第三十七話
十日間に渡る捜索の結果、俺たちは四人の遺体と六人の遺品を発見し回収した。遺体の中にはもちろん、あの可哀想なイルメリも含む。ダンジョンを出た俺たちはそのままギルドの分所に向かい、待機していたマティアスに遺体と遺品とを引き渡した。ギルドによる検査と照会の後、今年最後の祭礼日に合同慰霊祭が行われるそうだ。
「過去の行方不明者も入れて計十人の発見ですか。皆さん、よく見つけてくださいました。まずはギルドマスターに代わってお礼を申し上げます、本当にありがとうございました。」
時間をかけて捜索しても、まったくの空振りに終わることも珍しくないと聞く。十三分の九に加えて一人なら、成果は十分にあったと言ってもいいだろう。マティアスは深々と頭を下げて丁寧に礼を述べる。冒険者相手の商売柄、少しやんちゃな職員も多いが、中にはこんなタイプのヤツもいるんだな。
「では、早速ですが今後のことについてご連絡を……」
分所の裏の簡易風呂を使っていいこと、ラハティに戻る最終の馬車が出るまでは分所の二階を待機所に使っていいこと、慰霊祭には可能ならば出席してほしいこと、その日の夜にギルドの忘年会(この世界にもあったんかい!)と一緒に慰労会を行うのでそちらにも……などの事項を伝えられた後、解散となった。
「ツクル、お疲れさん!」
「今回は…いや今回もか、アンタにゃ世話になったな。」
「気にせんでくれ。俺だってアンタたちの足を引っ張ったんじゃないかと申し訳なく思ってたんだ。」
「あれっくらいはなんてこたねえぜ。新米みてえに下手に色気を出して動かねえぶんやりやすかったくらいだからさ。」
「それにあの食事!んも~う、来年から仕事をやりにくくなっちゃうじゃないの!アナタやっぱりダンジョンアタックのサポーターをやるべきよ!そう、ウチ専属で格安で!」
「ははは、考えとくよ……」
『持ち帰る者』はこれで今年の仕事納めにして、年が明けるまでは休暇にするらしい。一年のほぼ三分の二をダンジョンで過ごす彼らにとっては久しぶりののんびりした時間になるそうだから、まあ十分に体を休めてほしい。そうだ、ホルヘに約束の飴ちゃんセットも渡しとかなきゃな。
「にしししし、ツクルもってもてじゃん!」
「おうシニッカ……もう、大丈夫か?」
「……うん。あの時はびっくりしたのもあったしさ、それにあんな気持ちになるのもはじめてだったから……でも、もう本当に平気だよ!あの子のことだって、こうやって外に出してあげられたんだもん。きっと喜んでくれてると思うよ。」
「……そうか……そうだよな。」
「じゃ、アタシお風呂に行ってくるね!……覗かないでよ?」
「俺としてはもう少し、いやもっとこう、大玉のばいんばいんでないとどうにも食指が動かな……おふっ!……シニッカ……何を……」
突然、お手本のように見事なボディブロウを叩きこまれて息が詰まる……軽量級とは言えなかなかの威力。階級が同じなら、ベルトを奪われてたかもだぜ……
「ツクルのバーカ!!えろえろオヤジ!生魚にあたってお腹壊しちゃえ!」
シニッカが後姿でもわかるくらいに怒った様子で建物の裏へ歩いていく。なあ、助けてくれてもいいんだぜ?
「あ~あ、ツクルさんもアレを喰らったんスね~。結構キクっしょ?」
「……腰の入ったい~いパンチだった。ミルカに言っとけよ、アイツ絶対に近接格闘の素質があるぞ……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日頃は冒険者たち相手であれやこれやの鬱屈が溜まっているせいだろう、ギルドの連中の食うこと飲むこと騒ぐこと。昔どっかの居酒屋で見た、ゴンタ揃いで知られる某高校の教職員忘年会に勝るとも劣らないはっちゃけっぷりだ。あのマティアスがいやらしい振付と共に「思春期のうた」とかいう猥歌を放吟し、クララにいたっては……ああ……故郷の御両親や未来の良人殿には決して見せられぬあられもない姿で酔いつぶれかかっている。
もっともこうして楽しく酔って騒げるのも、ギルドハウスに残って緊急事態に備えながら、今年の残務処理に追われているオリヴェルとデニスら四人の当番職員のおかげ。その感謝のしるしだろう、子供用みたいに小さな卓の上にヴォートの注がれた小さなグラスが四杯と小皿に取り分けた揚げイモが二切れにチーズひとかけ。
うむ。でもな、それ日本では「陰膳」と言って半ば死者のためのものという意味もあってだな……
「っううぇ~い!大食い~、飲んでっか~!?そおれカンパ~イ!!」
「おおカンパ~イ……」
鉢巻きに干し魚を四、五本も挿し、ニンニクとトウガラシの吊るし紐をぶっ違いで肩にかけた上半身裸の男の乾杯に銅製のマグカップを上げて応える。ギルド職員諸兄諸姉に対抗してというわけでもなかろうが、冒険者たちの騒ぎっぷりも尋常ではない。アイツって白銀板章持ちでどっかのパーティーのリーダーじゃなかったっけ?
「くわぁーかっかっかっかっか!矢張り冒険者の宴会というのはこうでないといかんのう!ツクルよ、店のことも飲み代のことも気にせんでええからしっかりと騒げ!飲め!食え!かーかっかっかっか!」
ヴォートをなみなみと注いだジョッキ片手に店内を回る『金床亭』の主人、アゲンはすこぶる上機嫌だ。酔っ払いが皿を落として割っても「がははは結構、結構!」とか言って笑いながら始末をしてる。それでも食べ物まで落とした時は笑顔で拳骨くれてやってるけどな。
あ、今のこの状況とは関係ないんだけど、この大将のフルネームは「アゲン・イーヨン・シャー」っていうんだと。しかも兄貴(『大鎚亭』)が「ドゲン・イーヨン・シャー」で腹違いの弟(『小槌亭』)が「コゲン・イーヨン・シャー」だってさ。九州系異世界人を笑かしにきてるだろ、ドワーフ族よ。
「ツクル~?ちょっとこっちにいらっしゃ~い?」
呼ぶ声に目を向ければルディにホルヘ、ミルカにヴァルトの座る卓。たぶん話が長くなりそうな気がしてきたのでカップにヴォートを注ぎ足し、ピクルスやらハムやらの小串料理の皿を持って移動する。
「……さて、どこから話せばいいのかな?」
「あら、察しがいいのね。」
「それはもう。」
「んじゃ、今日の合同慰霊祭が終わってからのこと。アナタ、あの娘の縁者のところに行ったんでしょう?」
「ああ……」




