逃走14:マイケル
お久し振りです(*゜ω゜)そして明けましておめでとうございまーす!
久々の更新です⊂(^ω^)⊃
実は今回2回書き直しました!
まぢ大変でしたよ!だいぶ書いた後に書き直しですからね(´∀`)ゲロー
「ふィー、つっかれたー!」
昼休みが終わる5分前に教室に戻って来たヴァンが派手な音を立てて椅子に座る。
その様子を離れて見ていたベルだったが、ヴァンが破れたワイシャツを着ているのを見て、ブレザーを返してない事を思い出した。
アイツに返さなきゃ。
目立たないように、慎重かつスムーズに!
ブレザーを握り締め、ブツブツ呟きながらヴァンの席に近付く様子は怪しいという以外言葉がない。
「早かったね。1、2時間くらい怒られると思ってたのに残念だなあ。」
「ちょっと待て。笑顔で言う事じゃねぇぞ?」
「ふふ、そうかな?」
ヴァンとケルンの会話が聞こえる。
二人はベルに背を向けて座っているのでベルの接近にまだ気付かないようだ。
ベルは何故か少し早まった鼓動を沈めようと自分に言い聞かせた。
ただ『忘れ物よ』って突き返すだけ!ただ『忘れ物よ』って―…
「アレ!?
ベル=ヨーク!!お、俺によよ用事かあァっ!?」
クラス一うるさい男、ジャックリーがベルの接近に気付いた。その大声にヴァンとケルンは何事かと振り向く。
「あんたになんか用はないわよ。用があるのは…」
「出たあぁーっ!出ましたツンデレ!
俺に対してツンツンですかぁー!?ということは俺の事…好・き?
カァーッ!参っちゃうぜ!!止めろよこんなとこで愛の告白はあぁーっ!!」
お前は馬鹿かと口を開こうとしたその時、ヴァンが面白そうな口調で言った言葉に邪魔された。
「へぇー!ベルってジャックリーの事好きだったんだ。愛の告白なら俺たち邪魔だなー。他のとこ行こうぜケルン?」
「は!?ちが…」
「そうだね。後五分くらいで授業始まっちゃうからジャックに告白するなら出来るだけ短めによろしくね。」
達者でな~!とヒラヒラ手を振りながら離れて行くヴァン達。
「ち、ちょっと!」
「さあ!!ドーンと愛をぶつけていいんだよ!?」
ジャックリーは両手を広げてベルを受け入れる体勢に入る。
「ばっかじゃないのっ!?待ちなさいヴァン!!」
キーンコーンカーンコーン
「着席しろー!チャイムが鳴ったぞ!」
始業のチャイムと同時に召喚術の授業担当であるマイケルが入ってきた。
「あれ?あと五分かと思ってたんだけど……僕の時計遅れてたみたいだね。」
腕時計を見て着席しながらどうでも良さそうな口調で言うケルン。ヴァンはベルをちらりと見て、残念そうな顔をした。
「惜しかったなー?
告白には時間が足りなかったみてぇだ。」
「んなっ!?
だから違うって…」
「おいそこの二人!
着席だ着席!」
「はーいよっ。」
否定しようとした所、マイケル先生のお咎めが入った。
――これ以上先生の授業の邪魔をする訳にはいかないわ。
ベルはマイケルの堪忍袋が早くもはち切れそうなのを感じていた。
何故かと言うと、マイケルのこめかみに立派な青筋が立っていたからだ。
仕方ない。次の授業の合間の休みに返そう。
何故かどっと疲れたベルは足早に自分の席についた。
それを確認したマイケルは満足げにフガフガと不思議な音を出す。
説明していなかったが実はマイケル、相当の巨漢だ。
真冬が来てもそう寒さを感じなさそうな分厚い脂肪という防寒具。ポッと紅い頬は別に恋をしているのではない。
口調は偉そうだが、愛嬌のある容姿とミスマッチな為全然怖くない。
密かな人気キャラクターことマイケルはつぶらなキラキラした青い目でクラスを見回す。
クラス中が何か来る!と察した時、元々声が高いので威厳を持たせる為かわざと低い声でマイケルは言った。
「今日は使い魔を召喚したいと思う!
召喚する呪文は教科書21ページを参考にしろ!さぁ机を後ろに下げなさーい!」
いきなりかよ!聞いてないわ~!などの声が一斉にクラスから上がった。
そんな中、ヴァンは不思議そうな顔で生徒を見回している。
ベルはその様子に気付いていたが、その事をシュメイルに言おうものなら、ベルがヴァンを注意して見ていたという点で変に勘繰られては困る。
グッと相談するのを堪え、黙って机を下げることにした。
ガタガタと全員の机が教室の後ろに寄せられる。
とうとう教室の前半分には大きな魔方陣が一つ書ける程の空間がポッカリと空いた。
「使い魔召喚用の魔方陣は間違えると危ない、うん、非常に危ない。したがって僕が特別に魔方陣は書くとしよう。まあ今回は僕も少しばかり手伝うが、いつも先生を当てにしてはダメだ。」
ここでマイケルは生徒を見回す。
「分かったか、返事は?」
クラスからは、はーい、という気のない返事。
マイケルはそんな生徒達の反応には既に慣れたのか気にした様子も見せず、ウム、と低く頷くと白いチョークを右手に持ち大股に教室の空いた空間に歩み出た。
カッカッカッという無機質な音が教室に広がる。
今から『使い魔召喚』というものがあるらしい。俺にはよく分かんねーけど。
ヴァンは無表情で、頬を紅潮させた豚肉が必死に魔方陣を書いているのを見ていた。
「ね、ヴァン。君の魔界では使い魔とかはいたの?」
ケルンは興味津々だ。
「使い魔かー。使い魔を使用する悪魔なんて聞いた事ねーよ、必要ねーもん。それに同じ魔界に住む仲間をこき使う事は好まねーんだよ。」
ヴァンはそこまで言って軽く目を閉じた。
「そっか…ごめんねヴァン。僕ら人間が使い魔と言っているのは君の仲間だもんね。勝手に召喚してこき使う。最低だね人間って。」
シュンと肩を落とすケルンにヴァンは少し驚いたようだ。
「いや、俺は別にいーぜ?人間は弱いから使い魔がいねぇとやっていけねんだろ。それに使い魔も使い魔で人間から相応の見返りでも貰ってるみてーだしな?」
「そうだけど…」
「なら気にすんなってー!お前は人間、だから使い魔が必要!いちいち悩んでたら禿げるぜー?」
「…ありがとうヴァン。」
一方マイケルはヴァン達が話しているうちに魔方陣を書き上げたらしく、額の汗を拭い、手に付いたチョークの粉をパンパンとはたいた。
「完成だ。誰か先に召喚してもいいって奴挙手しろ。」
すると、ヴァンを含む数名の生徒を除いた生徒全員が手をサッと上げる。
使い魔召喚は人間の生徒ならばずっと憧れていたので無理はない。
「よし、よし。皆やる気だな。良い事だ。」
マイケルは揉み手をしながら誰を最初にしようかと生徒を一人一人見ていったが、手を挙げずにボケッとしているヴァンに目を止めた。
「お前は召喚をやりたくないのか?」
と、訝しげに尋ねる。
それに対し、ヴァンは困ったように腕を組んだ。
「俺は悪魔だ。使い魔なんかいらねー。」
マイケルの眉毛が吊り上がった。ついでに鼻息も荒くなる。
「悪魔、だと?
……ほぅ、なるほどな。」
なるほど、なるほど…と言いながらしきりに頷くマイケル。
「ではお前はこの授業を見学…でいいのだね?」
「ま、そういう事だ。」
「よろしい。
…では、ケルン=ピン。最初に召喚をやりなさい。」
その後は順調に召喚は進んでいった。使い魔召喚の方法は一人ずつ魔方陣の前に立ち、呪文を唱えて魔力を流し込む。魔方陣から青や赤など人によって違う光が溢れだし、次の瞬間魔方陣の中に個性豊かな魔物がいて、それらと契約するだけ。
ちなみにケルンは、見た目可愛らしい黒猫。ジャックリーはとぐろを巻いた大蛇だった。
人間界にいるただの動物だと思う者がいるが、人間界にいる動物と決定的に違う点が三つある。
一つ目は人語を解すること。
二つ目は変身できること。
三つ目は当然、魔力を持っていることだ。
変身すると言っても、人間の姿になるだけでいろんな動物になれるという訳ではない。そんな都合の良い使い魔がいたら見てみたい。
ヴァンは何もする事がなく、使い魔に目を輝かせる生徒達を欠伸をしながら眺めていた。
暇すぎる。
窓から外を見ると、外で走り回らないと勿体ないくらいの天気だ。
「お…ヴァ…」
何か聞こえる。空耳?
「…い…ン」
まただ。耳か?俺の耳がおかしいのか?
「おいィィ!!ヴァンんん!!」
「うるせぇぇーっ!!
耳元で叫ぶなァー!!!」
ドカッ!
ヴァンの強烈なパンチで吹っ飛んだソレは教室の壁にぶつかり、ズルズルと床に落ちた。
「あー!ガーグ!!
どこ行ってたんだお前ーッ!!?」
壁に叩き付けられたのはガーゴイルのガーグだった。今では元の大きさに戻って床でヒクヒクしている。
幸い、クラスメイトが使い魔を召喚する際におこる大きな音や興奮した叫び声のおかげでヴァン達のやり取りに気付く者はいなかった。
…ただ一人を除いて。
クイクイッとヴァンのシャツが引っ張られる。
ヴァンの後ろに立っていたのは、
「またガーゴイルと騒ぎを起こす気?」
とばかりにしかめっ面をしたベルだった。
彼女は肩にカラスをとめている。どうやらこのカラスがベルの使い魔になった魔物なのだろう。
「何の用だァ?俺はもう騒ぎなんて起こす気はねーぜ。それと、ジャックリーに告白したいから協力してっていう願いならゴメンだ。めんどくせぇ。」
ヴァンは白目を剥いているガーグから目を放さずに言った。その言葉にベルは頬をプクッと膨らます。
「だから!違うって言ってんでしょっ!?
…これ返しに来たの!」
バサッと頭に被せられたのは黒い男子用のブレザー。もしかしなくても昨日ヴァンがベルに掛けてあげたアレだ。
「コレ…」
「ソレ、汚れてなかったけど一応洗っといたから!感謝しなさいよね馬鹿!」
そう言うや、踵を返して立ち去ろうとしたベルの腕を咄嗟に掴んだ。
「ベル!」
「?
…何よ。」
訝しげな表情のベル。
「や、お礼を言いたくてよ…ありがとな。」
そう言ってヴァンは笑顔を見せた。
ベルはぼーっとそれを見つめていたが、使い魔のカラスが一声カァと鳴くとハッとしたようにその場を離れて行った。
「その手には乗らないから!」
という謎な一言を残して。
「何言ってんだアイツ?」
教室のヴァンから離れた位置に落ち着くベルを見てポツンと呟くヴァン。数秒遅れて、
「う…いてぇなヴァン!思いっきり殴りやがって!昇天するとこだったぞ!?」
ガーグが目覚めた。
「あのな、俺の耳元で叫んだのは誰だ?トイレを俺と壊したのは誰だ?トイレの弁償代を俺一人に任せたのは誰だ?」
「オレしかないじゃん!」
「胸張るな馬鹿野郎!」
ボコッとガーグの頭が殴られる。
「痛い!」
「何しに来たんだー?
ノコノコとォ!!」
「や、ごめんってぇ!
指鳴らすな怖い!
会いに来たのは逃げたお詫びとしていい事を思い付いたから!」
「…い―」
ヴァンが不審そうに聞き返した言葉は教室から発生した大きな歓声によってかき消された。
なんとタイミングの悪い。
何事かと歓声の原因を見てみると、クラスの視線を独り占めしていたのはなんとシュメイルとその使い魔だった。
シュメイルの掌には白い翼の生えたモルモット。モウスルと言う魔界では活火山に住む事で有名な生き物だ。
生徒達が歓声を上げたのはその容姿の可愛さからだろう。
挙動不信に辺りを黒いつぶらな目で見回し、シュメイルの掌にうずくまる様子は確かに可愛い。
あぁ、そんな事はどうでもいい、とヴァンは頭を振ってモウスルから目を逸らした。
「いい事って何なんだ?」
「オレが淫魔王様に許婚の話を考え直して貰えるように頼み込んでやるって事。」
自信無さげなその言葉はガーグ自身、考え直させれる訳がないと言っているようなものだった。
教室の片隅でガーゴイルが密かに姿を消した。
それを見届けたヴァンはふぅっと息を吐き出し、壁に寄り掛かって教室の様子を確認する。
もうクラスの殆どの召喚を終えたようだ。
それぞれ使い魔と和気あいあいとコミュニケーションを取っている、が。召喚術の担当の人気キャラクターことマイケルは名簿と生徒たちとで視線を行ったり来たりさせていた。
「今日はフィリップ=ショックスは来てないのかね?職員室に連絡も来てないようだが…誰か知っているか?」
あ、やべー。
ヴァンのこめかみを冷や汗が伝った。
昨日性格変えて寮の外に放り出したんだっけ?
まあ、いい。知らねーっとぉ!
ふとベルと視線が交差した。
ヴァンを疑っている様な目付き。ヴァンは、それでも俺はやってないとばかりに澄した顔で対抗してみたが、それが却ってベルの疑いを強めたらしい。
ヴァンに睨みを効かせつつ生徒達を掻き分け、肩に使い魔をのせてこちらにやって来る様子は鳥肌物だ。鬼だ。いいえ、阿修羅です。
バタァン!!
ヴァンの危機を救うかの様なグットタイミングで教室の扉が勢い良く開かれた。
何だ何よとクラスが注目する中、元気良く登場したのは――
「先生さんがボクのコト呼んでいるかと存じましてネ!トレイシーチャンのフィギュアと遊ぶのを中断して参上つかまつったのダ!」
指紋だらけの黒斑眼鏡をクイッと上げる動作が何とも印象的。七三に分けられた前髪がとってもクール。
愛と正義、そして二次元に恋する少年にすっかり変わってしまった、フィリップが立っていた。