Pが滾る/爆ぜる炎
「離して!ねえ、離して!大雅が……大雅が……」
「もう、あきらめるしかないんだ!あいつは、俺たちを逃がすために、ドレードの気を引いたんだ。あいつは、俺たちのために……」
「大雅をそんな美学で片づけないで!大雅はね!理屈屋で、ひねくれてて、優しくて、カッコよくて、ちょっとエッチなところもあるけど―――
私にとっては一人しかいない彼氏だったんだよ?初恋だったんだよ?そんな人が、私を守るために死んだ?死のうとしてる?嫌に決まってるでしょ!」
由愛は絶叫するかの如く、叫ぶ。その叫びは、あたりに響き渡り避難している人たちの注目を集める。
「恋崎……いや、由愛。なんで大雅なんだ?俺じゃあだめなのか?俺なら、由愛を一人にしないし、泣かせない!
俺じゃダメなのか?」
「岩貞じゃ、だめなの。私の恋人は大雅だけだから……」
「……」
由愛の返事に黙り込んで歩みを止めてしまう岩貞。そんな彼に、声をかける人物がいた。
「ほら、失恋の傷なんて時間がたてば治るわ。早く歩いて避難なさい」
「はい……」
それは、由愛と会話をしていた看護師。彼女は岩貞の手を取って、避難所に進もうとする。
だが、岩貞はその手を振り払う。
「ほっといてください……」
「そうもいかないのよ。君が動かないなら、私が担いででも連れて行くわ」
そう言う看護師は、岩貞を担ぐために姿勢を低くする。
パリン!
その時、ガラスの割れる音があたりに響いた。
5階の窓ガラスが割れたのだ。
しかも、そこから人影が落ちてきた。
その陰の正体は―――
「龍のドレード……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
由愛と別れた俺は、現在交戦中だったのだが、思いのほかマラークの力が強く、外に飛ばされてしまった。
怪人体の今なら、ある程度の人間的致死から回避できる。だが、めちゃくちゃ痛い。さすがに5階の高さから落とされるのは、きついな
「いつつ……なんちゅう高さから落としてくれんだ……」
「―――――――っ!」
「だからなに言ってるかわかんねえよ!」
「……ろす」
「あ?」
「すべて殺す!」
「させるかってんだ、ボケ」
現在、敵はオーバーフロー状態。まあ、自我を喪失している状態だ。
奴らの目的は、能力者の排除なのだろうが、そんな状態のマラークは、目に入るものすべてを殺しつくす。いわば、生物兵器のような状態だろう。
だが、外に戦場が変わったのは、よかったかもしれない。
病院の中には、いまだ重篤患者などの避難が困難な患者がいる。そんな人たちがいるところでは派手にやれない。
まあ、どのみち病院の前では、やりすぎはできないけど……
中よりましだ。
その時、サイレンが聞こえてくる。奴が来たな。
「大丈夫ですか?今から私たちも加勢します」
「俺のことはいい!とにかく、まだ避難が終わってない人たちの避難を優先しろ!ここは俺が何とかする!お前が戦いに参加するのは、そのあとだ」
「わ、わかりました!」
俺が、半ばキレながら言うと、機械鎧の男は避難誘導を始める。
「殺す殺す殺す殺す!」
「さあ、啖呵切ったんだから、なんとかするぞ!」
俺たちは、殴り合いを始める。俺が殴れば、奴が殴り返す。そんな喧嘩試合だった。
奴は、俺に対して、超能力じみた力を振りかざすことができるのだが、使ってこない。
もちろん、こちら側の力は間接的にしか使えないため、論外だ。
そんな俺に、どこかで見たことある剣が飛んできた。
飛んできた方向を見ると、機械鎧の男が、俺に向かって自身の武器である剣を投げてきていた。
「使ってください!」
「……」
俺は、それを無言で拾う。
前回使った時、これはシステムでロックされていた。俺が使わないようにするためだろう。
だが、今回は、もしかしたらシステムを解除してくれるかもしれない。
『宇田君、制限解除よ!』
『わかりました!にしても神田さん、あのドレードを認めたんですかね?』
『彼の真意はわからない。でも、彼は龍人が人を助ける姿をまじかで見てきたのよ』
『それもそうですね。アドン粒子、充填率100%。制限解除!シグマブレード、全開です!』
『さあ、名も知れない龍人さん。使いこなして見せなさいな。私の発明品を!』
『ちょ、芹沢さん、キャラ保って!』
突如、剣に凄まじいエネルギーが溜まり始めた。ふ……使わせてくれるってわけか!
「おおおりゃああああ!」
「ぐぶっ……」
俺は、全力でマラークを斬りつける。前ほどの威力はないが、剣の耐久力を考えたら、この辺が妥当か……
俺は、そんなことを考えつつ攻撃を続ける。
矢継ぎ早の攻撃に、奴はついてこれないのか、ただの木偶人形のようになってる。
「クハハハハハハ!なんだ、殺すんじゃなかったのか?」
「縺カ縺」鬟帙∋?」
「ぐはっ!?」
マラークは、俺の腹に手を当てたかと思うと、俺は吹っ飛ばされた。
その勢いで、俺は避難民の中に突っ込まされる。
「きゃっ!」
「こ、恋崎!大丈夫か!?」
俺の後ろには、大勢の避難民がいるのはそうだが、由愛や岩貞がいる。これ以上は後ろに行けない。
「グアアアアアアアア!」
ドンドンドンドンドンドン
奴の絶叫とともに、付近が爆発し始める。
その爆発の勢いで、駐車してあった車が飛んでくる。
こいつ、一般人もろとも俺を仕留めるつもりか!?
「クソッ!【ぶっ飛べ】!」
ドォン!
俺は、車をマラークに飛ばして爆発させるが、いまいち効いていないようだ。
爆発の煙が収まり、マラークの姿が見えると、なにかをためている姿が俺の目に入る。
「グルルルルルルル!」
「な!?あれは!」
先刻の攻撃だ。
しかも、溜まっているエネルギーが尋常じゃない。
「クハハハハハハ!死ね死ね死ねええええええ!」
「クソったれがあああああ!」
俺は、奴の攻撃を受け止める。
避けられない。後ろには避難を完了していない者たちがたくさんいる。そしてなにより―――
「恋崎、俺の後ろから離れるなよ!」
「う、うん……」
二人がいるから!俺の命に代えても、この二人は俺が守る!
突如、灼熱の炎が俺の体を包んだ。
だが不思議と熱さはない。奴の攻撃に見えないわけでもなかったが、奴は今、俺に熱光線を撃っている。
なら、この炎は?
「死ねええええええ!」
「こんなところで死ねるかあああ!」
もっと力が……もっと奴をねじ伏せる力があれば!
突如、俺の体に異変を感じる。
さっきまで受けていた光線で痛いばかりだった俺の体から、特に痛みを感じない体になっている。
それどころか、全身から湧き上がる力を感じる。
これなら!
「うおおおおおおお!」
俺は、奴の放つ熱光線を自身の胸の前で熱球へと変形させる。
奴が俺に攻撃を続ける限り、エネルギーをため続ける。
「【グレネードバースト】おおおお!」
俺は、手を前に突き出し、熱球をはじき出す。
それは、マラークの熱光線を吸収しながら、飛んで行った。
「グガ?」
ドオオオオン!
熱球が直撃した瞬間、マラークは大爆発を起こし、死んだ。
勝った。なんとか勝った。新しい力が使えなかったら、敗北は濃厚だった。
「はあ、疲れた……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
事件から数日
いまだ病院の件で、マスコミが大きく騒いでいる。
世間は、俺に対して剣を貸与した神田という男の責任を―――とかいう話で盛り上がっている。
マスコミは大きく騒いでいるが、警察はこの件で神田に責任を追及する気はないと、公言している。
やはり、ネットでも神田擁護派と反対派で、連日論争が繰り広げられている。
まあ、俺としては助かってるから、機械鎧の男―――神田さんには、感謝している。
そして、最後の瞬間に俺に現れた力は、謎に包まれたままだ。
通常の状態よりも、大きく力をふるうことができたが、あの後自発的に発動しようとしたが、使えなかった。
なにか、変身の条件とかあるかもしれない。
依頼人の橋本兄妹だが、妹の方は澄香がいち早く避難させて、特に怪我とかはない。
おかげで、予定通りに退院できそうらしい。
ちなみに、熱の方の件だが、気が付いたら治ってたらしい。もしかしたら、彼女はレイトに覚醒したのかもしれないな。
まあ、それは俺の知るところではないが。
だが、彼女の恋愛模様は、応援しがいがある。いつか、彼女の恋が実るように、俺は願っておこう。




