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たそがれ通りの異世界人  作者: 篠田 朗
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第五十八話



 (サブ)マスの警告もあったしさ、そりゃ警戒はしてたよ?


 できる限りのスピードで走りつつ、緊急時には即対応できるように注意だけは怠らなかったつもりさ。トール爺たちも仕込み杖だの魔杖代わりの指輪だの、縄  鏢(ロープ・ダート)(ひも付き手裏剣?)だのを確認して、いつ襲撃があっても対応できるように準備をしてたな。


 しかし、それでもこれは…


「ちょっと何かが違うんだよなあ…」


 カンクネン町に向かう道の途中、ベリト方面に向かう街道と交差する十字路に奴らはいた。

 数台の馬車をバリケードのようにして道を塞ぎ、武器を手にした男たち。ざっと三十人ばかりのゴロツキが俺たちを待ち構えていた。

 だが、その姿がどうにもおかしい。

 全員満身創痍。鼻や口から血を流して顔はアザだらけ、中にはしくしく泣いてるのもいる。着ている服もボロボロで、モータウン・サウンドが聞こえてきそうなほど立派なアフロヘアの奴もいる。さっき俺は「武器を手に」なんて言ったけれど、まともな形を残した武器なんて一つもない。折れたり曲がったり焼け焦げてたりで、あれじゃあ役には立たないだろう。どうにも惨めであわれを誘う集団だ。

 

 トール爺の指示でゆっくり進み、連中から少し離れた場所で停車。オスモが魔法で周囲の状況を確認した後、誰何のためにファビオが車の外に出た。


「テメエら何モンだ!?バカ面並べて天下の大道のド真ん中ァ塞ぎゃあがって、このトウヘンボク!こんな真似でもしなけりゃケンカの一つもできねえタマナシ揃いか!?二度とお天道様の拝めねえ体にそんなになりてぇか!?生まれと育ちのどっちにも問題アリかノータリン!!ぃよおし、いい度胸だ!今すぐ有り金差し出して人様の見てねえ森の奥で刺し違えるなり首でも括るなりして『死者の国』で家探しでもしてやがれ、このウスラハゲ!……とマルハゲ!……と天パー!」


 ダメだ、こりゃ。一方的で有無を言わせぬ罵倒で脅迫で恐喝で挑発で自死勧告じゃないか。オマエはやっすいホラー映画に出てくるタチの悪い地縛霊か。それにあのアフロ頭はたぶん天パーじゃない。爆発オチ的な何かが原因のボンバイエだと思う。

 顔を合わせるなり酷いことを言われたにも関わらず、俺たちを妨害するために集まったであろう男たちは「ああ、遂に助けが来てくれた!」「これで解放される…」「ぱらいそさいぐだ!」みたいな期待に満ちた目でこっちを見ている。気味悪いなあ…


「『大食い』とかいう冒険者はオマエか?」


 一人の男が歩み出てきた。他の連中と違ってケガもしていないし、商人っぽい身なりもそれなりにきれいだが、首から


【 私は〇〇〇〇な□□□□です。どうぞ皆さま▲▼●な✖✖✖✖とお呼びください。喜んでただちに◇◆◇◆いたします。 】


と書かれた札を下げている。

……ちょっと人間としてどうかと思う。まあ、そういう趣味の人もいるのは知ってるけど。昼間から人目(特に女性や子供)に晒していい内容じゃないのは確かだ。


 ファビオが首を振って合図するので、アイテムボックスからバールを取り出して外に出る。


「『大食い』は俺だ。アンタが…ピーちゃんとかいうガキの親父か?いい趣味してるな。これから()()()()人生を、茨と病葉の道を歩んでいこうって覚悟のほどが伺える。だが、嫁は承知してるのか?息子にカミングアウトしたか?もし娘がいるんなら、オマエのほうから頭を下げて丁寧に縁切りせんと良縁に恵まれんぞ。▲▼●な✖✖✖✖サンよ。」


「ふぐっ…」


 顔を真っ赤にするあたりや周囲の状況から見て、コイツが例のオヤジで間違いないだろう。んで残りはコイツに従う一味一党、と。


「……連れて来い……。」


 涙目のオヤジが命じると、馬車の後ろに控えていた手下が一人の見知らぬ女性を連れてきた。柔らかそうな布で細い両の手首をふんわり縛られ、腰のあたりにはゆっるゆるの縄が打たれている。


「「 !? 」」


 ファビオにも俺にも何がなんだかわからない。

 オヤジは半分折れたナイフを抜き、刺さりもかすりもしない距離まで離れたのを確認したうえで女性にその残った刃を向けて叫んだ。


「いいか、よく聞け!俺の命が惜しければ、今すぐ俺たちを解放したいのなら、この女の言うことを素直に聞け!無駄な抵抗はせんぞ!」


「「 ……。 」」


 ちょっと待って。ええと……?


「オスモ。オマエ、あやつの言うとることの意味がわかるか?」


「言葉は通じてるよ。でもね、脳と心がいらっとして内容の理解を拒否しているというか…」


 いつの間にか車を降りた二人が後ろに来ていた。当然と言えば当然だろうが、この二人にもあのオヤジの言ってることはわからないらしい。


「そこな御仁、御身分は冒険者であろうと察するが如何か?」


 人質(?)の女性が話しかけてきた。涼やかな声、長い銀髪に切れ長の目、そして泣き黒子!ムイ・ビエン!こーれーは点数高いですよ~?


「お、おう…俺たちゃラハティをヤサにしてる『颯』ってぇパーティーのモンだ。こっちの若ェのは『大食い』っつう駆け出しだ。」


 ここで正直に答えるあたり、ファビオも混乱しているだろうことが容易に伺える。


「『大食い』!其方が伝え聞くかの者か!今か今かと待っておったぞ。ささ、早うこの卑劣極まりない悪漢どもの魔手から救ってくれ。遠慮はいらぬゆえ、バシーっとやるがよかろう。」


 女性の「バシーっ」って言葉でゴロツキどもがカタカタ震え出した。

 あとさ、 俺 (おうじさま)を待ってたの?俺ってそんなに有名人?まいったな。いや、ラハティの冒険者業界じゃそこそこ名が知られてはいるらしいが。荷物運び&飯炊き係として。


「どうしたオマエら!この俺の命が惜しくはないのか!?大人しくこの女の言うことに従った方が俺の身のためだぞ?」


「テメエの(タマ)なんぞに興味もクソもねえや、脳天壊了(のーてんふぁいら)!むしろほうっといたらどうなんのか、面白ぇからもすこし観察してえぐれえだコノ!」


 ファビオの言う通り。レースも大事だが、ガキどもとの差はまだ空いてるし、六分くらいなら事態の推移を見守ってもいい。


「ほほう。では、この俺の命がどうなってもいいと?どんな酷い目に遭ってもいいと言うのだな?後悔しているぞ!」


 涙目で鼻水垂らすほど後悔するくらいなら、そんなバカなことやんなきゃいいのに。まあ、一応言っとくか。


「お前の言葉の意味はわからんが、状況的に見てその女性は人質なんだろう?たぶん。だから便宜上言っておく、『その女性を放せ』。」


「「「「 !! 」」」」


 男とゴロツキ連中の目 ―― カエルも跳びこむのを躊躇する古沼のように濁っている ―― に希望の光が輝く。


「「「「 よし、わかったああああ!! 」」」」


 女性に打たれた縄を解き、()()()()が聞こえてきそうな勢いで馬車に乗りこみ逃げて行く妨害者(?)たち。行先はベリトかその逆方向。カンクネン町やラハティに向かう奴は一人もいない。


「相棒、アイツら何だったんだ?」


「わからん。()()()()()()さんにしては引き際がよかったが。」


 馬車の去った後には打ち捨てられた武器と、手首の縛めを自力で解いてローブを整える女性だけ。女性は自らの足で歩いてこっちへ近づいてくる。怪我とかはしてないようだが…


「いやいや、目的地も近いというのに非道い目にあった。其方が『大食い』ということは、後ろの黒い車両が例の『馬なし馬車』で間違いないな。いろいろと聞きたいこともあるが、早速ラハティに向かおうではないか。さ、『大食い』よ。わたしはどこに乗ればよいか?」


 どっかの町の魔導師とか魔道具コレクターかな?俺とロビンのことを知ってるこの女性の目的地は、どうやらラハティのようだ。こんな美人と同道できるのならそれに越したことはないが、今はまだレースの最中。この先の町に行ってから引き返すことになるが、それでいいかと尋ねたら


「結構。そのぶんだけこの魔道具を堪能できる。待ちきれんから先に乗るぞ。前でもよいかな?これを引けばよいのか…?」


と言ってドアハンドルに手をかけた。


「オイオイ、待て待て待て。嬢ちゃん、オメエいってえ何モンだ?」


 ファビオの言葉に女性は立ち止まり、こっちを向いて「はわわ」みたいなポーズをした後で懐から冒険者板章(プレート)を取り出して見せた…って、金色ぉ!?しかも何だよ、そのオマケの数々は…


「冒険者ギルド統括本部評議員、登録魔道具管理部長。第二等黒色魔杖紋及びα紋、太陽紋、三日月紋、金星紋、翠泉紋付黄金板章。『蒐集家』ことイリーヤ・リディヤ・ラシュトフコヴァと申す。見知りおかれたい。」



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