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たそがれ通りの異世界人  作者: 篠田 朗
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第五十九話



 レースの結果?今さら聞くまでもないだろう。



【リザルト】


 1位  13番 ブラックロビン

 2位   8番 パンチラショット

 3位  11番 トンガリハムスター

 4位  15番 ストームブリンガー

 ・

 ・

 ・

12位   9番 ミダラスコーピオン


棄権   

 3番  ウチアゲホエール(SS2、馬車破損)

10番  ロードチャンプ(SS3、馬の疲労)


失格   

16番 シゴトエスケープ(SS1で逃走、指名手配)

12番 ピーターキング(SS5で逃走、指名手配)    


 冒険者ギルドのかなり上のほうの幹部とかいうイリーヤ女史を乗せた俺たちは、カンクネン町で通過チェックをしてラハティへ向けて最後の疾走。2位以下の連中に圧倒的な大差をつけて見事、第1回ツール・ド・ラハティ優勝の栄冠を手にすることができた。めんどくさいことのほうが多かったし、そこまで嬉しいものでもなかったけど。

 優勝セレモニーの場では運送業ギルドのヴァルテルがガキどもの「解放宣言」を行い、へろへろのジャガイモ頭どもは晴れて一般生活に戻ることが認められたようだ。


 そうそう、スタート前にチョーシこいてくれやがったあのピーターとかいうガキどものリーダーだが、アイツ逃げやがった。ギルマスの推測では


「父親のほうがゴロツキを使ってオマエから馬なし馬車(ロビン)を強奪、その後息子と合流してどこか遠くへ高飛びするつもりだったんだろう。衛士隊やセバスによると、ヤツの家はもぬけの殻だったらしい。だが、ラシュトフコヴァ師のお働きもあって奴らの計画は瓦解、父親に見捨てられ進退窮まって一人で逃げ出しやがったに違いない。」


とのこと。脱走という最悪のかたちで面子をつぶされた運送業ギルドの一部強硬派が今後追い込みをかけるらしく、この州にいる限りは夜もおちおち寝られんだろうとも。バカなことをしたもんだ。もっとも、ギルマスのヴァルテル自身はそこまで腹を立てているようには見えない。


「一応厄介払いはできたし、何より小遣いを増やすことができたからな。ツクル、礼を言っとくぞ。くふふふふ…」


 車券売り場の締め切り寸前、俺たちのオッズが45倍から21倍になるまで突っ込んだそうじゃないか。そりゃあ小遣いなんて生易しい話じゃないだろう。税務署さん、こっちです。つか、少しよこしてくれもいいんだぜ?


 ともかく、悲喜こもごもの人生模様を描きつつラハティ市花冠祭と第1回ツール・ド・ラハティは幕を閉じ、またいつもの生活が始まることになる。


 んで、いつもならこの後は酒場でだべる展開になるんだろうが今回は少し趣が違う。今、俺らがいるのは『金床亭』でも『小槌亭』でもない。というか南区や西区ですらない。

 ここは『大槌亭』。ドワーフのイーヨン・シャー三兄弟の長兄であるドゲンが営む、ちょいとお高い店だ。官庁やら高級住宅街やらがある北区にちょっとした公園のように木々の茂る場所があって、中には個室代わりの東屋が十棟ばかり建てられている。祭日の夜ともなればハイソな方々のご予約でいっぱいだろうが、それでもこうして席を取れるあたりにギルドマスターの顔の広さというか、このラハティで「冒険者ギルド」という看板がどれほど重要視されているかがわかる。


 いちばん奥の静かな東屋に通されたのは主賓のラシュトフコヴァ師、冒険者ギルドの正副両マスター、そして俺とロビンの四名様+1。ヴァルテルとセバスチャンはそれぞれのギルドで打ち上げをやるそうだし、ファビオたちは


「あすこぁ確かに酒もメシも美味えんだが、どうもあのお高くとまった雰囲気がなあ……。俺たちゃ小槌でいつも通りにやってらぁ。ツル公、ほどほどで切り上げてオメエも後で顔出しな。」

 

だとさ。


 席に着くなりギルマスが口を開く。


「ラシュトフコヴァ師、この度はお手を煩わせることとなってしまい誠に申し訳ございません。」


「構わぬよ。成り行きもあったが、わたしが好きでやったことだ。気にせずともよい。おかげで()()()()を堪能することもできたしな。むっふー。」


 ギルマスも(サブ)マスも殊勝な様子で頭を下げるあたり、この女性は相当な地位の幹部なんだろう。それに


『相棒、このナントカいう姐さんよう、どーも()()ミレナと同じ臭いがするぜえ……』


と勘のいいロビンが微妙に警戒することから察するに、恐らく年齢は見た目よりも遥かに上か?百歳(ひゃく)近かったりしてな。


「ささやかながら歓迎の用意をさせて戴きました。旅の疲れも御座いましょうが、今宵は何卒お楽しみいただきたく…」


「そう固くなるな、ギルドマスター・チャガチェフ。今はあくまで休暇中、半分は()()()であるゆえ、ざっくばらんにしてくれてよい。それと…ツクル、其方もいつも通りにしてくれ。」


「…はい。」


 どこかぎこちないあいさつが終わると、店主だろうドワーフが酒や料理を運ぶ店員を引き連れてやってきた。真っ白なコックコートに真っ赤なネッカチーフ、見た目も雰囲気も弟二人とはだいぶ違うな。居酒屋とか酒場じゃなくてレストランのノリだ。


「失礼する。当店オーナー・シェフのドゲン・イーヨン・シャーじゃ。知っておるじゃろうがウチは冒険者()がウリの店じゃから、まとめて卓に置かせてもらうぞ。まずは春水菜と茸のサラダ、ジャガイモとアスパラガスのオムレツ、そら豆とチーズのハーブ焼き、豚の頬肉と塩だけで作ったソーセージじゃ。最初の酒はコンカラー醸造所の『処女雪』を選んでみた。口に合わねば遠慮なく言うてくれ。」


 サーブの仕方は金床や小槌(弟たちの店)に似ているが、高級店らしい落ち着きがあるのが面白い。全員にグラスが行き渡るとサブマスの音頭で乾杯。

 おう、美味いワインだ。

 こう、酸味があって…甘みがあって…香りがよくて…余韻があって…「俺が飲んでるのはワインだ!」って感じが……


『何一つわかんねえよ相棒。オマエ、食レポ系の仕事はムリなんじゃねえか?』


 貧乏舌で悪かったな。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  



 乾杯の後すぐ、ここにいるのは()()を知る者ばかりだからよい、とのイリーヤ女史の言葉で話の輪にロビンも加わることになったんだが意外や意外、ここから我が相棒の接遇(ホスト)スキルが発揮されることになる。


『相棒、ここは俺に任せな。要はこの姐さんをうまくおもてなしすりゃいいんだろう?』


『何がなんやらわかってない俺はもちろん、ギルマスたちも恐縮しきってどうも役に立ちそうにないしな。アチラさんはオマエに興味津々だし、それもいいかもしれん。でも気をつけろよ?店員とか他の客にオマエが喋ってるのを聞かれるのはマズイだろ。』


『そのへんは上手にやってやんよ。そのかわり…』


『そのかわり?』


『ネコちゅ~ぶの追加頼む。「初恋♡鱚の鯵」っての食ってみてえ。』


『OK。次の貿易ん時に二つ発注かけとく。それと…』


『俺らの()()に関することはごまかせ、だろ。わかってらあ。』


『よし。んじゃ任せた。』


 そしたらまあ、ロビンの客あしらいのうまいこと。適度に女史を持ち上げつつ、酒だ料理だネコちゅ~ぶだと次々勧め、いつの間にか行きつけの店で出会った常連客の会話みたいな流れに持ち込みやがった。



「…わかっておるのか?ソフィをここに遣って審査をさせたのは去年の秋だったのだぞ。今はいつだ?あやつからは『初めて見たホンモノで大物の魔道具』『人ならざる者の業』と聞いておったのでな、教皇領の仕事なぞ放っておいて私自身が行けばよかったと後悔したのだ。だが、それほどの逸品ならば所有者であるそこのツクルもすぐにギルドの仕事で活躍を見せ、情報も続々入ってこようと待っておったのに何も報せてこぬではないか。わたしがどれほどやきもきしておったか、其方らにはわかるまい。」


「仕方ねえよ姐さん。俺をそのナントカいう登録するためにゃあ、相棒が魔法を使えることってのが条件だったんだぜ?でもよ、相棒は特別な道具がなきゃ魔法が使えねえんだから。」


「ふむう…それで、その魔法を使えるようになるための道具が完成するのを待っていたらこんな時期になった、と……」


「そういうこと。しかもウチの相棒は『荒事勘弁』ってゴキゲンな看板しょってるし、俺にしたって得意な仕事は荷運びなんだぜ?だから姐さんたちの考えるような切った張ったのご活躍は難しいんだよ。な、頼むからあんまり俺らをイジメねえでやってくれよ。ほら、もすこし飲みな?」


「む、すまんな。ところで…ちゅうちゅう…其方のエナジーとかいうこの魚のペーストだが、悪くない。ちと薄味ではあるし人によって好き嫌いは当然あるだろうが、わたしは海沿いの町の出で昔は魚ばかり食べていたから問題ない……ちゅうちゅう……」 


「それで姐さんよう、今日は何であんなところで人質?みたいな扱いされてたんだ?」


「む、それだ。年が明けてからやっとひと月ばかりの休暇がとれたのでな、かの魔道具と所有者を我が目で見てくれようと旅に出たのよ。で、朝がた街道を歩いておったらあの一団とぶつかってな。こともあろうにこのわたしをどこぞに売り飛ばそうなどと言いよったわ。それでちいと教育してやったんだが、尋ねてみれば連中の目的はレースの妨害と其方の奪取であったらしく、ならばこやつらと共におればすぐに其方らに会えようと思い一芝居うったのよ。」


 ギルマスの推測通りか。だーいぶ無理のある芝居だったけどな。あとアンタのやったのは「教育」じゃなくて「調教」の類だと思う。変態と謀反人、戦争の犬は野に放つなって歴史の教科書に書いてあったはずだぜ?


「根性なしどもだったゆえ、大した働きもせず逃げてしまいよったがな。ふははははは!…ちゅうちゅう……ふむ、魔道具の活力源がこのような食品とは思わなんだ。ツクル、馳走になったな。それにロビン、其方の食事を横取りしてすまなかった。」


「気にすんな、俺のはまだまだあるからよう。な、相棒?」


「お?おう……。」


「ふふふふ、『相棒』か。よい関係だな。」


 ナプキンで口を拭き、ロビンの頭をひと撫ですると、女史は俺たちのほうを向いて言った。


「これからのことだが、わたしは十日ばかりこのラハティに滞在する。その間に冒険者ツクル、特異魔道具ロビン、其方らの仕事ぶりを見ておきたいのだ。なに、一度其方らの依頼に同行させてもらえればそれでよい。決して邪魔はせぬ…」


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