【ドルトン視点】クソ、運の悪い日だ
「クソッ、いつもより強くねぇかコイツ!?」
ドルトン一行は目的であるガーディアンゴーレムと戦っていた。
ガーディアンゴーレムは、オレウス闘技場跡という一層しかない珍しい地上ダンジョンに現れるモンスターだ。
オレウス闘技場跡は、ダンジョンとは言うものの地上に見える崩れた円形闘技場がそのすべてであり、同時にそこがボス部屋となっている。
そして、そのボスこそがガーディアンゴーレム。
「攻撃はオレがなんとか止める! マギア、全力の魔術で攻撃しろ!」
「今やってる!」
ガーディアンゴーレムは三メートルほどの巨体を持つ機械兵士で、その攻撃は単調ながら苛烈であると知られる。
純粋に大質量の拳はそれだけで大きな破壊力を生むのだ。
ただし、脅威となるのはそれだけではない。
「ヤベェッ! ビームだ! オレじゃ止められんねぇぞ!!」
「これじゃ威力の高い魔術は詠唱できないわよ!」
ガーディアンゴーレムは人間のような形状だが、頭は存在していない。
代わりに、胸にあたる部分に目のような一つのコアと口のような穴があり、その穴からはビームを放ってくる。
幸いビームを連射はしてこないので避ければ問題はないが、前衛ではビームの発射を止めるのが難しい。
紙一重でマギアはビームを避けることに成功するが、いつまでたっても決定打となる魔術の詠唱ができずにいた。
「クソ、いつもよりも避けるのがやりづれぇ……なんでだ!?」
実を言えば、ドルトンたちは目的地に到着した後、休憩もせずにガーディアンゴーレムに挑んでいた。
たどり着くまでに遅れた分を取り返そうとしたわけだ。
しかし、マグナのルート選定がなかった分、道中で出会ったモンスターは比にならないほど増えており、そこでの戦闘でスタミナや魔力を使ってしまっている。
「マギアはなんで威力の高い魔術を撃たねぇんだ! 早くしろ!」
「奴隷が道を間違えたからいつもより消耗が激しいのよ!」
「チッ、機械の体に俺の剣は通らないんだから、お前の魔術で早く倒せよ!」
マギアはイラつきながらも、魔力を集中させて魔法を撃とうとする。
しかし、ガーディアンゴーレムはそれをあざ笑うかのように、ビームでマギアの魔術詠唱を妨害してきた。
「ドルトン! 私に魔術を撃ってほしいならビームくらい止めなさいよ!」
「いつもだってこんな状況だろうが!」
「いつもはあのどんくさいマグナばっかり狙われたじゃない!!」
そう、ガーディアンゴーレムをこれまで狩るときには、マグナばかりがビームの標的になっていた。
ドルトンやマギアはそれを「どんくさいから狙われている」と思っている。
しかし、マグナはあえて囮になってマギアたちをサポートしていたと誰も知らなかった。
「チッ、仕方ねぇ。オイ、ベスタ! シルバ! お前らさっきからなにやってんだ! せめてビームの標的になれよ!! マギアが魔術を撃てねぇだろ!!」
「すみません! でも、私たちはご主人さまのように戦闘に慣れていなくて」
「使えねぇ奴隷だな!! クソがッ!」
ドルトンは悪態をつく。
そもそも、買ったばかりの奴隷たちが戦闘についてこれるわけがない。
ドルトンたちは冒険者として長らくやってきたから戦いに慣れているだけだ。
戦いにずっと参加していたマグナと奴隷たちの間には埋め難い差が存在していて当たり前だった。
ドルトンはマグナを無能だと思うあまり、マグナがやっていたことを軽視していたのだ。
「とにかく、お前らが身代わりになれよ! そうしないといつまでたっても終わんねぇだろうが!!」
奴隷たちはドルトンに逆らうことはできないので、震えながらも前に出てゴーレムのビームの標的になろうとする。
しかし……
「クソッ、狙いはマギアだ! 避けろ!!」
「なんで私を狙うのよ!」
ゴーレムはそれでもマギアを狙ってビームを発射していた。
これはマグナしか知らなかったことだが、ガーディアンゴーレムはそのとき一番魔力が集まっているところを検知してビーム攻撃を放つ。
マグナはガーディアンゴーレムと戦うときに、【在庫管理】を使って魔力結晶という魔力が凝縮された結晶を身につけることで標的となっていたのだ。
ガーディアンゴーレムが強力な魔術を使おうとしているマギアにばかり攻撃するのは当然のことだった。
「ドルトン! 【絶対防御】でなんとかできないの!?」
「確かにオレの【絶対防御】なら止められるが、あんな高いところから放たれてるビームを受け止められるわけないだろ!」
そうこうしている間にも、ゴーレムの攻撃を受け続けているドルトンは満身創痍の状態になっていく。
「ナティカ! スタミナがたりねぇ。治療術をかけてくれ!」
治療術は肉体的な傷を治す他にも、スタミナを補完するために使うことができる。
だが、治療術は多くの魔力を使用する魔術なので、怪我をしたときのためにできる限り残しておくのが普通だ。
こんな風にスタミナを補完するために使わせるのは、一般的なパーティーから考えれば珍しいことである。
「魔力がもう足りませんよ! 道中でもたくさんかけたじゃないですか!」
実を言えば、これまではマグナがナティカの魔力を管理し、足りないときは補ってくれていた。
マグナのスタミナを直接みんなに【在庫管理】で配るより、ナティカに魔力を与えて治療術を使ってもらったほうが効率が良いからだ。
しかし、ナティカはそんなことを全く知らなかった。
「いいからやれよ! このままじゃ負けるぞ!」
「うぅ……仕方ないですね……ヒーリング・ライト!」
ナティカがなけなしの魔力で治療術を放つ。
優しい光がドルトンを包み、ドルトンの身体を癒やしていった。
治療術は対象に魔術をかけ続けることで効果を与える魔術だ。
だが、その魔術によって、今度はゴーレムの標的がナティカへと変わってしまう。
「なっ、またビームだ! 今度はナティカの方を向いてるぞ!!」
「……えっ!?」
なけなしの魔力で治療術を使った反動が大きく、さらに不意の出来事で反応が遅れているナティカ。
ビームが当たればただではすまないだろう。
「危ないっ!」
間一髪のところで奴隷のシルバがナティカを突き飛ばした。
その直後に、一筋の光が先程までナティカが立っていた地面を焼く。
しかし、ナティカが無事だった分、シルバは左脚にビームを受けて立てなくなってしまった。
「う……」
「よくやったシルバ! 使えるじゃねぇか! マギア、今だ!」
「フレア・ボム!!」
マギアの放った灼熱の塊がガーディアンゴーレムの装甲に直撃した!
その灼熱はゴーレムに当たった瞬間に弾け、ゴーレムの全身を炎で包み込んだ。
この攻撃の余波をドルトンは【絶対防御】でやり過ごす。
「ガ……ガガ……」
ゴーレムは内部まで焼けるその炎を受けて機能を停止したのか、膝をついた後仰向けに倒れて動かなくなった。
「ふぅ……なんとかなったな。ナティカ、シルバの傷を見てやってくれ」
治療術師であるナティカがシルバに近づいてその傷を確認する。
「これは……治療院に行かないと治りきらないと思います」
治療院は多くの治療術師たちが働く、傷の回復を専門とした施設だ。
治療術は魔力を多く消費するので、怪我の程度が大きい場合は大人数の治療術師が交代交代で治療術をかけるのだ。
「治療院だァ!? せっかく取り分が増えたってのに治療院を使ったら変わんねぇじゃねぇか!」
「何を言ってるんですか! ドルトンが治療術を使えって言うから、私は無理して治療術を使ったんですよ!? シルバが助けてくれなかったら、私は死んでたかもしれません!!」
「はぁ!? ふざけんなよ! 治療術師は治療術を使って味方を助けるもんだろ! 元はと言えば道中で道に迷った奴隷たちが悪いんだよ!!」
「でも、その奴隷を選んだのはドルトンじゃない。奴隷が悪いならドルトンが悪いのと一緒でしょ」
「マギアまでオレを悪者扱いか!?」
ギスギスとした空気がドルトンたちの間に漂う。
全員が自分のせいではないと罪をなすりつけ合おうとしていた。
だが、満身創痍のドルトンたちは、そこで言い争うほどの気力も残っていない。
「……チッ、ま、何と言ってもこれでロイヤル・クエスト達成だ」
ロイヤル・クエストは報酬も多ければ名誉も手に入るクエストだ。
治療院の分を引いても十分な報酬がある、と自身を納得させるドルトン。
ドルトンは倒れたガーディアンゴーレムに近づいていった。
「……オイ、どうやってガーディアンゴーレムのコアを外すんだよこれ」
「知らないわよ。マグナがやってたんだから」
「クソ、めんどくせぇなぁ……」
ゴーレムの目のように見える部分がコアであることは知っている。
そこで隙間に剣を入れて無理やり引き剥がそうとしたが、どうしても取れない。
残念ながら、ガーディアンゴーレムのコアは取り方があるのだ。
「とれねぇな。ベスタ、手伝え」
奴隷のベスタに手伝わせて色々と試すが、それでも取れない。
しかし、ドルトンはコアの隙間に剣を入れて力をかけ続けた。
それをしばらく繰り返すと、バキッという音ともにコアが剥がれる。
「よし、これでいいな。お前ら、帰るぞ!」
上機嫌で帰還宣言をするドルトン。
しかし、このときドルトンは気づいていなかった。
取ったガーディアンゴーレムのコアが濁ってしまっていることを……
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