雑務最強の男、新たな仲間と対面する
”魔術結社”の拠点は外れにあったが、大きさは大層なものだった。
というか……これ、工場みたいだな……?
「おや、驚いているようだね~。”魔術結社”の拠点は魔術道具の製造や研究も同時に行っているから、作業スペースを多く作っているんだ~」
「なるほど、だからこんなに大きいのか」
「そういうこと。さぁ、入ってくれたまえ!」
俺はロードリスに案内されて、いかにも客間と言ったスペースに通される。
中央には高級そうな四角の机が置いてあり、四方には椅子もあった。
「それじゃあ、キミはそこで座っていてくれ。すぐに契約内容の調整に入るから、少しだけそこで待っていてほしい」
そう言って、ロードリスは部屋を出ていった。
この客間はきっと”魔術結社”にクエストを依頼する人のために作られたものだろうな。
Sランクパーティーともなれば、冒険者向けに広く張り出されるクエストの他に個人でクエストを依頼してくる人が結構居る。
特に”魔術結社”は魔術道具の製造も行っているし、多くの依頼人が来るのだろう。
そんな事を考えながら待つこと数分。
ロードリスが戻ってきた。
「おまたせ~」
そして、ロードリスのあとについてくるように三人の人物が一緒に入ってきた。
一人はガタイの良いスキンヘッドのイカツイおっさん。
もう一人は軽装で鋭い目つきの銀髪の女性。
最後の一人はだぼたぼとした服を着ていて眠たい目をした黒髪の女性だった。
「紹介するよ~。この無愛想なおっさんがバドルット」
「無愛想ってこたぁねぇだろ? チャーミングなお目々だってよく言われるぜ」
「で、こっちの目線だけで人を殺しそうなのがセシリア」
「よろしく」
「最後に、この寝てるんだか起きてるんだかわからないのがモモ」
「…………」
「”魔術結社”の主要メンバーだから同席してもらおうと思ってね~。実を言えば、”魔術結社”の所属員のほとんどは魔術道具作成や物資運搬などの仕事をやってもらっている。だから、冒険者業としてはこの三人がメインなんだ」
なるほど、冒険に同行する可能性の高い俺を加入させるにあたって、契約内容を確認させるために呼んできたというわけか。
「よろしくお願いします。マグナです」
「そうかしこまらなくていいよ~。いつもどおり話してくれたまえ」
「ああ、そうだぜ。冒険者同士フランクに話そう」
バドルットがそう言って左に座った。
続けてセシリアが正面、モモが右という形でそれぞれ座る。
そして、ロードリスは何故か俺の隣に座った。
「……? どうして隣に座るんだ?」
「ほら、三人連れて来ちゃったからボクが座る場所がないだろう? だから、ここに座ったんだ~」
「いや、これじゃ話し合いにくいだろ?」
「大丈夫大丈夫、この契約書を見て話すんだから同じ向きのほうが話し合いやすいって~」
なんだか納得がいかないが、別に話し合いができないわけではない。
俺は諦めてロードリスが机に置いた契約書を見ることにした。
特に契約内容に問題は……
「…………月々の報酬が六十万ベスタ!? これ間違ってないか!?」
俺が以前居た”剛龍の炎”では報酬は山分けだった。
討伐したモンスター次第で上下するが、平均すればだいたい月に四十万ベスタほどの稼ぎだったか。
それより二十万ベスタも多いというのは信じられない。
”剛龍の炎”は四人パーティーだったから、稼ぎ自体は多かったはずなんだが……
「いいや、キミを雇うなら当然だろ~。ここに居るみんなも同じ額で働いてもらってるんだ。異論がある者は居ないだろ?」
「オレァ文句はねーぜ。ロードリスから散々話は聞いてたしな」
「私も構わない。今後見極める必要はあるけれど」
「…………いぎなし」
どうも、みんなは随分と高く俺を買ってくれているらしい。
だが、ここに居る人たちは”魔術結社”の主要メンバーのはずだ。
いきなり来た俺が主要メンバーと同じ分前を貰って、”魔術結社”としては大丈夫なのだろうか?
「”剛龍の炎”に居たときよりも高い給料って……そんなにもらっても”魔術結社”はやっていけるのか?」
「心配ないよ~。”魔術結社”は冒険者業はもちろんのこと、その冒険者業で集めた素材を魔術道具にして販売しているからね。冒険者業の稼ぎよりも魔術道具の売買での稼ぎが多いくらいなんだ~」
「……そうか、そう言うなら俺としてはありがたい限りだが」
最後にロードリスが小さく何かを呟いたが聞き取れなかった。
なんか「それにマグナを引き入れるためだけに積み立てを行ってきたからね」と聞こえた気もするが、さすがにそんなことはないだろう。
……お金はあるに越したことはない。
この契約書に書かれている内容は一通り目を通したが、破格の高待遇で俺と契約する内容ばかりが書かれていた。
とはいえ、俺の目的はお金じゃないからな。
俺が契約で確認したかったことはただ一つだった。
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