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雑務最強の男、キマイラとの戦闘を行う

 遺跡に入ると、正直俺がやることは多くなかった。


 モモはそれまでの印象とは裏腹に、攻守ともにアグレシッヴな動きを見せ、モンスターを次々に殲滅していく。


 セシリアは目にも見えぬ速さで遅い敵なら一撃で仕留め、バドルットもその見た目に反して正確なコントロールの魔術で敵を屠っている。


 ……俺がしたことと言えば倒したモンスターから魔石の回収と、【在庫管理】によるメンバーのスタミナ補助だ。


 体内の魔力が少ない雑魚モンスターは、死んだ瞬間に魔力を凝縮した魔石という小さな石に変わる。

 これは魔術道具の原料になるなどの使い道があるので買い取ってもらえるが、Sランクパーティーからすれば大した収入にはならない。

 しかし、そんなに容量を取るわけではないので【在庫管理】を使って保管していた。


「この分だと余裕そうだな」

「ええ、もうすぐ五層にたどり着くわね」


 みるみる内に遺跡の奥へと進むことができた俺たちは、お目当てのキマイラが居る五層に辿り着こうとしていた。


 ここで俺は【在庫管理】を使ってバドルットにマナポーションを手渡す。


「おう、ありがとな! まだ大丈夫だと思うんだが、一応飲んでおくぜ」

「ああ、バドルットは魔力がそこまで多くないだろ? キマイラと戦う前にマナポーションで魔力を回復させておいた方が良いと思ってな」

「なんで俺の魔力が少ないって知ってんだ?」


 俺は【在庫管理】によって開かれるウィンドウをバドルットに見せる。


「なんだ、このスキルは!?」

「パーティーメンバーのスタミナや魔力も在庫として管理できるんだ。この道中でも、俺のスタミナをみんなに分配しながら進んでいる」


 ウィンドウにはバドルット、セシリア、モモの三人の状態が表示されている。

 バドルットの魔力を見れば、最大値の半分ほどまで減少していた。


 もちろん、俺自身の魔力をバドルットに渡して回復させることもできる。

 しかし、マナポーションのようなアイテムを使う余裕があるときにはできるだけアイテムで回復させるようにしていた。

 戦闘中にマナポーションを飲んだりする余裕はないから、できる限り俺自身のスタミナや魔力を残しておかないといけない。


「こりゃ便利なスキルだなぁ」

「ああ、支援魔術師とかと比べたら俺自身のスタミナ分しか分けられないから効果は低いけどな。それでも、少しの支援はできる」

「なるほど、いつもより身体が軽いわけね」

「何にしても助かったぜ! さぁ、キマイラ討伐と行こう!」


 仲間は全員準備万端のようだ。


 さぁ、いよいよキマイラとの戦いだ……!


*


 ルドルツカ遺跡は第一層から第四層までが迷宮のような構造をしている。

 しかし、第五層はうって変わって大部屋が一つあるだけだ。


 通称”ボス部屋”。


 ダンジョンは一般的に迷宮のような構造をしていることが多いが、決まった階層にこのボス部屋が配置されている事が多い。

 迷宮ではない代わりに、そこでは一段と強力なモンスターが出没し、冒険者たちを苦しめる。


「キマイラは二体、いつもどおりモモに一気に二体を引きつけてもらってから一体を集中狙いの作戦でいいわね」

「待ってくれ。もっと良い方法があるんだ」


 俺はセシリアの作戦を止める。


「キマイラは様々な獣の特徴を兼ね備えたモンスターなのは知ってるだろう。獅子の頭、山羊の胴体、蛇の尻尾……だが、いろいろな特徴を備えているとはいえ、主に考えて動くのは頭である獅子の部分だ」

「そうだとして、相手が獅子だったらなんだって言うのよ?」

「ここにアゼロの実をすりつぶしたものを持ってきている」


 俺は【在庫管理】によってこぶし大の膨らみのある袋を取り出した。


 アゼロの実は、獣が嫌がるニオイの強い木の実である。

 すべての獣に有効というわけではないが、独特のその香りはモンスターや獣避けとして使われることもある。


 そして、その中でも特に獅子が嫌がるニオイということで知られていた。


「この袋をキマイラに向かって投げつけることで大きな隙ができるんだ。その上、もう一頭はこのニオイから離れようとするから、同時に二頭の動きを止められる」

「本当かぁ? 聞いたこともねぇが……」

「モンスター図鑑を元に予測して色々試してるんだ。キマイラがアゼロの実のニオイを嫌がることはすでに実戦済みだから安心してくれ」

「まぁ、別に試すだけならタダなんだし、試してみましょう」


 俺はバドルットに袋を渡した。


「オレが投げるのか? オレの筋肉が火を吹くぜ!」

「いや、風の魔術であてたほうが確実だ」

「いけねぇ。なるほど、そういうことか」


 魔術師によって魔術の精度はだいぶ違うので、必ずしも風の魔術でこの作戦を実行するのが最適解とは限らない。

 しかし、バドルットの腕は道中の戦闘でもよく見ることができた。


 彼は見た目に反して繊細な魔術の使い手だ。

 魔力の総量が少ない分、非常に的確に魔術を使っているように見える。

 コントロールが必要なこの投擲作戦にはもってこいだろう。


「それに、もし外してしまっても構わない。その地帯はキマイラが嫌がって近づかなくなる。そしたら俺がアゼロの実のストックを使ってキマイラを分断するようにニオイを広げていくから、その間だけ耐えていてほしい」

「いーや、ハズしはしねぇ。オレの魔術を見ておきな。狙いは左から行くぞ」


 そう言ってみんなの戦闘準備が整ったことを確認すると、バドルットは魔術を詠唱する。


「ウインド・ショット!」


 バドルットが放った風がアゼロの実のペーストが入った袋を一直線にキマイラへと運んでいく。


 魔術は無詠唱でも使用可能だが、詠唱ありのほうが威力や精度を高めやすい。

 また、詠唱は決まった定型文があるわけではなく、魔術師個人個人が好きなように行うものだ。

 一般に、同じ詠唱を何度も使っている方がより効果が高いとされているが、その都度イメージにあった詠唱をする場合も多い。


 諸説あるので俺も詳しいことは知らないが、詠唱と魔術を結びつけることでスムーズに魔力の準備と魔術の行使を行うことができる……らしい。


「よっしゃ、当たったぜ!」


 キマイラの鼻先に袋は見事に命中し、その瞬間キマイラは「グルガガァァァ!!!」と吠えてその場で暴れ始めた。

 その暴れた勢いも相まって袋の中身は辺り一面に飛び散り、アゼロの実の強いニオイが香り始める。


 近くに居たもう一頭のキマイラはそのニオイを嫌がって距離を取り始めた。


 チャンスだ!


「…………はいるよ」


 モモがその巨体に似つかわしくない素早いタックルを仕掛ける。

 二メートルの金属の巨体に突進されたキマイラは、アゼロの実で悶絶していたこともあって抵抗する間もなく吹き飛ばされた。


「任せとけ! アイス・フィールド!」


 すかさずバドルットが氷の魔術を詠唱する。

 それにより、仰向けに吹き飛ばされたキマイラの背中が一瞬にして凍りついた。

 背中と床は氷でくっつき、逃れようともがくがそれはかなわない。


「余裕ね」


 そして、とどめを刺したのはセシリアだった。


 いつの間にかキマイラの懐に潜り込んでいる。

 そして、仰向けのキマイラの心臓に向かって躊躇なく剣を突き刺した。

 固い皮膚をものともせず、肋骨の間を貫く見事な一撃。


 ……セシリアが剣を引き抜いた。

 キマイラの血が胸から溢れ出し、徐々にキマイラの抵抗は弱々しくなっていく。


「残りのもう一体は正面から行っても問題ないわね」

「……まかせて」


 ここからはもはや一方的な展開だ。

 モモがキマイラの攻撃を受け止め、バドルットが魔術でキマイラの体力を削っていく。

 俺はその間、アゼロの実のペーストが入った袋を投擲してキマイラに隙を作る仕事に注力する。


 もちろん、【在庫管理】を利用してメンバーの体調管理も忘れない。

 だが、今回は特に問題はなさそうだ。


 そうして、最後は同じようにセシリアの剣がキマイラの胸を貫いた。


 あっさりとキマイラ二体の討伐が終了である。


「マグナ、おめぇすげぇな! キマイラを狩り終わってこんなに体力が残ってるなんて初めてだぜ」

「私も正直ここまで簡単に行くとは思ってなかったわ。失敗するとは思ってなかったけど、格が二つくらい下のモンスターと戦ってる感覚だった」

「…………とても、らく」


 仲間たちからの評価は上々のようだ。


 俺としてもほっとした。

 キマイラはSランクパーティーの相手としては弱い部類ではあるが、決して気を抜いて良い相手ではない。

 そういう意味では、新しいパーティーでもしっかりと役割をこなせると確認できたのは大きな収穫だった。


 それどころか、前のパーティーよりもサポートがやりやすく感じるくらいだ。


「みんなが強いおかげだ。俺はあまり何もしてないさ」


 これは本音だ。

 確かに、前のパーティーと戦力的にはそこまで変わらないのだろう。

 しかし、立ち回りが優れているので各人の良さを最大限に引き出せている。


 サポーターとしては各人の良さを活かしやすい環境の方がやりやすいのだ。


 他のSランクパーティーの戦いを見たことがないわけではなかったが、こういった部分は実際に自分が一員になってみると実感できる部分である。


「キマイラの死体はまるごと【在庫管理】で保管するから、あとは帰るだけだな」


 俺はキマイラの二体の死体をまるごと素材管理で保管する。

 容量ギリギリだが、入り切るように調整してきたから問題はない。


「そうだ、休みたい人とかは居ないか? 居たら休憩をしよう」

「かなりスムーズに終わったら、私はこのまま帰還で問題ないわ」

「オレもまだまだ動けるぜ。サクッと帰るとすっか!」


 こうして、”魔術結社(マジカリテ)”の仲間とともに、マグナはルドルツカ遺跡への遠征を無事終えたのであった。


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