雑務最強の男、追放される
「オイ、マグナ!」
「なんだ?」
部屋でいつものように必要な業務を手帳に書き出していたときのことだ。
突然、パーティーのリーダーである赤髪の剣士ドルトンが怒鳴り込んできた。
手帳を閉じて俺はドルトンの方を向く。
「あれ、みんなどうしたんだ?」
見れば、そこには他のパーティーメンバーも居る。
魔術師マギアと治療術師ナティカだ。
「なぁ、マグナ……オレたちはSランクパーティー”剛龍の炎”だよな?」
「なんで当たり前のことを聞きに来たんだ?」
俺たち四人は”剛龍の炎”というSランクパーティーだ。
冒険者はモンスター討伐やダンジョン探索を生業とし、パーティーを組んで活動する。
その中でもSランクパーティーというのは最上位に位置していた。
「オレたちは四人という少数でも、Sランクパーティーっていう実績を残してるよなぁ?」
「ああ、みんな頑張っていると思うよ」
普通、パーティーはランクが上がるにつれて人数を増やす傾向にある。
なぜならば、高ランクほど敵も強くなり、街から遠い場所に討伐に行くことが多いから人手が必要になるのだ。
だが、俺たちはそれでも四人でやってきた。
「じゃあ、確認するがよ……オレはパーティーの前衛として敵をなぎ倒しているし、スキル【絶対防御】で守りまでできる」
「そうだな」
ふむ……事実だな。
ドルトンは剣士としての腕前は非常に高い。
誰もが一つ授かるスキルも【絶対防御】という敵の攻撃を無効化する強力な効果を持ったものだ。
少し危なっかしいところもあるが、Sランクパーティーに相応しい剣士と言えるだろう。
「それで、マギアは魔術師として高火力だし、スキル【魔力節約】で魔力切れの心配も少ない」
「それもそうだな」
これも事実だな。
マギアは魔術師として高火力の魔法を覚えている。
それだけでなく、彼女のスキル【魔力節約】は魔術に使う魔力がすべて半分ですむという強力なスキルだ。
使える魔術の種類が少ない欠点はあるが、それを差し引いてもSランクパーティーに相応しい魔術師と言えるだろう。
「で、ナティカは治療術師として傷を癒やすとともに、スキル【防御変換】でパーティー全員に支援魔法をかけてくれている」
「さっきから何が言いたいんだよ?」
ナティカは治療術師として十分な回復力があるし、何よりスキル【防御変換】が優秀だ。
これは回復魔法を防御支援魔法として変換して使えるというスキルで、回復と支援を両立できる。
やはり彼女もSランクパーティーに相応しい治療術師と言えるだろう。
「じゃあ、ここで一つマグナに質問だ。お前は何をしている?」
「なにって、パーティーに必要な雑務全般だ」
「具体的になにしてるのか言ってみろよ」
「そうだな……パーティーに必要な武具や道具の買い出し、事前のルート選定やパーティーの体調管理、戦闘中のサポート、あとは……」
「馬鹿かオメェ!」
突然ドルトンが机をダンッと叩いて怒りをあらわにした。
「そんなもん誰でもできるだろうがよ! それがSランクパーティーに必要なことか!? 違うだろ!!」
「その認識は間違ってる」
ドルトンにこう言われるとは心外だ。
パーティーの雑務は見た目以上に大事な仕事で、疎かにすれば戦闘にも影響が出る部分だぞ。
事前の準備で疲労の度合いは変わってくるし、俺が戦闘中も必要な場面で囮を引き受けてみんなの負担を減らしているはずだ。
何故ここまで言われないといけないんだ!?
「いいや、間違ってないね。オレたちはもう国王様にも目をかけてもらっている。Sランクパーティーの中でも個々の戦力が特に強いのがオレたちだ! だが、お前はどうだ。雑務をやってる? くだらねぇ!」
王に目をかけられているというのも事実で、俺たちは王に認められたパーティーである”ロイヤル・パーティー”にも名を連ねている。
だが、だからこそ、よりパーティーとして慎重に行動しないといけないはずだろ。
「便利といえば便利だが、戦闘で使えないゴミスキル【在庫管理】だしよ……そのくせ、戦闘中はいちいち指示してきやがる! 癪にさわんだよ!」
「指示と言っても強制しているわけじゃない。俺はパーティーにとって効率が良くなるようにしているだけだ」
「しかも、狩りの終わりには何もしてねぇくせにいつも疲れた顔しやがって。指示出してるだけのやつは楽でいいよなぁ!? オイ!」
「それは違う!」
俺の【在庫管理】というスキルは【アイテムボックス】のように亜空間に物を収納できる効果を持つ。
だが、それに加えて、パーティーメンバーのスタミナや魔力も”在庫”として操作できるのだ。
しかし、この能力で他人の許可なく他人のスタミナや魔力を引き出すことはできない。
そのため、いつもは自分のスタミナや魔力をメンバーに分け与えてサポートしていたのだ。
もちろん、その分の疲労は俺にのしかかる。
それを説明しようとしたのだが……
「言い訳はいい! マグナはパーティーに必要ない! マギアもそう思うだろ?」
「ええ、正直マグナのやっていることはアタシたちだけでもできることよ」
ドルトンたちは立て続けにまくし立ててきた。
見れば、マギアまでドルトンに加勢している。
「今のところお前が役に立ってるのは荷物持ちとしてだけだ! それだったら奴隷でも雇ったほうが安くすむだろうがよ! とにかく、お前はパーティーに必要ないんだよ!!」
なるほどな……最初から俺の言葉なんて聞くつもりがなかったのか。
ここまで言われるとさすがの俺もドルトンが何を言いたいのか察することができた。
「もしかして……俺を追放しようって言うのか?」
「はっ、なんだよ。察しが良いじゃねぇか。その察しの良さだけは使える点として認めてやるよ」
ドルトンがニヤつきながら俺を見下した目で見ていた。
周りのマギアとナティカも同じような目で俺のことを見ている。
……はぁ、そうか。
俺はパーティーのためにと思ってこれまで尽力してきたが、どうやらドルトンたちのお気に召さなかったようだな。
「マグナ、お前は追放だ! オレたち”剛龍の炎”にお前は必要ねぇ。そうすれば、オレたちの取り分はもっと増える。もっと早くこうすべきだったぜ」
「……これまで世話になったな」
この様子では俺が何か言っても無駄だろう。
もともと俺の取り分はパーティーの物資の購入に充てていたからみんなより実質少なかったわけだが、それでもSランクパーティーともなればそれなりの稼ぎがあった。
入ったそばからお金を使ってしまう皆と違って俺はある程度は蓄えがある。
すぐに路頭に迷うということはないはずだ。
「ああ、さっさとどっかに行けよ。本当はこれまでの金も返して欲しいくらいだけどよ。オレたちは優しいからそこまではしねえ」
「……そうか。じゃあな」
普通、パーティーを追放しても金まで取らねぇだろ。
取ったらそれはもはや追い剥ぎだ。
そんなことを思いつつ、俺は部屋を去っていく。
去り際に振り返ってドルトンとマギアとナティカの様子を見れば、随分と仲良さそうにベタベタとしていた。
その距離は冒険者仲間や友達として見るには近すぎる距離だ。
……ああ、俺はある程度今回の追放理由を察した。
ドルトンは俺が使えないからと言っていて、そう思っているのはきっと嘘ではないのだろう。
そして、取り分が増えるという理由もきっと嘘ではない。
だが、それ以上にパーティーをドルトン好みのハーレムパーティーにでもしたかったのだろう。
男の俺は邪魔だったと、そういうわけか。
まぁでも、冒険者をやっていればこういう話を聞かないわけでもない。
これまで他人事だと思っていたが、そんなことなかったようだな。
そういうことが理由では、何かを言ったところで無駄だ。
諦めて、受け入れるしかない。
……こうして、俺はSランクパーティーを追放された。
*
だが、すべてマグナに任せて何もやってこなかったドルトンたちは知らなかった。
――マグナがやっていた”雑務”が簡単ではないということを。
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