雑務最強の男、早速遠征の日程が決まる
「契約内容に全く不満はない。というか、至れり尽くせりと言った感じで信じられないくらいだ。だけど、一つだけ俺からの希望があるんだが……」
「もちろんもちろん、何でも言ってくれたまえ~。お金でも、魔術道具でも、なんならボクの身体でも何でも差し出すから~」
「そんなものはいいんだが」
「そんなものっ!? ボクの身体がっ!?」
ロードリスがショックを受けた顔でこちらを見てくる。
……いや、俺が言ったのはお金や魔術道具の話だ。
だいたい、その発言は明らかに冗談だっただろう。
だから触れないようにしただけなんだが。
まぁ、ロードリスはいつもこんな調子だし、気にしなくていいか。
「俺はずっと太陽鳥サンファナスから取れる太陽の冠羽という素材を探している。もしも、”魔術結社”がサンファナスの討伐に成功したら、俺にその素材を買い取らせてほしいんだ」
「なるほどなるほど。買い取ると言わず、その時には太陽の冠羽はキミのものとしよう。それで良いかな?」
「いいのか? 未確認モンスターの素材は貴重だろ?」
「そう都合良く未確認モンスターに出会えるとは限らないし、キミを引き入れられるなら安いもんさ~。ささ、ここにサインしてくれたまえ~」
ロードリスは俺にペンを差し出してくる。
この条件であれば、俺が断る理由などなにもない。
俺は迷うことなく契約書にサインをした。
ロードリスは俺が名前を書き入れた契約書を両手で持って見つめている。
なにやら「ついに、ついに……マグナを”魔術結社”に引き入れたぞ!!」と契約書を掲げているようだ。
少し怖い。
「これでオレたちぁ仲間だな。改めてよろしくな、マグナ」
バドルットが手を差し出して来たので、握手で応える。
見た目どおり力が強いようで、少し痛かった。
「ロードリス、次の遠征は三日後だけど、彼はどうするの?」
「早速マグナにはついていってもらうことにしよう。マグナには事務処理と戦闘の両面で期待をかけているからね~」
「遠征?」
「ええ、三日後にルドルツカ遺跡にキマイラの素材を取りに行くことになってるの」
ルドルツカ遺跡といえば、”剛龍の炎”にいたときにも何度か訪れた場所だ。
俗に言うダンジョンという場所で、中はモンスターの巣窟になっている。
ダンジョンは内部に定期的にモンスターを生み出す場所のことを指しており、まだまだ未探索のダンジョンも多い。
ダンジョンの内部には現代の技術では解明不可能な道具や装備……通称”迷宮遺物”が落ちていることもあり、探索する価値は非常に大きいものとなっている。
ただし、ルドルツカ遺跡はすでにすべてのフロアの探索が終了しているダンジョンだ。
全五層からなる地下遺跡であり、隅々まで探索されているので”迷宮遺物”や財宝があるとは考えづらいだろう。
それでも、モンスターが定期的に生み出される性質から狩場としての価値が高い場所であった。
特に五層に生息するキマイラは強力なモンスターだが、全身に多くの魔力を含んでいることから素材としての価値が高いのだ。
「なるほどな。俺はそれに同行すれば良いのか?」
「そのとおりだとも。ボクは滅多に戦闘には出ないから一緒に行けなくて残念だよ~。今ここにいるボク以外の四人で行って貰う予定だから、よろしく頼んだよ」
そう言うロードリスに対して、セシリアが疑問を投げかける。
「ロードリス……? もともとは八人程度で行く予定だったはずじゃ?」
「マグナいれば大丈夫だよ~。そうだろ? マグナ」
「もう少し話を聞かないと答えられないが、ルドルツカ遺跡でキマイラの素材を取るだけだろ? 四人で問題ないと思うが」
ルドルツカ遺跡はそこまで遠くないし、長くても二日あれば十分だな。
いや、手際が良ければ日帰りでもどうにかなるはずだ。
大掛かりな準備は必要ない。
少人数でもキマイラの素材だけを取ってくるなら問題ないだろう。
「本当に? でも、四人だけじゃ十分な素材を持って帰れないわよ」
「それは心配ない。俺には【在庫管理】のスキルがある」
「【在庫管理】?」
「【アイテムボックス】のようなスキルだ」
【アイテムボックス】は亜空間に物を収納できるスキルとして知られている。
俺の【在庫管理】はパーティーメンバーのスタミナや魔力なども在庫として管理できるが、それ以外は【アイテムボックス】とほとんど変わらない。
「ルドルツカ遺跡第五層のキマイラは最大でも二体までしか同時に出現しないことが知られている。ニ体分の素材であればまるごと【在庫管理】で収納することが可能だ。物資の管理は俺に任せてくれ」
「よく知ってるのね。それなら、問題はないと考えましょう」
「そういうわけだから~。三日後、よろしく頼んだよ~」
こうして、俺は三日後のルドルツカ遺跡遠征に早速同行することになった。
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次回はドルトン視点です。