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たそがれ通りの異世界人  作者: 篠田 朗
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第七十二話



 ♪ にゃーんこにゃんこ にゃんこやで~ 

      アンタのかわいい にゃんこやでぇ~ ♪

   ♪ 愛情つたえるかわりに~

      ω 揺するのっ♡ ♪  ぷるんっ!



 他の連中には「にゃーにゃにゃんにゃん」くらいにしか聞こえないんだろうけど、俺のほうにはさ、念話でしっかり伝わってくんのよ。「ぷるんっ!」のところで尻振ってちょっとかわいいかとも思ったけど、そーとー下品な歌だよな。


『下品とは何だ。人間は知らないかもしんないけど、にあにあ言いながら歩いてるネコのおよそ半分は大概こんな歌うたってんだぞ。』


『マジで?』


『おうともよ。今はちょうど発情期(そういう時期)でもあるだろ?だーから町中なんてすごいんだから。サカったヤツらがあちこちでぶるぶる言わしてらあ。』


『知らんかったな~、勉強んなるわ~…ってそうじゃなくて。』


『何だよ。』


『次の石を置いてくからさ、そこどいてくれよ。』


『あ、ごめん。』


 伸ばした右手のラインを意識して、水糸に合わせて慎重に…


「アイテムボックス、カスタム取り出し。『5メートル大型石材』縦列3連!」


 ふぅおんぅおんぅおん


 【大岩盤】をくり抜いて生じた、トンネルと同じ形の石材が一直線に並ぶ。端っこは……おっし、きちんと糸に合ってる。やっぱこういうのはピシィッっとしてなければいかん。

 シャールカの地均し・地固めもばっちりで大重量の石材だというのに少しも沈んだ形跡がない。やっぱアイツ()()()()()()()()だけあって(出た、とは言わない)、こういう地味な作業の魔法でもちゃんとしてるんだな。

 それでも人間のやることに限界はあるわけで。

 

「さすがにこの規模だと魔力がもたないわ。アタシの午前中の仕事は終わり。魔力回復の【瞑睡】をするからあとはそっちで…」


と言い残し、本部ログハウスの休憩室に戻っていった。はい、お疲れさん。午後もよろしく。



 ロビンのくだらん歌で脱力したり、()()()()()()()()魔力不足に陥り失神したシャールカを運んだり、ヨツキバイノシシとかいうのに出くわしたりといった小ネタはあったが、コルネリアから希望のあったほぼその通りに石材の配置が済むまで、わずか二日しかかからなかった。

 あ~、この【アイテムボックス】だけでも地球に戻る時に残せんもんかな。土木の一人親方でも十分食っていけるで、これ。重機を借りる必要ないもんな。



   ・   ・   ・   ・   ・



「作業の様子は拝見しておりましたが、いざこうして出来上がってみると…いやはやなんとも大したものですな…」


 手をかざし、圃場と付随施設一切を正方形に取り囲む高さ3.5メートルの真白な岩の壁を見まわしながらヘルマン氏が感心八割困惑二割の声で言う。


「東西南北の四か所に馬車が通れるサイズの門を設けてます。んで北東、北西、南東、南西には通用口を。ジョナサンがランドルトン(むこう)から木材を運んできてくれたので、それで各門の門扉を作りましょう。もちろん、トンネルのほうの防扉も。」


「ええ、お疲れのところ心苦しいのですが、そちらも是非。」


「でもさあツクさぁん、この『壁』?せっかくの城壁サイズなんだからさ、上に通路とかあったほうが使い勝手もいいと思うんだけど、そーゆーのはダメなの?」


「心配するなレナータ。勿論ちゃんと考えてある。ちょっと、皆そこに場所を作ってくれるか?」


 どいてくれたのを確認したらアイテムボックスから()()()()()()()の【石材サンプル】を取り出す。


「「 おおう… 」」


「全体をこんなカンジに仕上げてみようと思うんだが、皆の意見を聞かせてほしい。」


 解説しよう。上面の半円部は外側に向いたほうを残し、あとは削って通路(キャットウォーク)に。下部壁体は中をくり抜いてこれも通路にし、内側に向いたほうは間隔を空けて通気と明り取りを兼ねた大きな開口部を設ける。


「あとは…こんなふうに何か所かに梯子を置けば…上へのアクセスも簡単だ。外周部への警戒はもちろん、天候の悪い日に使える環状作業通路にもなる。」


 中をくり抜いたことで重量も軽減して今後の沈み込みへの対策にもなる。弓を扱える人間が多いのなら狭間を拵えてもいいんだが当面は警備の手も限られるし、何より開口部は壁面を登るための手がかり足がかりにもなる。ぜひとも欲しい、という声がない限りはやらんほうがいいか。


 現物を見ながら確認してもらうと、俺は気づかなかったアレコレの指摘も入る。


「上の通路は雨をかぶるだろう?水抜きの穴を開けたほうがいい。いや、それだと棒を差し込んで足場にされるから内側に向けて樋を掘る?」


「梯子よりも階段のほうがいいんじゃないの?重いものを上げなきゃならなくなってもそっちの方がラクでしょ。」


「上の通路は外側の壁面と距離があるスから、意外と死角も多いス。警戒のために四隅にもう少し高さのある物見塔があったらどうスか?」


「いいこと思いついた!ツクさん、昼寝のできる場所も作ってくださいよ!」


 レナータのは別として、なかなか参考になる。水抜きに階段、物見塔ね…


「ツクル殿!これは建築の新時代到来ですぞ!鉄より頑丈で機能満載!ああ、新たな利益を生む道筋が見えて参りましたぞおおお!」


 すんません。興味はあるけど新手の商売の話はまた今度。


「…うちの住人の家やら倉庫やら、全部コレで作らすか…」


「問題は何を報酬にするか、ですな…。ジャンニーニんとこの娘に『いい婿紹介するぞ』とか言っときやしょうか?」


 悪だくみはやめなさい。あと、ジャンニーニんとこの娘さんとやらについて容姿・年齢・性格などを簡潔にまとめて教えなさい。さすがに婿入りはせんが。


 あーだこーだの話を聞き取り、時間をおいて思いつくことがあるかもしれないのでそこは宿題として取りあえず一区切り。とりあえずは各所の門扉作りからかな。


「…!…姐さん、ツクル。今思いついたことがあるんスけど。」


「何かあんのかい、副頭(サブ)?」


「せっかく作った後で言うのもなんスけど、門は一つ二つ残して塞いだほうがいいんじゃないスか?ここはまだ人の出入りが頻繁じゃないうえに警備に充てられる人数も大したことないス。どうせ出入りするのは商会の馬車かランドルトンの人間だけスから、【大断崖】のトンネルに近い門と一番遠い通用口だけ残してあとは塞いだ方が警備もしやすくなると思うス。」


「くっくっく、そういうのは先に言ってやんなよ。なあツクル?」


「…すんませんス」


「いや、レベッカ気にしなくていい。言われてみれば俺もその通りだと思う。よし、それじゃ北の門と南西の通用口だけ扉を作り、後は石で塞ぐ。ヘルマンさん、いかがですか?」


「それでいきましょう。レベッカ、良い知恵を出してくれたね。有難う。」



   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



「こーこでさーいご、で、す、よっと…。」


 北西の通用口から順に塞いだり門扉を設置したりしながら時計回りに作業を進め、ここは最後の東門。内側は分厚い扉、と言うより閉鎖隔壁をはめて閂で固定。外側からは門と同じ形に整形した石材を栓のように挿し込み配置。


「レベッカ、レナータ、ジョアンナ、チェックを頼む。」


「んス。」

「ういーす。」

「ワカッタ。」


 レベッカは脚立を立てて上の方から地面に接するあたりまで、継ぎ目部分を指で撫でて確認する。ちょっとでも外側への出っ張りがあったら、侵入者はそれを手がかり指がかりにするかもしれん。


「こっちは大丈夫ス。」

「ツクさん、隙間も問題なし。」


 レナータのナイフの刃もジョアンナの尻尾の先の毛も(一番細いらしい)、壁と充填石材の間にはみりとも入らないとのこと。OK、これなら何かを挿し込まれて壁を上る足場にされることもないだろう。


「よーし、そんじゃ次はトンネルだ。行こう。」


 資材を【アイテムボックス】に収納し、三人を引き連れ(正確には三人に護ってもらいながら)トンネルの出入り口へ。今はまだ【大断崖】にぽっかり口を開けているだけだが、いずれはもっと強固で立派な芸術性あふれるものにしたい。なんせヘルマン氏はこれをお役所に「旧時代の遺構」なんて報告してるらしいからな。それっぽいデザインにして見た者をあっと言わせるようなものでなくては。まあ、あくまで「いずれ」の話なんで、今回は機能最優先で仕上げておこう。


 トンネルを掘った時と同じように、【アイテムボックス】のカスタム収納で出入り口を拡大するように少し掘り進め、あっちを削りこっちを削り穴を掘り溝を彫る。完成したのはいわゆる「引き戸」。トンネルの内側からだけ、心張り棒をあてがったり戸袋に収納したりができる親切設計。これはこれでいい出来だと自分でも思う。戸を厚め木材で作ったから多少重量はあるが、そのぶん耐久性は高い。そのうちもっと使いやすいように改良しなきゃな。


「さて、作業も終わったし今日のところは引き揚げてメシにするか。」


「ツクさん!あの(オリザ)の炊いたやつまた食べたい!」


「じょなさんトはりーニじょおノオカワリヲ食ベラレタ。少シオオメニツクルガイイ。」


「パエージャか。そうだな、そんじゃ今日は具材を変えてみるか。リクエストは?」


「肉。イイカ、つくる。肉ヲイッパイ入レル。ソレ美味イ。ユエニ正義。」


「肉もいいけど、あれってもっといろんな具を入れるのもあるって言ってたじゃないですか。だからこう、『お祭りだー!』って言いたくなるくらいいろんな具がたくさん入ってるやつがいい!」


 ふむ。確か【アイテムボックス】に鶏肉も豚バラのブロックもあったな。あさりのむき身、イカ、エビは冷凍のがある。あ、前にジョナサンが獲ってきた鳥の肉も少し残ってたな。アレも使うか。


「レベッカ、何か希望はあるか?全部はムリかもしれんが可能な限り聞くぞ。」


「……いやつ。」


「?」


「何か……甘いのを食べたい…ス…」


「うーわー、副頭(サブ)かーわーいーいー!『肉入レロ』とか『たくさん!いっぱい!』って言ってたアタシら立つ瀬ないよ?」


「肉ガタクサン入ッテコロコロシテルノハカワイヒト思フガ?」


「わかった。レベッカのリクエストじゃ無視もできん。今日は何かデザートも作ろう……」



 育種園の中に入り、竃に炭火を起こして鉄板パエージャの準備を進めていたら、外周警戒に行ってたレベッカが少し青い顔で急ぎ帰ってきた。何かあったか?


 報告を聞いているコルネリアとヘルマン氏の様子もどこか慌ただしい。


『行って聞いてみるのがいいんじゃね?』


 そうだよな。

 ロビンを抱えて二人の元へ。レベッカはジョアンナを探してどこかへ行ったようだ。


「何かあったのか?様子がおかしいが。」


「ツクル、すまないが晩飯の準備は中止だ。あー、もしも携行糧食(レーション)のようなすぐに食えるものがあるんならそれでいい。」


「何だよ、何があったんだ?」


「レベッカが警戒中にモンキーゴブリンを発見した。活性色が出てたそうだから今夜か明日、遅くとも明後日までには必ず襲撃がある。ツクル、『荒事勘弁』のアンタにゃ悪いが、今度ばかりは腹決めてもらうことになるかもしれないね。」




本日は『よそのけ開拓団奮闘記』も更新しております。

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