雑務最強の男、ルドルツカ遺跡へ
ルドルツカ遺跡に遠征に行く二日前、俺は”魔術結社”の仲間たちに歓迎会に呼ばれることになった。
「待ってたよ~マグナ~」
「お、マグナ! こっちに座ってくれ」
ロードリスに言われた時刻に酒場に行くとすでにみんなは揃っており、ロードリスとバドルットが手招きしていた。
他にもセシリアとモモが席に座っている。
「悪いな、こんな歓迎までしてもらって。ありがとう」
「ハハ、随分謙虚だな! こっちとしては“雑務最強の男”に来てもらって、その実力を知りたくてうずうずしてるぜ」
「できる限りのことはやるが、そんなに期待するようなものでもないぞ?」
俺は戦闘メンバーの負担が減るように仕事をこなすことはできる。
だが、決して自分の力で強力なモンスターを倒せるわけではない。
もちろん貢献できる自信はあるとはいえ、戦闘メンバーに期待をかけられるようなものではない気がするが……
「そう言うなら私はそんなに期待はしないでおくわ。二日後の遠征のときに実力を確かめさせてもらうから」
「ごめんね~、セシリアは自分にも他人にも厳しいんだ。ボクは、マグナの実力は疑う余地はないよって言ってるんだけどね~」
セシリアはあくまで実際の活躍で見るということらしい。
俺としてはそれで十分だ。
「オイ、モモ! せっかくマグナの歓迎会なんだから、おめぇも何か喋ったらどうなんだよ」
「…………わたしは、らくできれば、なんでもいい」
「あぁ、悪く思わないでくれ、マグナ。モモはとにかく寝てばかりのぐーたらなやつなんだ」
「冒険者にしては珍しいな」
冒険者はなんだかんだ言っても命を賭ける稼業である。
モンスターとの戦いで命を落とすものも少なくない。
モモは見ればかなり華奢な体つきだし、冒険者としては珍しいタイプと言えた。
「これでも意外と戦闘じゃ大活躍なんだよ、許してやってくれ」
「ああ、別に怒っているわけじゃないんだ。ただ冒険者としては珍しいタイプだと思ってな。やっぱり、モモは魔術師なのか?」
戦士は身体の鍛錬を必要とするが、魔術師は精神の鍛錬を必要とする。
華奢な体つきでも魔術師であれば冒険者が務まるだろう。
パーティーのバランスというものは非常に大切なので、見たところガタイの良いバドルットがタフネスの必要な前衛。
そして、モモとセシリアが後衛を担当していると見るのが妥当か。
もしくは前衛が二人というパターンもあり得る。
しかし、バドルットからの返事は意外なものだった。
「何言ってんだよ。魔術師ならここに居るだろう」
「どこに……?」
「オレだよオレ! このバドルットがいるだろう!」
バドルットは右腕で力こぶを作りながらそう言ってくる。
……?
どうやら、俺をからかっているようだな。
「おいおい、バドルットが魔術師とでも言うのか?」
「そのとおり! オレァばりばりの魔術師だぜ。カラダを鍛えるのは趣味だ」
俺はそっとロードリスに目配せする。
「ああ、嘘だと思ったのかい~? 嘘みたいだけど、本当なんだよね~。バドルットはウチで一番腕の良い魔術師だよ」
……驚いたな。
ロードリスがそう言うということは本当にバドルットが魔術師なのだろう。
しかし、そうなると前衛は一体誰だ?
「じゃあ、前衛はセシリアがやっているのか?」
「まぁそう思うわよね。でも、私はアサシンだから前衛はできないの」
「となると……まさか……前衛はモモなのか!?」
みんなが一斉に頷いた。
モモの方を見れば、とても前衛が務まるようには思えないのだが……
「不安か? でも、安心しろよ。二日後の遠征のときにモモは最高の前衛だってわかるからよ!」
「ボクもその点は保証しよう。バドルットの代わりなら居るかも知れないけど、モモの代わりは居ないってほどの逸材だよ~」
「おいおいおい! オレにだって代わりは居ねぇよ!」
バドルットとロードリスのやりとりで思わず笑ってしまう。
”魔術結社”の雰囲気は非常に良いみたいだ。
「さぁさぁ、料理が冷めちゃうからそろそろ始めるよ!」
みんなが飲み物のジョッキを手にする。
「新たなメンバー、マグナの加入を祝って……カンパ~イ!」
ロードリスの掛け声とともに宴会が幕を開ける。
俺の歓迎会はとても楽しいもので、俺としても随分と緊張が和らいだ。
きっと、ここでなら心機一転で新たな仲間とともにやっていけるだろう。
俺を誘ってくれたロードリスのためにも、Sランクパーティーに見合った働きをしないとな。
まずは二日後のルドルツカ遺跡への遠征。
そこで俺の力を十分に発揮するとしよう。
*
俺は”魔術結社”の仲間たちとルドルツカ遺跡にやってきていた。
「すごいじゃねぇか、マグナ。なんでこんな道中モンスターに会わねぇんだ!?」
「もっとかかると思っていたのに、こんなに早く着くなんて」
バドルットとセシリアがルドルツカ遺跡に早く着いたことに驚いていた。
早速、俺は一つの仕事をこなせたようだな。
「街からルドルツカ遺跡までのルートに出てくるモンスターを把握して適切なルート選びと対策を行えば、モンスターとの遭遇をだいぶ減らせるんだ」
例えば、今回はルドルツカ遺跡まで直線で向かったのではなく、林になっているところを避けた。
林にはフォレストウルフ等の事前対処が難しいモンスターが生息しているからだ。
また、ゴースト系のモンスターが出る地域をあえて通り、聖水をふりかけながら進んでいた。
ゴースト系のモンスターは聖水から離れる性質があるので、絶対とは言えないが遭遇率を大幅に下げることができるというわけだ。
「じゃあ、道中出てくるモンスターを全部覚えてるってのか?」
「戦闘要員に負担をかけないようにするには当然のことだろう」
目的地までの道中にモンスターに遭遇すれば、それだけ消耗する。
俺は直接的な戦闘力はないのだから、そういった部分で貢献するものだろう。
「こりゃぁ、ロードリスが欲しがるのも当然だな」
「ええ、二日かかる予定だったのを一日でいいなんて言うから信じられなかったけど、確かにこれなら手早く終わらせられそうね」
バドルットたちは遺跡を目の前にして意気込んでいる。
しかし、これから遺跡に入るわけだが、一つだけ俺には気になっていることがあった。
「結局、モモに前衛が務まるのか? これまでの戦闘では特に何もしてなかったみたいだけど」
モモが前衛だと聞いていたのだが、道中の戦闘では全く何もしていなかった。
基本的に道中のモンスターはそんなに強くないので、セシリアやバドルットが一人で対処可能だったこともあり、モモの実力は全く分からずじまいだ。
「…………いまから、じゅんびする」
「マグナ、ここからがお楽しみだぜ? よく見とけよ」
見ておく?
何を?
そう思ってモモを見ていると、モモは背負っていた鞄から金属製と見られる立方体を取り出した。
立方体の表面には複雑な模様が描かれているように見えるが、それが一体なんなのかは分からない。
そもそも、こんなものを見たことがなかった。
これで一体何をするというのだろうか。
「……”機械装甲形態”」
モモがそう言った瞬間だった。
その金属の立方体はガシャガシャと音を立てて変形していく。
その変形はモモを覆うように行われ、少ししてプシューっという音ともに煙が吐き出されてすべてが終了したようだ。
「これは……」
目の前にいるのは確かにモモのはずだが、そこに居るのは全身鎧の大男にも見える。
だいたい身長は二メートルほどだろうか。
モモの身長は百五十がせいぜいといったくらいだったと思うので、かなりサイズが増している。
「モモなのか……?」
「……わたしはたたかうとき、こうする」
「さすがモモの”迷宮遺物”ね」
バドルットとセシリアが言うには、これはモモが持つ”迷宮遺物”らしい。
普段は金属の立方体でしかないのだが、モモが言う特定の言葉に反応して全身を覆う装甲鎧として機能するという。
また、その鎧自体が乗り物のようになっており、モモのように小柄な人物でもこのサイズの鎧を使うことができる。
ここまで大掛かりで精巧な”迷宮遺物”は非常に珍しいだろう。
売れば一生どころか三代は遊んで暮らせるに違いない。
「……わたしのすきるは【操縦】……。……どんなものでも、のりこなせる」
スキルの【操縦】と言えば、乗り物の操作が完璧にできるスキルだ。
主に馬などの騎乗などに活かされると聞いていたが、まさか乗り物のようになっている”迷宮遺物”にも効果があるとは知らなかった。
確かに、これであれば前衛を十分にこなせるだろう。
「モモも戦闘体勢を整えたみたいだし、早速行こうぜ!」
「ええ、さっさと終わらせちゃいましょう」
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