Kの風刃/アイシテル
昼休みから、数時間。あたりはすっかり暗くなり、学校も最終下校時刻を迎えていた。
「二人共、準備はいいか?」
「僕は大丈夫です」
「私は容認してないからね!勝手に囮にされてること!」
「まあまあ落ち着いて」
「もとはと言えば、あんたのせいでしょ!」
委員長はそう言って、雲雀に怒鳴る。うるさいなあ
俺たちはもう一度、委員長が襲われた場所に戻ってきていた。
まあ、よく言うじゃないか『犯人は現場に戻る』って。
俺たちがそう意気込んでいると、突然風が吹き始める。
「来たな……」
「有藤君、あっちから来てる」
委員長は透視(?)を使ったのか、風の発生源を指さす。俺も、確認した。
「あ、あれがかまいたち……」
「雲雀、委員長、下がってろ」
「うん……」
かまいたちは、俺達を確認するとゆっくりと降りてくる。
そして、奴が地面に降り立った時、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「やあ、昨日ぶりだね?」
「ああ、来てほしくはなかったけどな」
「じゃあ、ここにこなければよかったじゃないか」
「そういうわけにもいかねえんだ」
「ふーん」
なんだろうか。つかみどころがない。言葉の端々には理性や知性といった、核のようなものを感じるのだが、ふらふらしていて読みづらい。
それは、奴の姿にも影響しているのか、奴の動きがまるで予測できない。
【予測】の力を使えばよいが、そんなことをしたら代償を払う羽目になる。
「なぜ、SNSの『切り刻む』の言葉に反応した?」
「それが僕にできることだから。僕の存在意義は自分で見出さないといけないから!」
「存在意義だと?」
「ああ、そうだ。僕は正義のヒーローさ。悪に死という名の天誅を下す。そうすれば、そこの男子の様に喜んでくれる!」
「ぼ、僕?」
奴は、雲雀のことを指さす。
それによって、俺たちの注目が集まる。
「ぼ、僕は喜んでなんか……」
「そんな嘘をついても無駄だ!君は通報してから警察が来るまでの間、顔が笑っていたぞ!」
「そ、そんなわけ……」
「お前は望んでいたんだよ!あの不良たちが苦しんで死ぬのを!」
奴の『見ていた』という発言は、とても気になるが、この際は一度無視だ。奴の能力はすでに割れている。
対象を遠くから斬る【風刃】(仮称)だ。空気の一瞬の異変に気付かなければならないから、少し神経を使うな。
「質問いいか?なんで委員長を狙ってる?それもSNSにあったのか?」
「そうだよ。桃里汐を恨んでいる人間は、僕が確認しているだけで3、40人はいたね」
「そ、そんなにいたの?……私、正しいことしか言ってないのに!」
「それは違う。正しさとは正義ではない。お前の様に融通の効かない奴が、頭ごなしに否定して正しいことだけを強要する者など、恨まれるのは当然。お前の信じるものが正しくとも、お前のそれはただの押し付け。正義ではない」
「そんなわけ……私は皆に正しく生きて欲しいから……皆に幸せになって欲しかったから……」
「そんなのは詭弁。結局、お前は人に注意している自分がカッコよく見えていただけだ!」
「いやあああああああ!」
委員長は、能力持ちになっていたこと。あの男に狙われていること。その他諸々がストレスになっていたのだろう。
非常に精神が弱っているときに来る強力な自己否定の言葉は、彼女をパニックに追い込むことはたやすかった。
俺も、委員長の言葉にはいつも思う事はあったが、いつも間違ってたことなんてなかったと思う。むしろ、彼女の言葉には、幸せになって欲しいという純粋な心がこもっていたことも知ってる。だからこそか、あの男は、俺にとって許せない存在になっていた。
「黙れよ……」
「あ?」
「黙れって言ってるのが聞こえないか?」
「なぜ?お前も嬉しいだろう?そこの女が、傷付いて泣き叫ぶ姿を見れるのが!」
「ひとつも嬉しくないし、気分が悪いだけだ。そもそも、彼女は純粋に人を助けようとする、心優しい人間だ。押し付けの正義ってのは、SNSの誹謗中傷だけで人を殺して、正当化するお前の方だろ?」
「……絶殺」
瞬間、俺に向かって斬撃が飛んでくる。スイッチが入ったようだ。やはり、人を煽る人間は、精神的な揺さぶりに弱い。たった少し煽っただけで、すぐに手が出る。
「【相殺】」
「な!?僕の攻撃が!?」
「通用しないよ。性能の差って奴だ」
「まだだ!まだ僕には手札がある!
僕の能力は【千里眼】!ひとつひとつの分子に僕の意志を憑転させて、僕の目となり手となる!僕のかまいたちとしての能力は【千里眼】の拡張能力だ!」
そうか。かまいたちの能力が二番手的な能力だとは想像してなかった。これは一本取られたな。
だが、だからなんだと言った話なんだがな!
「僕の能力なら、安全な位置からの狙撃が可能だ!見せてやる!絶望の恐怖に染まれ!」
「絶望と恐怖ってそんな使いかたしたか?」
俺の言葉を無視して、奴は空に消えていく。
「【探知】」
俺は、奴が狙撃という言葉を使った瞬間に、俺を中心に広大な探知陣を張った。だが、中々引っかからない。
奴が、どれだけの距離にいるかがわからない。それでは、こちらも下手に攻撃を打てない。
そう思っていると、探知陣になにかがヒットした。
これは、奴の打った弾か?
それは、かなりのスピードでこちらに飛んできている。秒速は1000M。スナイパーライフルと同レベルの速さだ。
だが、弾の場所と射出方向がわかればそれでいい。その延長線上に奴はいるはずだ。
「【撃ち抜け】」
俺の放った弾は、迫ってくる弾を貫き、奴を打ち抜いた。だが、当たる瞬間、なにをしたのか、威力が弱められてしまい。本来与えるはずだったダメージの72%ほどしかダメージが入らなかった。
しかし、それでも影響はあったのか、どんどん高度が落ちてきている。
しまいに、奴が元いた位置とは少しずれるが、地面に降りてきた。
「クソッ、何故だ。なぜ、僕の位置がわかった……」
「お前が、もう少し近い位置で狙撃をしていたら、わからなかったな」
実際、今のは危なかった。今の狙撃が、あと100m近かったら危なかったかもしれない。
俺の探知できない範囲かつ、奴の位置取りの計算が間に合わない距離にいたのなら、さすがの俺も間に合わない。
「さあ、これでチェックメイトだ。これ以上、悪さを出来ないようにここ意識を奪うか」
「な、なにをするつもりだ!」
「なあに、俺は能力を奪う事は出来ない。でもな、意識を奪う事は出来る。だから、お前は一生眠り王子と化すんだよ」
「ふ、ふざけるな!僕は、僕はまだ正義をしていない!」
「そういうのは、妄想とか夢の中でするんだな」
俺は、奴の意識を奪うためにゆっくりと近づく。
しかし、その瞬間に俺の背中に違和感を感じる。
「有藤君!」
「殺させない!僕の師匠を殺させはしない!」
「雲雀、てめえ」
「師匠!ここは僕が!ここを抑えたら、僕を弟子に……僕にその力を教えてください!」
「ぼ、僕が師匠……?……あ、アハハ!やっぱり、僕が正義だ。正義は必ず勝つんだ!」
「もういい……」
もうどうでもいい。折角、ここまでして依頼を達成して、守ってやったのに、この仕打ち。ふざけるのも大概にしろよ?
いいよ。やってやるよ
「皆殺しだ。『対象を雲雀雄一及びかまいたち(仮称)に限定し、力を行使する』」
「師匠、やっちゃってください!」
「アハハハ!死ねえええ!」
「【死ね】」
グシャッ!
俺の力が発動した瞬間、二人は破裂四散した。
二人が死んだ。それはもうどうでもいい。俺にとって二人はいらない存在だ。
最悪、委員長さえ守れればいい。
「有藤君……」
「あ、委員長。怪我はない?」
「怪我はないけど……有藤君は……」
「俺は大丈夫!ちょっと疲れただけだよ」
「ならいいのだけど……。―――うっ!?」
俺たちが戦いの感傷に浸っていると、突然委員長の体がブレる。
委員長のお腹から、鉾が飛び出していた。
な、なにが起きた?
「委員長!」
「あ……りとう……」
鉾を突き刺したのは、人間の形をした何かだった。体は人間と同じなのだが、顔はサルのようだ。
そいつは、今微動だにしていない。
俺は、お腹が貫通している委員長に駆け寄る。
「委員長!」
「有藤君……大丈夫だよ……」
「喋らなくていい!今治してやる!【治れ】」
俺が力を発動させるも、委員長の傷はいっこうに塞がらない。
「おい、なんでだよ!万能じゃねえのかよ!【治れ】よ!【治れ】!」
「もう……いいよ……わか、るんだ……魂を殺されたって……ゴホッゴホッ」
「なに言ってんだよ!おい、【塞がれ】【止血】【治癒】……クソ、なんで!」
俺は、あらゆる手段を試してみるが、効果は一つとして現れない。瞬間、俺は悟った。
―――委員長は、助けられない。
「有藤君……」
「もう、喋るな。余計苦しいだけだぞ」
「私ね、あなた達に嫉妬してた。目一杯恋をして、青春を謳歌して、私みたいなクソ真面目はそんなあなた達に八つ当たりみたいな感じで、接してた。そりゃあ……嫌われるよね。恨まれるよね……」
「そんなことない!少なくとも俺は!俺は……君のことを好意的に思った。どんなに厳しくても、間違ったことは言わない。どこかで幸せそうなところを応援している。そんな君が俺は好きだった」
「あはは……最後にいいこと言ってもらえたな。ねえ、最後のお願い聞いて?」
「なんだ?なんでも叶えてやる!」
段々と体力がなくなっている委員長が出した、最後のお願いは簡単なものだった。
「―――汐……愛してる」
「っ……恥ずかしいけど、こんなに気分が良かったんだ……。最後にいい思い出を……」
「委員長!?っ……。―――静かに眠ってくれ……」
彼女の最後のお願いは、名前を呼んで『愛してる』って言ってほしい、だ。
そしてその最後のお願いがかなった彼女は、齢16歳にして、人生に幕を閉じた。
「なぜ、俺に攻撃をしなかった」
「最後の別れをするのが、人間の美学というものなのだろう?」
「人間のことよくわかってるじゃねえか……。そこまでわかってんならなあ―――
―――人間、殺すんじゃねえよ!」
委員長の最後、それを考えただけで、俺の中でなにかが弾けた。




