第六十四話 【 B 】
第六十四話は二つの流れがございますので、お好きな方をお読み下さい。
なお、どちらを読まれても六十五話につながる仕様となっております。
こちらは「B」です。
一部にちょっとした悪ノリ・おふざけが含まれておりますので、趣味に合わない・苦手・嫌いな方は【 A・通常版 】をお選びください。
そうだ、食事の支度の前にアレを済ませておかなきゃな。
野営地の適当な場所を見繕い、アイテムボックスから大きさの違う五枚のパネルを取り出す。一番小さいのを立てたらミルカに支えてもらうよう頼み、同じ大きさのパネルを直角に合わせて留め具で固定する。あとは同じように順番どおりに組んでいくだけだ。留め具だけでは心配なので、パネル上部は梁で連結させることも忘れない。
十分ほどで、上から見たら渦巻き状、アルファベットの「G」の形に似た簡易個室が出来あがった。
古い海水浴場のおんぼろシャワー/更衣室みたいなアレね。
その奥に水の入った樽とすのこを設置すれば…
「ツクル、これはまさか…」
「そう、風呂。まだ試作段階なんだけどな。」
こないだのダンジョン内拠点建設作業の際、あれやこれやを作ってみて冒険者諸君の意見を聞いた。「デッキチェア」や「3段カイコ棚」のように好評をもって受け入れられたのもあるし、「足裏ツボ刺激板」のようにただの「罰ゲーム器」となって本来の目的とは違う使われ方をしているものもある。
そして当然ボツになったものも。風呂はその一つだ。
「オマエのスキルがなければ運用できないものなんて置いといても意味ないだろう。こんな大量の水を誰が用意すると思ってるんだ?」
「贅沢過ぎるわ、おふざけでないわよ!でも取りあえず一度使わせなさい!」
なんて『持ち帰る…』の連中に言われてな。
だがアイデアの方向的には間違ってなかったと思うんだな。自衛隊の野外入浴セットだって、様々な場面で使われて利用者の清潔の確保と心身の疲労回復、士気と意気の向上に一役買っているわけだし。
そこで、ギルドの倉庫で塩漬けになってた材木でパネルとすのこを作り、金床亭の協力を得てワイン用の大型の樽(500リットル近く入る)を安値で手に入れ、ダンジョンの時よりも少しだけ本格化した風呂を作ってみたんだ。
「冒険者ってのはこういうことをやらないのか?ラハティには進んだ風呂文化が根付いているんだし、あってもおかしくはないと思うんだが。」
「メンバーに腕のいい魔術師がいて、依頼が中・長期に渡り、現場で水の入手が簡単なときは似たようなのをする場合もある。だが普通は魔力温存のために行水程度にとどめるだろうな。ウチはミレーナがいるが、それでもここまで形の整った風呂を依頼中に用意したことはない。用意できるはずもない。オマエのストレージあればこそだな、こりゃ。ところで…」
「ところで?」
「この樽の中身は水だよな、風呂とは言ってるが水風呂なのか?それともオマエのストレージに別に熱湯をしまってあって、それを入れて適当な温度に調節するとか?」
「俺が沸かす。最近やっと魔法を扱えるようになったんでな、その練習も兼ねて。」
「ほう、魔法を使うようになったのか?…なあ、ジャマはせんからどんなものか見ていてもいいか?」
「構わんよ。ただ…」
「ただ?」
「ヒくな。それだけだ。」
「?」
きょとんとしたミルカを置いといて、俺は準備を始める。
深呼吸してから目をつぶり、精神集中。
……いくぞ……
「ギルベリオン装着シークエンス開始! ちょっとアレ時空発生!!」
(あたりが急に薄暗くなる。風呂場を囲むパネルはなぜか姿を消し、ツクルとミルカの二人がだだっ広い空間に風呂桶代わりの水樽と共に立っている。)
(『ぼくのこころによこしまなところも、いってんのくもりもにごりもありません。ですが、ぼくのたなごころはもえさかるほのおのようです。』的な曲)
「…んむぅありぃよくかいろぉ…ダぁイレクトコネクタぁ!
セッタァアアアアアアアアップ!!」
(ラ行音は巻き舌気味で!)
(なぜか空一面が分厚い黒雲に覆われている。一度体を屈めたツクルが立ち上がって右腕を天空に向け高々と掲げるとその先から一筋の閃光が迸り、雲を裂いて一直線に伸びあがる。そしてどこからか聞こえてくる鋭く高い咆哮。)
「おお、星よ銀河よ大宇宙よ!我が呼び声に応え、其を目覚めさせよ!
幾千億光年の闇の彼方、時空の氷瀑を突き破り、我が右腕に顕現させよ!」
(雄叫びは次第に大きくなり、雲に開けられた宇宙の深淵を除く穴の彼方から一頭の怒龍が姿を現す。その体は幾筋もの紫電を纏い、やがて大きな電光球に形を変え、なぜか全裸になって光っているツクル目がけて急降下!ビリビリと大気が震え、髪を逆立てたツクルの体から「ぱじっ ぱじぱじっ」と音を立てて小さな稲妻が放たれる。)
「この体は大地なり この体は大海なり この体は大空なり!
この体は汝を宿す世界という名の器なり!
来たれ! 来たれ! 来たれ!
来てりて汝が核を我が魂に糾え!!」
(ぽちゃ・むち・ガチ系大好きな歴史的大画家の描いた礼拝堂の天井画、人類の祖と大いなる存在の決して触れぬ指先のイメージと目を閉じたツクルの顔のアップが重なる。)
「「 俺/ぼくたちは いま ひとつになる ! 」」
(ツクルの声と少女?の声が重なって聞こえる)
(一瞬静かになって「シャキーン!」音)
(そして大地を揺らす轟音・爆音と目の眩む光。)
「限り無き神秘の力を我が身に繋ぎ、世の理を意のままに操らん!
古人曰く、『一将功成りて万骨枯る』!
魔鉱龍鱗甲!ギルッ(ためて~)ベリッオォオオオオオオオオンンンッ!!」
(放射状に広がる稲光を背に『土曜の夜の熱』的なポーズでキメるツクルの右腕は異形の装具で覆われている!なお、いつの間にか着衣している模様。)
「俺がこうなったからには貴様らの好きにはさせんぞ、酸化水素どもめ!
三千世界に轟かす、地球魔法の桃源妙味を味わうがよい!」
「陰陽初めて分かれし時に生まれしは 太初太乙太源帥法!」
(右足をだん!と踏むと地面に現れる太極図っぽい魔法陣)
「天に八法 地に十六法 乾坤成すは二十四法!」
(右足を軸に、左足を伸ばして爪先を地につけたままコンパスのように一回転)
(上半身は太極拳のような動き)
(魔法陣のあちこちから二十四個の赤い光の玉が浮き上がる)
「二十五法の力を以て 我、万物を従えん!」
(左足をだん!と踏むと魔法陣の中心から白い光の玉が浮き上がる)
(光の玉は集まって円環となり、ツクルの頭上で回転し始める)
「チンケ、ニゾウ、サンタ、ヨツヤ、ゴケ、ロッポウ、シチケン、オイチョ、カブ!」
(九字の印を結ぶ両の手、形をかえる毎に手から光線が放たれる)
(九番目の手印を解くと両手をぐるんと回して頭上でぱん!と叩き合わせ、合掌の形のまま顔の前まで下ろす)
「ふるえふるえ ゆらゆらとふるえ はいどらじぇん
ふるえふるえ ゆらゆらとふるえ はいどらじぇん…」
(目をつぶって両手を蕾のような形、密教で言うところの未敷蓮華合掌に組み、親指のあたりから掌の中に息を吹き込むようにやや静かに唱える)
(速度をはやめながら頭上で回転していた二十五個の光の玉がパッと飛び散る)
「…エロイムエッサイム 我は求め訴えたり!
ヘロヘロトオルノエロマンガ 我買い求めて読み耽りたし!」
(カッと目を見開き、桃色に光る手刀で空中に「爆発人生」の文字を刻む)
「ゆくぞ!!
豊後湯ノ都流魔法内藤派創始、ツクル・ナイトーが奥義三十六般の第一、
……『加熱』。」
樽にかざした右手から柔らかな橙色の魔法力が放たれる!魔法力はその強力マイクロ波的な作用によって樽に貯められた水の分子を振動させる!
『いいぞ、その調子だ!』
やがてごく薄い湯気が立ち上り、精霊のように水面近くを踊り始める。あちこちに生じた同様の湯気の柱はやがて一つにまとまって渦を成し水面に幾重も波紋をつくっていく。
『カモン!カモオオン!』
二、三分も経つ頃、どこからか温泉シーンでおなじみの「かぽーん」という音が聞こえたような気がして、樽の水は入浴するにはちょいと熱め、42℃くらいのお湯に姿を変えた。
野外ではあるし、これくらいにしといた方がいいだろう。すぐ冷めるし蓋もしとこうか。
「ふう、うまくいったな。どうだミルカ、この通り俺だって魔法を使えるようになったんだぞ。見ろ、ほっこほこの気持ちいいお湯だ……?ミルカ?おい、ミルカ!?どうした、何をそんなにぼーっとしてるんだ?」
「……んんッ!?ふぁあッ!?……俺は、俺は一体何を見ていたんだ?小さな子供と大きなお友達向け三文活劇のような幻が見えて、そこにオマエが……いや、しかし…!?」
すまん。俺もそこまで見せたいものではなかったんだ。
ただの演出だよ、演出。こうだったらいいのにな、という。
一度やって気は済んだから、今回は勘弁しろ。
次からはもうしない。たぶん。
「さて、湯も沸いたし順に入ってもらおうじゃないか。まずはビットナー姉妹からで次はミレーナとシニッカ、残りは適宜ということでいいか?そうだ、うめる用の水樽も出しておこうか…」
「…あ?ああ、それでいい……と思う。……俺は一体何を見ていたんだ……?」
「おじゃましま~す、ちょっといいかしら~?男の子二人でさっきから何を楽しそうにやってるの~?……ってなぁに、この樽は。それに……お湯……?」
「どうしたミレーナ、何かあったのか?」
「う~ん…ミルカが急に魔法を使えるようになるってことはないでしょうし。腕にへんてこりんなのをつけてるってことは……。ねえツクル、ちょっとお話してもいいかしら~?……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ミルカが風呂の使用について皆に説明して、順に入っている間に俺は食事の準備を進めることにする。
調理作業台を設置してアイテムボックスのリストを呼び出し、手持ちの材料を確認。「世界間貿易」のレベルアップにつなげようと、最近は金が許す限り買い物してるから食材のストックも随分と増えたもんだ。
「今日は疲れたしな、筋肉疲労の回復と滋養強壮を中心に考えようか。」
ビットナー姉妹に禁忌食物はなかったし、ミルカたちは好き嫌いのない健康優良児揃いなんでメニューを考えるのはラクといえばラクなもんだ。
そして筋肉疲労の回復とくればやはり豚肉。在庫は……と。
ああ、バラ肉の薄切りがあった。量も問題なし。ラッシとシニッカがアホみたいに食っても大丈夫だろう。
野菜は……あ、もやしとキャベツがまだ結構あるな。それにどうしてニラがこんなに?
……思い出した。市場に行ったら久しぶりに「大地の恵み1号(右)・2号(左)」嬢がいて、
「旬が始まりましたよ!葉っぱは柔らかくて茎はシャッキリ、美味しいですよ!」
なんて言うから、馬か牛に食わすぐらい買い込んだんだった。決してその豊かな胸部に見とれて(以下略)
「ならアレだな。手間もかからんし、野菜も摂れる。」
用意した食材
豚バラ肉(薄切り)、キャベツ、ニラ、もやし、ネギ
豆乳、酒、水、チキンスープの素、中華スープの素
もうね、疲れた時は鍋に限りますよ。
出来あがったのはこちらのほうが先だったんです。ただ、こういうのがお好みでない方もいらっしゃいますので、「通常版」もご用意いたしました。本日も篠田朗のバカ話にお付き合い下さり、誠にありがとうございます。




