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人間界逃走の果てに  作者: コサイン
7/14

逃走7:いつの間に

ふぅ~やっと話が進みそう



只今午後2時15分。



無事ダルビンから逃げ出し、テストを終えたヴァンはシュメイルの家の客室でシュメイルと優雅に紅茶を啜っていた。


外からはさんさんと日が射し、客室の窓の白いカーテンがフワフワと風を取り込んでいる。


「美味しいですわね…。」


「そおだなー。」


「テスト間に合って良かったですわ。てっきり間に合わないかとこちらは冷や冷やしていたのですわよ?」


「ははっ、すまんすまん。」


シュメイルは拗ねたように口を尖らせ、上目遣いになった。


「それにしてもヴァンジルドさんを襲うやからがいるなんて許せませんわ。私がその場にいれば即刻排除してやりましたのに。」


「まあ、あのオカマはベルがなんとかしてくれてるだろ。俺があの時麻痺してなければズタズタにしてやれたんだがな。」


「ベルもその場にいたのですか?

ヴァンジルドさんだけ戻って来たからベルとは会わなかったのかと…。」


バンッ!


客室の扉が荒々しく開けられた。噂をすれば…


「ヴァ~~ン~~?」


ベルだった。身体中に青痣を付け満身創痍といった状態で立っている。


「あんたよくもあたし一人に戦わせて自分だけ逃げたわねぇ……?」


「そうだっけ?」


ヴァンはわざとらしくとぼけた。反省する気は毛頭無いらしい。


「とぼけないで…?

あんたがあたし一人にあんな変態任せるせいで見てよこの痣!

ダルビンだか何だか知んないけど、あたしにやられるうちに急にドMに変化して!

もういいかなって攻撃止める度に『もっとやってン~』とか気色悪い声で攻撃して来たのよ!?」


セリフが長過ぎたのかゼーゼーと息をするベル。

「おつかれちゃん。紅茶、飲むか?」


ヴァンは飲んでいた紅茶を差し出した。ベルはそれを無言で奪うとゴッゴッゴッと豪快に飲み干す。――どうやらヴァンとの間接キスだから嫌!など言ってられない程喉が渇いていたらしい。


ベルは飲み干すと口を拭った。


「……ふっ、とにかくあんたを殺さなければ気が済まないわ……死になさい?」


いかにも魔法使いです、という感じの長い杖を空中から取り出し構えた。その動きに合わせ杖の先に付いている赤い宝石がボウッと輝く。


「待ちなさいベル!大体の事情は分かりました!ヴァンジルドさんは悪くないですわ!」


シュメイルはサッとヴァンを守るように飛び出すと、両手を広げた。


「ベルよりもテストの方が大事だった、ただそれだけの事ですわ!」


その言葉にベルはたじろいだ。


「なっ…!そんな事な……って頷くなそこぉっ!!」


見ると、シュメイルの言葉にうんうんと頷くヴァン。


「シュメイルの言う通り事実だ、諦めろ。」


「諦めるべきですわよ、ベル。」


「~~~~~~~っ!


二人とも………大っ嫌い!」



ベルはバタバタと屋敷を出て行ってしまった。


「…大っ嫌いとか言われたな。シュメイル、お前ら親友だろ?いいのか?」


何事もなかったように再びティータイムを始める二人。シュメイルはにっこり笑って答えた。


「いいのですわ。これからの恋のライバルになるであろう相手は今のうちに叩きのめしておかなければ!」


「??


ならいいけどよー。」


コンコンコン。


ベルが出て行ったばかりの扉がノックされた。


「入っていいですわよ。」


部屋に入って来たのはスーツの似合う白髪のお爺さん。彼はきちんと一礼すると柔らかな物腰で話し出した。


「お寛ぎの所、失礼します。ヴァンジルド様の学校の荷物の準備が整いました。」


「学校の荷物…?」


ヴァンは首を傾げた。意味が分からない。まだテストに合格もしてないのに?


「ありがとう、祖父や。下がっていいですわ。」


祖父やはまた一礼すると静かに部屋を去った。非常によく出来た祖父やである。


「なあ、学校の荷物って何だ?俺まだ受かって無いぜ?」


「ふふ、何言っているのですヴァンジルドさん?ちゃーんと学園に合格した証のバッチを付けてるじゃないですか。」


「は…?」


……なるほど。

ヴァンのティーシャツの左胸にはしっかりバッチが付いていた。杖と剣が交差したデザインでキラキラと金色に輝いている。


「……いつ付けられたんだ?」


「実は試験会場だった場所には魔方陣が描かれているのですわ。その魔方陣は審査員が合格だと判断すると、気付かれないよう密かに合格者の左胸にバッチを付けるのです。」


気付かれないようにするのは学園側の遊び心で、受験者が家に帰って鏡を見てびっくり!――というのを期待してるのですわ、とシュメイルは笑顔で語った。


「遊び心ねぇ…まーいいや。」


ヴァンはクリクリとバッチをいじっている。


「学園に行く準備してくれてありがとな。」


そう言って笑いかけた。


ボンッ!


シュメイルは耳まで真っ赤になってしまった。


「いいえー。どうせ日曜日で暇ですし、―――ヴァンジルドさんのお役に立てれば私は幸せごにょごにょ。」


「ん?

最後何て言った?」


「あ、あ、明日から学園に通うからちゃんと起きるように!と言ったんですわ!そうですとも!

明日から学園に…」


「二度言わんでいい。





………つーか、明日から、なのか………?」




何で俺だけ聞いてない事ばっかなんだ、とヴァンがうなだれるのは当然であった。


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