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人間界逃走の果てに  作者: コサイン
11/14

逃走11:尋問

次の日の話。

剣が激しくぶつかり合う甲高い音が訓練場に響く。


「ハッハァ!

遅いぜジャックリー!」


「クソーっ!

まだまだあ!!」


ジャックリーが大振りに剣を振り下ろすが、あっさりヴァンに止められる。


「反撃するぜぇ!?」


力まかせにジャックリーの剣を薙払うと、足にグッと力を込め一瞬でジャックリーの背後に移動した。


「どこ行ったヴァン!?」


どうやら人間には見えない素早さだったらしい。


「戦場だったら終わりだな。」


ヴァンは背後から剣を首に突き付けた。


「ピピーッ!試合終了!クリファストの勝利!」


戦闘術担当のアーサーが勝敗を言い渡すと、


「キャア~!」


どこからともなく黄色い悲鳴が聞こえる。


もう皆さんお解りだろうが、今は戦闘術の授業である。


戦うペアはアーサーの気分で決まる。ヴァンはやる気が見えない為、ジャックリーは大声ではしゃいでいた為それぞれ選ばれたのだが、始まって数十秒で決着がついてしまった。


「はあー、次のペアはどうすっかな。」


こんなに早く戦闘が終わるなどアーサーの予定には無かった。アーサーは新たなペアを決める為に生徒を見渡していたが、そこでイイ事を思い付く。


(ピコーン!同じレベルの女子同士試合をさせれば決着つきにくいじゃん?)


そうなのだ。女子の試合は相手に攻撃する事を遠慮する場面が度々ある。理由は様々だが、一番の要因は友達を傷つける事の出来ない優しい心だろう。それに加え、同じレベルと来れば最強の時間潰し間違いない。


「それじゃ、次のペアは……アンジェラ=ダイアモンドとシュメイル=ピン!」


シュメイルとアンジェラはお互い歩み寄り、握手を交わす。これはこの魔術学園の戦闘前の伝統のようなものだ。


ヴァン達三人組は訓練場に植えてあるケヤキの木陰でぼーっとその様子を見ていたが、ヴァンがあることに気付いた。


「あのアンジェラってこの前の日直やってた可愛い子!」


結構な声の大きさだったせいか、その声はアンジェラとシュメイル達の所まで届いてしまったらしい。


アンジェラは顔を赤らめて恥ずかしそうに俯き、シュメイルは頬を膨らました。


「ヴァン、皆の聞こえる所でそんな発言は控えた方がいいよ。」


ケルンが困ったように忠告する。


「女子同士雰囲気悪くなるでしょ。」


ヴァンはへっと笑うといつの間にか始まった二人の戦闘を眺めた。


シュメイルは弓矢を魔力で形成し、アンジェラは扇子を形成している。


扇子か、楽しみだな。

色んな意味で。

これは集中して見ないと。


「そういや、ヴァン!

お前ブレザーは!?」


せっかくが集中して見ようとしているのに、とジャックリーを睨むヴァン。だが、


「それは僕も気になってたんだ。何で上はワイシャツだけなの?」


と、ケルンまで便乗して質問してきたので、答えざるを得なくなってしまった。


「うーん、暑いから?」


ベルが裸だったので上着を掛けてやったから、とは言えない。ヴァンは適当にはぐらかすことにした。


「暑い、ねぇ…」


ケルンの言葉と同時にサァッと冷たい風が吹き抜ける。


言ってしまった後で、少し無理矢理な言い訳だったなと後悔した。


その時だった。


爆風が吹き荒れ、

男子生徒の興奮した叫びが訓練場を満たす。


ヴァン達は何事かと戦闘に目を移し、その光景を目にしたケルンがすぐさま呻いた。


シュメイルが暴風にすっかり包まれ、苦しそうに目をギュッと閉じている。男子が騒いでいるのは彼女のスカートがはためき、レースのついた黒いパンツが丸見えになってしまっているからだろう。


従兄弟としては面白くないのか、ケルンは騒いでいる男子生徒を睨んだ。


一方、アンジェラは冷静にその様子を灰色の目に映していた。おっとりした小動物のようなイメージとはまた違った一面。


ヴァンはアンジェラを次のターゲットにするか、と本気で考えた。


「あの子を狙うのか?」


耳元で何者かが囁く。


「!?


ガーグ!皆に説明すんのめんどいから来るなって言っただろー?」


ケルンは男子生徒達へ、ジャックリーはシュメイルのパンツへと意識を取られている事を確認する。


今なら行ける!


ガーグを手に握り締め、ヴァンはコソっと訓練場を抜け出しトイレへ向かった。


何故トイレか?

昔から秘密事=トイレの個室じゃん?



「ゴホッ、ゴホッ。

遅刻しちゃった…

一時間目の戦闘術始まっちゃってるわよね…。」


白いマスクを付け、手に男子用のブレザーを持ったベルは訓練場への道を急いでいた。


遅刻した理由は、昨日床に裸で寝てしまい風邪を引いた為。


嫌だわ、死にたい!


ベルは思う。


媚薬のせいとは言え、ベルはヴァンやフィリップの前で裸を見せてしまったのだ。暫くは立ち直れそうもない。


「それにしても妙よね…」


ベルは首を傾げた。それは昨日のヴァンの行動。あまりの体の熱さに、ヴァンに「脱がせて」と頼んでしまった時の事だ。


あの時のヴァンは、全然淫魔らしくない。淫魔に加えあのルックスならば、女の体なんか慣れているハズだ。実際本人から一度だけ女絡みの武勇伝(?)を聞かせて貰ったことがあるのだが、それはそれは凄まじい肌色物語だったのを覚えている。


そんなヤツがどうして、あたしなんかを脱がす事が出来なかったのかしら?

あいつは寝ている女がいれば襲うようなヤツだと思っていたのに、あたしが裸で寝ていても襲ってないし逆にブレザーを掛けるなんてマネをしてくるなんて…。


本当に『らしくない』。


あたしが床に放置されたのも、あいつがあたしの裸の体に触れられなかったから?


ベルはブンブンと頭を振った。


意味が分からない。


そんなハズはない。


「あーもう!

調子狂うわねっ!」


ベルはいつの間にか見えてきた訓練場のゲートに向かって小石を蹴った。


小石は高く飛び上がって……。


「あだっ!」


タイミングよくゲートから出て来た男子生徒にぶつかった。


「ごめんなさい!」


慌てて駆け寄るベルに、痛みで頭を押さえ俯く銀髪の生徒。


「あの…大丈夫?

ごめんね?」


フッと男子生徒が顔を上げ、ベルと目線が絡み合う。


今更だが、相手はヴァンだった。ベルの顔を見て、少し顔が赤くなったように見えなくもないが気のせいかもしれない。


無意識にベルの体温が少し上昇する。


「ベル…」


「ヴァン…」


名前を呼び合い見つめ合う姿は恋人同士のようだ。もっとも、本人達にそれを言えば確実に怒鳴られること請け合いだが。


数秒そうした後、ヴァンはいきなりハッとした表情になり、どこかへ駆けて行く。


「な、何やってたんだろあたし…。」


心臓が騒がしい。

それを昨日裸を見られたせいだ、と自分に言い聞かせながらベルは訓練場に通じるゲートへ入って行った。



「言え!

ガーグ、お前は俺を魔界に連れ戻しに来たのか?それともただ遊びに来ただけなのかーっ!?」


と、少し凄んでみるヴァンに。


「どっちもさ。

淫魔王様からは早く連れ戻せって言われてる。」


涼しい顔で答えるガーグ。


名付けて、『ヴァンジルド=ドレイン=クリファストの尋問~トイレ編~』の始まりである。


「で?お前はどうしたいんだ?」


「オレはヴァンの気持ちを優先……って言いたいけど命令ダカラな。

それに俺も雷凛姫が怖いし。」


ガーグは雷凛を思い出したのか、ブルっと震えた。


「雷凛か…確かにアイツは怖い……けどな!!勝手にそいつの許婚にされた俺はどーなるんだっ!」


ヴァンはウルっと涙目になる。女子が見れば発狂しそうな光景である。


「どうなるんだろな?

ごめん分からね。」


ガーグは薄情なガーゴイルだった。


「……。」


ヴァンは個室のドアを黙って見つめていたが、ポツリと尋ねる。


「…どうやって俺を見つけたんだ?」


「簡単さ!

ヴァンの魔力を追ってみただけ!淫魔は魔力の質がちょっと違うからな。」


ああ、その手があったか。だったら学園は隠れ蓑にならねえじゃん。


ヴァンはうなだれた。



これでは連れ戻されるのも時間の問題だ。あの分からず屋の父親に許婚をやめさせるよう説得するしか道は無いらしい。


「苦労が絶えないな~。ヴァンジルド王子?

諦めて雷凛姫と結婚したらどうだ?」


ブチ。


ガーグの憎たらしい程気楽な一言はヴァンの怒りの導火線に火をつけた。


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