Pが滾る/由愛という乙女
「おばあちゃん!」
「今は大丈夫ですよ。おばあさんは、機械につながれていて避難できなかったけど、あの龍人が守ってくれたから、問題ないですよ」
「よかった……」
劉生総合病院の一室に来ているのは、恋崎由愛だ。
彼女の祖母は、この病院で機械につなげられて生活している。
数年前に重篤な病気にかかり、病院での生活を余儀なくされ、ここ数か月は意識すら失って会話すらまともに行えていない。
そんな状況できた怪物騒動。昨日のうちに祖母に会いたかった由愛だが、昨日は病院側の都合で面会ができなかった。
無事を確認出来て、ひとまず安心できた由愛だった。
「もう、あの怪物は来ないですよね?」
「わからないわ。警察も、取り逃がしたと言ってるしなんとも言えないわ。移転したほうがいいとは思うのだけれど、移動の間も機械につながないと命に危険があるから、そうもいかないの」
「そう……なんですか……」
「でも、今は警察の対ドレードの班もいるから、前ほど厳しい状況にならないと思うよ」
「そうだといいですけど……」
そう、看護婦さんに励ましてもらう由愛。だが、不安なことはもう一つあった。先日、病院で見かけた大雅についてだ。
彼の隣には、クラスの女子が2人もいて病室に入っていくのを見た。
病室の名札を見ると、【橋本優奈】と書いてあったが、由愛の知らない人物だった。
由愛は不安なのだ。もう一回自分に惚れてもらおうとしている彼女にとって、大雅の女の影は不安でしかない。
「あの、橋本優奈って人はどんな人なんですか?」
(なに聞いてんだろ、私)
「橋本……ああ、あの交通事故で骨折した子ね。結構可愛い子よ」
「可愛い……ですか……」
「あ、もしかして、彼女の見舞いに来てる男の子となにか関係ある?」
「そ、それって有藤大雅って名前ですか?」
由愛は思わず聞き返してしまった。思いもよらず、目の前の看護婦から話を聞けそうで、なにより大雅が奪われてしまうんじゃないかという焦りで、正常な判断が下せないのだ。
「そうね……そんな名前だったかしら?
昨日は面会開始時間からずっといたわね。検査時間になっても優奈ちゃんの希望で同席してたし……」
「そ、そんな……」
「でも、恋人とかそういう感じではなかったわね。なんか依頼がどうとか……」
「依頼……?」
由愛は疑問に思う。大雅は、バイトはしていなかったはず。付き合っていたころは、遊ぶための金を稼ぐために、由愛と会えない時間を増やしたら意味ないと言っていた。
(バイトをしているということは、好きな人がいないということ?)
そう考えると、肩の荷が少しだけ降りた気分だった。
しかし、大雅がなんのバイトをしているか気になる。
だが、由愛は大雅を追いかける手段がない。彼女として付き合うことはできないし、ストーキングも論外だ。
昔、ストーカーとか怖すぎ。と、言っていたのを由愛は知っている。ここで、大雅に嫌われるのは避けたいとことろだ。
「それに、優奈ちゃんも結構なブラコンよ。多分、あの二人は恋人同士じゃないわ。だから、あなたも頑張ってね」
「え……なっ!?……は、はい」
自分が好きだと思うのは大丈夫だが、他人に言われるとまだまだ恥ずかしい由愛だった。
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「よっ、あのことは内緒にしてくれてるらしいな」
「あ、こんにちわ……内緒にしてますから、殺さないでください」
「あ?なんで殺さねえといけねえんだ。優奈ちゃんがとんでもないクズならまだしも、ただの女の子だろ?」
「ま、まあ、普通のつもりです……」
「なら殺さねえよ」
「そうですか……」
まあ、この子が勘違いするのは、仕方のないことでもあるか
俺は、化け物。それになんら変わりはない。いくら、人を助けてネット社会から擁護されても、彼女にとって、俺は自分を襲ってきた化け物と同じ姿をしているのだから。
これで、少しでも恐怖心が薄れてくれたのならいいのだが……
「有藤さんはなんで戦うんですか?」
「まあ、理由なんて大したもんじゃないさ。人間サイドに俺の大切な人がいる。本当にそれだけ」
「そうなんですか……」
思えば、俺はちゃんと戦う理由を考えていなかった。理由も漠然としていて、力を使って人を守ろうって思ったのは芽衣のおかげだし、マラークに底なしの怒りをおぼえたのは、汐の死がきっかけだった。
でも、なにより由愛が奴らの手にかかるかもしれない。そう思うだけで胸がはちきれそうになる。
結局俺は、人類を救いたいとかじゃなく、大切な人を守りたい。そんな考えでしか戦わない。だから、世間に受け入れられない。
どこかでバレてるんだ。この思想が
「じゃ、俺はこの後用事があるから。後で俺と同じ状態にある澄香が優奈ちゃんの護衛に当たるから。困ったら、そいつに言え」
「わかりました……」
俺は、用事がある旨を伝えて病室を後にする。
直後、俺はできるだけ会いたくない人物に遭遇してしまった。
「由愛……」
「大雅……」
由愛だ。
彼女は、病院のさらに奥のほうから歩いてきて、ちょうど俺と鉢合わせてしまった。
「大雅、私ね―――」
「―――っ!?あぶねえ!」
「え?」
俺は、思わず由愛を突き飛ばす。彼女は、素っ頓狂声を上げるが、被害を受けずに済んだようだ。
俺たちを襲ったもの。それは先刻のマラークだった。
トラのマラークは、俺の首を掲げて壁にたたきつける。
その衝撃で、俺の体が痛みに襲われた。
「ぐ、ぐぅ……」
「大雅!?ど、ドレード?」
「――――――!」
「なに言ってんだ!日本語しゃべれや!」
今、奴が放った言葉は、俺に理解することは出来なかった。
その後も、マラークは執拗に俺を壁にたたきつける。ものすごい自我の崩壊具合だ。さっきからこいつからは、怒り、恐怖。その感情しか見えない。
その感情に押しつぶされて、言語の崩壊。自我の喪失。暴走状態になっているのかもしれない。
仮に、【オーバーフロー状態】とでもしておこう。
だが、最優先すべきは―――
「由愛、逃げろ!」
「い、嫌!大雅が死ぬなら、私も死ぬ!大雅を一人になんてしない!」
「こんなところで死んだら一生呪ってやる!だから逃げろ!」
「いやいやいやあ!―――え?岩貞?」
「岩貞、そのまま逃げろ!」
「……」
由愛は突然現れた岩貞によって、俺のもとから引き離されていく。それでも、由愛の絶叫は聞こえてきたのだが……
「これで、誰も目撃者はいない。いくぞ!」




