Pが滾る/先輩の妹
「クハハハハハハ!死ね死ね死ねええええええ!」
「クソったれがあああああ!」
俺は、劉生町にある総合病院を背に、マラークの攻撃を受けていた。相手の力が強大すぎるかつ、背後には避難が完了してない重篤患者がたくさんいるため、俺は身をもって受け止める以外に選択肢がなかった。
相手のマラークもオーバーフロー状態(仮称)になっていて、無作為に人間を殺そうとしている。
もっと力が……
すべてをねじ伏せることのできる腕力が俺にあれば、反撃もできるというのに……
「クソ……でも、倒れるわけにはいかねえんだ!だって、後ろには……」
「恋崎、俺の後ろから離れるなよ!」
「う、うん……」
あの二人がいるから……
なにがなんでも守り抜くんだ!
その時、灼熱の炎が俺の全身を包んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「今日も暇だねー」
「ああ、暇だな」
「うちの部活は暇なほうがいいでしょ?それだけなにも起きてないってことよ」
「警察かよ……」
グレイの件から数週間。いや、一か月は経過しただろうか?
そろそろ、春も終わりを迎え、梅雨に入りそうな時期になってきた。
最近の空模様は不安定で、いつ雨が降ってもおかしくない空ばかりだ。
「気温も上がってきたねー」
「ああ、上がってきたな」
「でも、夏はもっと辛いよ。だって、湿度まで頭おかしいから」
「「だなー」」
そんな空模様と同様に、俺たち三人の気分も落ち込んでいる。
おそらく、果てしなく暇なのが効いているのだろう。
まあ、芽衣の言った通り、依頼がないのは平和な証拠だ。俺たちもまったりできるので悪くはない。
コンコンコン
おっと、俺たちの心の平穏を乱す者がやってきたようだ。
「どうぞー」
「失礼します」
「よく来たねー!名前と依頼内容は?」
「澄香、唐突すぎ。あんたはここが探偵まがいのことをやってる部活なのを知ってきてる?」
「うん……その、依頼というより頼み事というか……」
「ふむふむ……」
「澄香、仕切るなよ……」
依頼人の名前は、橋本淳。この学校の二年生で、俺は先輩に対して『あんた』といったことになる。あはは!どうしよう!
ちなみに依頼内容は、入院した妹を元気づけてほしいというものだった。
彼の妹は、先日交通事故に遭い、足の骨の骨折などをして入院しているらしいのだが、ここ最近元気がないらしい。
元気がない原因を、兄である橋本先輩に言ってくれないらしく、ここ最近心配しているらしい。
医者の話によると、なぜか体温も一日に数回高くなるらしい。なぜか、解熱剤を服用しているのにも関わらず熱が一向に下がらないらしい。
「いや、熱が原因では?体調が悪いと、ナイーブになるし」
「そうだね。橋本先輩の話を聞いてる感じ、気分が悪くて自分が治るかわからなくて怖いのかもね。医者に任せておけば大丈夫そう」
「やっぱり、みんなそう言うんだけど、おかしいんだ。熱だって普通の電子体温計だとエラーって出るんだ。おかしいと思わないか?心配にもなるだろ」
「待って、水銀式の温度計で測ってみた?」
「してないけど……?」
「大雅、いやな予感がする。この依頼受けよう?」
「え?まあ、そういうならいいけど……」
ただの熱だろ。と言う、俺と芽衣に対し、橋本先輩の話を聞いて急に真面目になった澄香。なにか心当たりがあるのだろうか?
そんなこともあって、俺たちはこれから、劉生町の総合病院に行くことになった。
学校の最寄りの駅から二駅ほどの距離にある病院だ。
その病院の病室に俺たちは入っていく。
病院に来るまでの間、芽衣と澄香がナンパに絡まれるといったことや、俺たちが不良にいちゃもん付けられるなど、ありきたりなことが全く起こらなかったが、気にしていない。
この世界は、マラークっていういかれた存在がいるから、そういうお約束的なのが起こってほしい自分がいる。まあ、対処がめんどいから起きても困るけど
病室の中は個室になっているのか、病人は橋本先輩の妹だけだった。というより、なんだこの装飾の数々は!
素人目に見ても、明らかに高い部屋だ。
「お兄ちゃん、その人たちは?」
「ああ、この人たちはお兄ちゃんの後輩だ。俺だけじゃつまらないだろ?」
「そ、そんなことないし……」
橋本先輩の妹は、現在中学二年生。病院のベッドで寝ているからか、長い髪をおろしている。
顔立ちは兄にそっくりで、それなりに可愛いといえるだろう。
ちなみに俺が胸を張って可愛いといえるのは、由愛だけだ。
「俺は有藤大雅。よろしく」
「私は梓芽衣。妹さん、よろしくね」
「阿内澄香だよー。よく考えたら、私たちって『あ』始まりの苗字ばっかりだね!」
「は、はあ……?よろしくおねがいします……」
橋本先輩の妹は、『なんだこいつら?』という目を向けてくる。
確実に澄香の自己紹介のせいだ。
「兄の橋本淳の妹の橋本優奈です」
「優奈ちゃんかー。ねね、今まで何人に告白されたことある?」
「え、えっと……3人くらい……」
「じゃあさ、付き合ったことは?」
「そ、その……ないです……」
優奈ちゃんはちらちらと橋本先輩を見ながら答える。
ああ、そういうことか。わかりやすいな。
というか、本当に澄香のコミュ力はすごいな。俺たちは置いてけぼりだ。
俺も、少し優奈ちゃんと親交を深めよう。
「じゃあさ、せっかくだし全員でゲームしないか?」
「ゲーム?」
「ああ、このトランプで、勝負だ!」
「「「ええ……」」」
なんだー?この盛り下がりは?
「今時トランプ?」
「なんかわりいかよ。電子機器で対戦やってもいいけど、全員で出来ねえだろ!
ルールは簡単。
ランダムでカードを引く前にマークと番号を予想する。そしてその数が近い順に点数を入れていく。1位は5点、最下位は1点だ。ピタリで番号を当てたらポイントは2倍。なお、マークを当てたら番号がなんであれ、順位の得点が2倍だ
さあ、1位になるのは誰だ!」
「どういうテンションの上げ方よ」
俺は、ルール説明だけをすると、トランプをすごい速度でシャッフルし始める。
一通り終わったら、俺はシャッフルをやめて一番上のカードを裏向きにしておく。
ちなみに、イカサマはしていない。もちろん能力も使ってない。
「さあ、みんなの予想は?」
芽衣「ハートの9」
澄香「スペードの13」
橋本兄「ハートの1」
優奈ちゃん「ダイヤの1」
「ほほう、みんなの予想がそろったところで、俺の予想はダイヤの6だ!
そしてカードは……うわっダイヤの1だ!優奈ちゃん、すごい!」
結果は見事、優奈ちゃんのピタリ賞だった。ていうかしれっとマークまで当ててやがる。
「じゃあ、次のカードは!俺はスペードの7!」
芽衣「スペードの6」
澄香「ダイヤの9!」
橋本兄「ハートの3」
優奈ちゃん「ジョーカー」
「え?優奈ちゃん当たってるんだけど……え?こんなブラックホース当てる?」
「いやあ、山勘が当たって……」
「そうか、だとするならすごい感がいいな」
そのあとは、優奈ちゃんが正解を出しすぎて意外に盛り上がってしまい、結局日が暮れるまでの間、俺たちはこのゲームをしていた。
だが、俺たちは不自然にも思った。全部で100問以上やったのに、その全てを正解した優奈ちゃんの異常性に。




