【ドルトン視点】奴隷を雇って来たはいいが……
「オイ、マグナ! 水! ……って、あーそうか。あいつは追放したんだった」
オレの後ろに居るのはマギアとナティカ、そして奴隷として買った女が一人だ。
奴隷は二人用意したので、俺の前にもう一人居る。
奴隷はそれなりに高かったが、一度買っちまえば給料を渡す必要はねぇ。
長い目で見ればあの使えないゴミが居るよりも有用だ。
「オイ、ベスタ! なにもたもたしてる。水を出せ!」
オレが買った奴隷の一人、ベスタが背負った鞄をおろし、もたもたと水を取り出そうとする。
あぁ、クソ。
もっと早く取り出せねぇのかよ!
「おい、なにしてんだ!」
「すみません……今探していますから」
少ししてベスタが水を手渡してくる。
本当にどんくさいやつだ。
オレは水の入った容器を受け取ると、しゃがんでいたベスタを蹴り上げた。
「次からはもっと早く取り出せよ」
「すみません……すみません……」
「それで、シルバ! まだ着かないのか!?」
オレは先頭を歩く奴隷のシルバに声をかける。
結構歩いたっていうのにまだ目的のモンスターが居る場所に着かない。
「すみません……! 地図通りに進んでいるんですが……」
「本当かよ? いつもだったら着いてる頃だぞ。お前、道を間違えたりしたんじゃないだろうな?」
「地図通りに進んできたのであってるはずです!」
「今どの辺だ。見せてみろ!」
シルバは地図の一点を指差し、「この辺のはずです」と答えた。
だが、それは目的地にはもう三十分ほどは歩かないといけない位置。
ここまでに道を間違えていたに違いなかった。
「ふざけんな! 道案内すらできねぇのか」
オレはシルバの脚を蹴る。
奴隷に物を教え込むには痛みが必要だ。
決してオレがイラついているからではない。
「すみません。すみません……」
シルバがしゃがみこんで謝っているが、本当にこいつ反省してんのか?
あー、クソ。
マグナとかいうゴミが居なくなったというのに、いつもより疲れるとは本当に失敗だった。
マグナは道案内くらいはまともにできていた。
今回はと言えば奴隷が道を間違えた上に、運悪く道中で出会う魔物の数も多い。
「チッ……まぁいい。とにかく進むぞ。今回の依頼は王から直々のロイヤル・クエストなんだからな。失敗するわけにはいかねぇ」
そうだ……今回のクエストはロイヤル・パーティーであるオレたちに王が依頼してきたもの。
その内容は、ガーディアンゴーレムを討伐しそのコアを持ち帰ることだ。
ガーディアンゴーレムのコアは高価な宝石としても扱われる。
このクエストを成功すれば、かなりの報酬と名声が手に入ることだろう。
それを考えれば……少しくらいは我慢してやるか……
「まぁいい。早く起きて道案内しろ。どうせガーディアンゴーレムなんて俺たちの敵じゃねぇんだしよ」
これまでもガーディアンゴーレムを二体ほどは狩ったことがある。
弱い相手ではないが、足手まといを追放した今ならもっと余裕なはずだ。
「それにしても今日、モンスター多くない!?」
マギアがそう言って杖を構えた。
前方を見れば、見慣れた獣のモンスターが近づいてきている。
ああ、ほんとついてねぇな。
「さっさと倒してガーディアンゴーレムのところまで行くぞ」
*
……なお、奴隷たちは決して要領が悪いわけではなかった。
マグナが異常だったのだ。
【在庫管理】で的確に物を取り出せるマグナに慣れていただけ。
マグナがいるのが普通だったから、ドルトンたちはそれに気づけないのだ。
さらに、道案内も奴隷が道を間違えたように感じただろうが、決して間違えてなどいなかった。
奴隷が選んだのは”最短距離”のルート。
道案内としての仕事は十分に果たしていた。
だが、マグナが選んでいたのは”最短時間”のルート。
モンスターや地形の知識を駆使して、最も疲労が蓄積しないルートをマグナは案内していた。
もちろん、ドルトンたちはそれが普通だったから、それを知らないのである。
マグナを欠いて苦戦するドルトンたち。
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