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人間界逃走の果てに  作者: コサイン
6/14

逃走6:なんでも屋

なんか…テスト受けるまでが長いな…



ベルは走っていた。時間を無駄にしたくないというのもあるが、何よりA番地が予想以上に広かったのだ。


(もぅ!早く出てきなさいよっ!)


ある程度走っては立ち止まって辺りをキョロキョロ見回す。気付けばベルはそんな動作を繰り返していた。


探すのを再会してから一時間経つが、シュメイルの従者達から一向に見つかったぞという連絡が来ない。今頃、従者の皆もベルと同じく、なかなか見つからないヴァンに対して焦りを感じているだろう。


――あれは……!


ベルの目に飛び込んで来たのは『なんでも屋~探し物から人殺しまで!』というノーマルな事から危ない事まで書かれている古ぼけた看板。


「探し物……。」


ヴァンの顔が浮かんだ。


もしかしたら『なんでも屋』に頼めばあっさり見つかるかも知れない。


「おおおゃ、お嬢ちゃん『なんでも屋』に御用かね?」


「きゃ!」


看板をまじまじと見つめていたせいか、目の前の老婆に気が付かなかった。


老婆は歯の抜けた口をにいっと歪ませ笑う。


「ひっひっひ!

驚かせてしまったねぇ。まあお入りよ、依頼の手続きは中でね。」


「え……と。」


どうしようか。何だか断り辛い雰囲気である。そうしている間にも老婆は有無を言わさぬ力でベルを『なんでも屋』の中へ引っ張り込んでしまった。


『なんでも屋』中は外から見たのとは違い、綺麗な内装だ。


血のように真っ赤なソファー、部屋の所々に飾られた骸骨がベルにとってマイナスだが。


「そこのソファーに座って待っときな。アタシはお茶を入れて来るよ。」


老婆はそう言い、のそのそと部屋を出て行った。ベルはしばらくソファーを見つめていたが、えいっと座り老婆を待つ事にした。


ベルが座って数秒もしないうちに、おぼんにお茶を二つ乗せて老婆が戻って来る。


「待たせたね。

さあ、お嬢ちゃんの依頼を聞こうか…そう固くならんでよろしい。」


老婆はおぼんをベルの前のテーブルに置くと、自分はドカッとテーブルの余りのスペースに座った。その拍子にテーブルが揺れてその上に乗っているコップのお茶が零れたが老婆は気にしないようだ。


「あの…あたしお金が…」


申し訳なさそうに手持ちがない事を告げると、老婆はアタシは気にしないよと手を振った。


「アタシが貰うのは物さぁ…。無かったら取りに行って貰うだけさね。」


「はぁ…。」


何やら大変な事になりそうだとベルは思う。そういうのは大抵なかなか手に入らない物だったりするのだ。


――もう、ここまで来てしまったからには後戻りは出来ない。どうにでもなれ、よ!



「実は、ヴァンジルド=ドレイン=クリファストという人を探してい」

「ヴァンジルドだと!?あの子が人間界に来ているのかい!?」


ベルは老婆の様子に目を見開いた。ヴァンを知っているのだろうか。


老婆は興奮した、それでいて慌てた様子でテーブルから立ち上がると部屋の中をブツブツ呟きながら行ったり来たりしている。


時折「許婚」やら「淫魔王」やら聞こえるがハッキリとは聞き取る事が出来なかった。


「それで、アンタはヴァンを探している、それでいいんだね?」


今は仕事中なんだと思い出したのか唐突に聞いてきた。


「そ、そうです。」


「よし、今すぐ探そうかね。

物は後払いって事でいいよ。」


そう言うなり部屋の奥に引っ込んだかと思うと、次の瞬間には両手に埃をかぶった大きな水晶玉を持ってえっちらおっちらやって来ていた。


「ハァ~どっこいしょ。」


ドンッとテーブルに水晶玉が置かれ、またもやお茶が暴れる。……コップの回りはビショビショで悲惨な状態である。


ヴィン…!


老婆が水晶玉に手を翳すと透明な水晶玉に光が灯った。学校でも水晶玉を扱う人を見た事がなかったので思わず目を奪われる。(一年生の間は水晶玉を使う授業が無いのだ。)


水晶玉に映し出された街の様子が飛ぶように流れて行く。早送りの映像を見ているようだ。


映像はいきなりある場所で止まった。そこに映し出されたのは…


「っ!

何やってんのよあんの馬鹿ーっ!!!」


ベットの上でヴァンと女が濃厚な口付けをしているところだった。

今のヴァンは上半身裸の状態で女に馬乗りされていた。若干辛そうな顔をしているが、特に抵抗もせずに何度も何度も角度を変えて迫る女のキスを受け入れている。


――実際、抵抗せずに受け入れている訳では無く抵抗出来ないからなのだが、誤解されるのには十分だった。


「場所を…教えてください。」


ユラリと立ち上がるベル。


「おや、あちらは取り込み中のようだけど…行くのかい?」


ベルはコクリと頷いた。





「あいつを……殺しに行く……。」




おかしい。ヴァンは口付けされながら顔をしかめた。


(全く精気が吸えねえ!)


――ヴァン達淫魔にはキスの種類が三つある。

一つはヴァンがベルの前で披露した記憶を奪うキス。

もう一つは精気を奪うキス。(このキスは特別で淫魔が男ならば女、淫魔が女ならば男相手でないと成功しない。)

そして最後は愛情のキスだ。


ヴァンはダルビンの精気を吸うことで力を得、体の麻痺を吹っ飛ばそうとしているのだが、どうもうまくいかない。


「ふっ」


息が漏れた。

ダルビンの舌が口内でのたうち回っている。


唐突にヴァンは気付いた。


(そうか!こいつは、ダルビンは…)


ダルビンの口が離れた瞬間ヴァンは絶叫した。


「お前!!


男、だろっ!!!」


男呼ばわりされたダルビンは否定するのかと思いきや、口を尖らせて肯定した。


「そうだけどン?心は女、身体は男だけど何かン?」


「何かン?………じゃねえ!俺は男とする趣味はねえよっ!」


「フフン、これから毎日する事になるのよン?

…まあ、気付かれたのならもういいわン。」


バサリと豪快に白いワンピースを脱ぐダルビン。脱いだワンピースをベットのしたにパサリと置くと、恥ずかしそうにヴァンを見つめた。


ダルビンの今の姿は女の子用のパンツ一枚だけ装着している状態だ。


やはり胸は…見事にツルペタだった。


ダルビンはヴァンのズボンに手を掛けて叫んだ。


「これからが本番よおぉおン!!!」


「ぎゃああぁああぁあ!!!!!!!!!!」


ヴァンの叫び……ではなかった。


ダルビンの手がズボンに手を掛けたまま固まる。ヴァンはホッと息をついた。


「今叫んだのは誰なのン!?」



見ると、部屋のドアの前で立ちすくんでいる少女が一人。


「ベル……!?」


ベルはショックを受け、うわ言のように「男同士で…」と呟いていた。


「ベル!ベル!

聞いてくれ!俺はこんなの趣味じゃねえ!」


「ヴァン…嘘でしょう?」


すっかり生気のなくなった目でヴァンを見つめ返すベル。明らかに信じていない。


「ほんとほんと!

だから助けて!?」


「そうはさせないわよ~ン!!??」


邪魔が入った。

ダルビンが敵意のみなぎった目でギラギラとベルを睨む。


「いきなり現われた小娘!ヴァンを懸けてアタシと勝負しなさあいン!?」


「勝負…」


ベルの目に光が灯った。


「へぇ、あんたあたしに勝負を挑もうっての…!?」


いきなり勃発する女と男女の戦い。


ヴァンは二人がキイン!と金属音を響かせ衝突する様子を見て思った。


(最悪だ。これ長引いたら本当にテスト間に合わねぇよ…)


俺の身体はまだ動かねえのか?と指を試しに動かしてみる。


ピクッ


(やったあ!?

少し動かしにくいけど動ける!)


ヴァンは二人が戦いに夢中になっている間にチャンスとばかりに逃げ出した。


部屋を出る間際に見た物は、ベルがダルビンにアッパーを食らわしている所だった…。



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