雑務最強の男、新たなパーティーに誘われる
さて、そんなわけで一人になってしまったわけだが、このままだと色々と困る。
別にそれはお金のことじゃない。
俺が冒険者をやっていたのにはちゃんと理由があるのだ。
「太陽鳥サンファナス……一体どこに居るんだ……」
俺は一冊の本のとあるページに視線を落としながら呟く。
このページに描かれているのは一匹の不死鳥のような鳥のイラストだ。
……俺の目的はただ一つ。
太陽鳥サンファナスと呼ばれる、全身が燃えている鳥のモンスターから取れる素材……”太陽の冠羽”を手に入れることだ。
太陽の冠羽はサンファナスの頭頂部に生えている羽で、サンファナスが死んだ後もずっと燃え続け、その火はあらゆるものを溶かす力を持っているという。
だが、俺が見ているこのモンスター図鑑は、知らないモンスターの特徴を知ることができるというスキル【モンスターの知識】を持つ者が作った図鑑だ。
情報は断片的だが、ある程度信頼することができる。
そして、サンファナスはその未確認のモンスターなのだ。
だが、図鑑に載っている以上は未開のダンジョンや土地……世界のどこかに必ず居るはず……
「絶対に……手に入れてみせる」
このような未確認モンスターの素材は需要も高く、基本的には市場に流通することはない。
だから、仮にサンファナスが見つかったとしてもその素材を手に入れることは不可能に近かった。
だが、例外が一つだけある……
それは、サンファナスを討伐するパーティーに俺が在籍していれば良いのだ。
もちろんパーティー内での交渉は必要だろうが、市場に出回るのを待つよりはずっと可能性が高い方法だった。
そのとき……
広場でモンスター図鑑を読んでいた俺に声をかける人物が現れた。
「おやおや~、マグナじゃないか。奇遇だね~、こんなところで会うなんて」
現れたのは、黒い服の上に白衣を羽織ったメガネの女性……ロードリスだ。
赤茶色の長い髪は後ろで留めてあるが、ボサボサである。
顔は良いはずなんだが……ボサボサの髪と血色の悪い肌色、そして目の下のクマのせいでイマイチ美人とは形容しがたいな。
「いや~、やっぱりボクたちは運命の赤い糸で結ばれてるのかもしれないよ~? こんなところで出会っちゃうくらいだし」
「この辺だったら割と会うだろ」
「そう言わないでさ~」
ロードリスは俺に会うたびに声をかけてくる。
そして、その内容はいつもこうだ……
「それで、ボクの誘いに乗る気になったかい? ボクは君がボクのパーティーに入ってくれるまで何度でも誘うからさ~。ホラホラ、入っちゃいなよ~」
このロードリスは冒険者であり、Sランクパーティー”魔術結社”のリーダーでもある。
“魔術結社”が抱えるメンバー数は実に五十人以上。
冒険者としてのモンスター討伐の他にも魔術道具開発などにも力を入れていて、もはやただのパーティーと言うよりは小さな企業と言って良い。
この王都を拠点にしているSランクパーティーは多いが、その中でも最大手のパーティーだと言って良かった。
「ああ、お前のところに加入させてくれ」
「そうだよね~。ボクの誘いをキミが受けてくれたことは一度もなかったもんね~。ボクだってダメ元で聞いて……ってえぇぇぇ!? 今なんて言った!?」
「だから、”魔術結社”に加入させてくれと言ったんだ」
「うそうそうそうそ……嘘だろう!? キミが? ボクのパーティーに? あれだけ声をかけても首を縦に振らなかったのに?」
確かにロードリスの勧誘は度を越したものがあった。
今じゃこんなもんですんでいるが、少し前なんて自分がとった宿の部屋に何故か先回りしてロードリスが居たことすらあった。
お金や”魔術結社”の開発する魔術道具を提供するから来てくれと、金や物で釣ろうとされたことも数しれない。
だが、それらは全て断っていたんだ。
なぜなら、俺には”剛龍の炎”というパーティーの一員であるという責任があったから。
しかし、それも今となっては存在しない。
「もう一度だけ聞かせてくれ。ボクのパーティー……つまり”魔術結社”に加入してくれるってことでいいのかい?」
「ああ、そう言ってるだろ」
「…………」
ロードリスが俯いて、わなわなと震えた。
少しして顔を上げると……
「やったー! やったやったやったやったやったー! マグナが、あのマグナが、ボクのパーティーに入ってくれるぞ~~~!!!」
「なんでそんなに喜んでるんだよ。確かに勧誘はされてたけど、俺は別に戦闘ができたりするわけじゃないんだぞ。サポートがせいぜいだ」
「何を馬鹿なことを。キミと言えば”剛龍の炎”の要……人呼んで”雑務最強の男”じゃないか」
「雑務最強の男……?」
雑務最強ってなんだ……?
俺がそんな風に呼ばれているとは知らなかった。
「なんだ、知らなかったのかい?」
「いや……雑務最強って、その時点で馬鹿にされてないか?」
「何を言ってるんだキミは! キミの実力を疑う者が居るものか! だいたい、”剛龍の炎”がやってこれたのはほとんどキミ一人の力だろう」
「それは言いすぎだ。俺に戦闘力はほとんどない。本当に雑務をしていただけなんだぞ」
結局、Sランクパーティーにおいて一番重要なのは戦力だ。
数を揃えるのも確かに重要だが、相手が強大なモンスターになるほど個人の戦力というのが大切になってくる。
雑魚がいくら寄り集まったところで、強大な存在からしてみれば踏み潰すだけだからだ。
そういう意味では、俺が一番足手まといなのは事実だろう。
「いや、キミには【在庫管理】のスキルがあるだろう!?」
「確かに便利なスキルではあるが、戦闘力がないというのは事実だ」
「……パーティーを維持するのに必要なのは戦闘力だけじゃないはずだが……。まぁいい。それで……キミはウチに加入するって言うけど、”剛龍の炎”はやめてきたのかい?」
「ああ、それなら大丈夫だ。さっき追放されたよ」
「つつつつつ……追放!? 嘘だろ? キミが?」
何をそんなに驚いているというのか。
確かに俺は”剛龍の炎”で役に立っていたという自負はある。
俺のこなしてきたことが簡単なことではなかったとも思っている。
だが、それは”剛龍の炎”が少数でやっていたパーティーだからという側面が大きい。
何十人もメンバーを抱える”魔術結社”からしてみれば、雑務をやっているだけの俺が追放されることに何の疑問もないはずだ。
「冗談はよしてくれよ。本当のことを話してくれ」
「本当だって。嘘だと思うならリーダーのドルトンにでも聞いてみればいい」
「……その様子だと本当なんだな。開いた口が塞がらないとはこのことだよ」
「そんな驚くことないだろ。確かに”剛龍の炎”が俺を追放するのは良い選択とは思えないが、あいつらは俺のやっていたことくらいなら自分たちでもできると言ってたしな」
ロードリスはそれを聞いて、本当に口をあんぐりと開けて絶句していた。
「……いや、マジか……。この世界にはボクの理解できない思考というのが、本当に存在するのだな……」
「それで、”魔術結社”に加入する契約条件について話したいんだが」
「ああ、そうだな。こうしちゃいられない。経緯はどうあれ、ボクはキミという最高の人材を手に入れんだからね。急いで準備をしよう」
俺はロードリスに連れられて、”魔術結社”の拠点へと行くことになった。
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