺのおとぎ話にある異世界を救う勇者のように。
かくして、リリスと何も知らない2人の異世界勇者の少女によるシュットガルト王国復興と惑星国家アンティオぺ存続のための冒険が始まった。