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たそがれ通りの異世界人  作者: 篠田 朗
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第二十九話



 期限と決められた八日目の昼過ぎ、ギルドハウス裏の広場には冒険者ギルド統括本部から来た二人に加えてギルドマスター、受付嬢のクララ、それにファビオ、オスモ、エクトルが集まった。もちろん俺の魔法試験のためだ。ちなみにファビオ曰く、


「オメエが緊張して失敗しちゃ元も子もねえからよ、寄合連中まで集めんのはやめといたぜ。ま、上手くやんな。」


とのこと。ただし、


「もう『小鎚亭』に席はとってあんだ。成功すりゃ『特異魔道具・特定所有者認定祝賀会』だし、失敗すりゃ『残念慰労会』だ。」


だってさ。結局は何か理由を見つけて飲みたいだけだろ。おばさんたちが「ロクデナシのひょうろくだまの呑兵衛ども」なんて言いたくなるのもわかる気がするわ。


『相棒、調子はどうだ?()()()()()()できそうか?』


 足元のロビンが少し心配げな顔で(加古川のおばさん、俺もネコの表情がわかるようになりました!)脛のあたりを軽く引っ掻きながら聞いてくる。


『ああ、たぶん問題ない。』


 右腕に装着された()()()()()のアイテム、『魔力回路仮設バイパス』を体に馴染ませるための準備に入る。軽く呼吸を整えて鳩尾の力を抜き、四肢の末端から体の中心に向かう流れを意識すると……おおっキタキタ!じんわりと温かいものが集まってくる。昨日のオスモとの超短期集中講習でやった通り、更にここに「練る動き」を加えると……よしよし、俺が意識するまでもなく、溜まってくる魔力のほうで勝手に回転を始める。……回転が落ち着いて来たら「螺旋の動き」で頭のてっぺんまで通る道筋を意識すると……っしゃ!()()()()()!!体の表面と言わず内面と言わず、木の根っこか網のような魔力の通る()が出来上がる。

 でも右の前腕だけは、その()が俺の体にはない。肘のあたりの輪と中指の輪をつなぐ二本のミスリル銀製のバイパスが、その代わりとなって少しずつ熱を帯び始める。これも一昨日からの練習と実験の通り、アイテムがうまく働いてくれている証拠だ。

 オスモ(師匠)のほうを見ると、『それでいい』とでも言うように軽く微笑んで応えてくれた。


「ソフィ課長、アンジェさん、準備はできました。いつでもどうぞ。」


『ロビン、お前も向こうに行ってr……』


『ここにいる。()()()()()にすんじゃねえよ、相棒だろ?』


 仕方ないな。問題ないと思うけど、気をつけてろよ?


「では始めましょう。アンジェ、記録の用意はいいわね?」


「はぁい。それじゃあツクルさん、今日の魔法試験は冒険者ギルドの訓練評価規則に則って行います。発動の出来不出来だけでなく持続時間や効果の程度を見る課題もありますから、くれぐれも慎重にお願いしますね。」


 よし来い!


「まずは『燭光(カンデラ)』から。目標持続時間は三分。アンジェ、時間の計測をお願い。」


「はい、課長。」


 では、行きますよ。右手の人差し指だけを立てて腕を伸ばし……


「『燭光(カンデラ)』!」


   ◇      ◇    


「いよっし……まずは成功だな。何だいツル公のヤツ、できんじゃねえか。」


「……ふむ……昨日の実験の時より明るくできとるな。バイパスがうまい具合に馴染んどる証拠だ。」


「普段は訓練生(グリーン)の子たちができたのできないので大騒ぎしてるのを微笑ましく見てるだけですけど、ツクルさんの場合はなんだか緊張して見ちゃいますね。」


「まあ、『特異魔道具・特定所有者』認定がかかってるからな。ファビオさん、オスモさん、それにエクトルさんも、今回はアイツにご助力くださり本当にありがとうございました。」


「気におしでないよ。アタシらみたいな年寄りはこういう時にこそ上手に使わなくちゃ。」


   ◇      ◇ 


 最初の課題は問題なくクリア。昼間の屋外なんで明度こそ測れなかったけど、


「結構明るかったんじゃないかしら。」


「ええ、条件を整えてきちんと測ったらイイ線いきそうですよね。」


なんて二人が話してたからたぶん出来はよかったんだろう。

  

「では次の課題、『水の(ジェネレイト・)生成(ウォーター)』ね。目標量は1小樽(ガロン)、制限時間は五分。始め!」


 今度は魔法で水を作り出して、目の前の樽に貯めていく課題。野外で活動することも多い冒険者にとってはこれも必須の魔法なんだろう。もっとも俺の場合は魔法に頼らなくてもアイテムボックスに結構な量を()()できるから、いまいち必要性がピンとこない魔法ではある。まあ、課題だからやるけど。


「『水の(ジェネレイト・)生成(ウォーター)』!」


 ほらほら、とっとと貯まりやがれ!


   ◇      ◇ 


「えらく()()のう。ホントにあれで昨日初めて魔法を使ったと言うのか?」


「洗濯に台所仕事、行水の準備とかも楽そうですよね。」


「おう、そうこう言ってる間にもう樽がいっぱいになっちまったな。はん!駆け出し程度にゃできてるじゃねえか。」


「『樽に()()()()()()()()()』課題なのに制限時間の半分もかけずに一杯に満たしたか、あの野郎……」


「面白いよねえ、あの子は。ただ空気中の水を集めるんじゃなくて『冷やしながら集める』ことで効率化したんだってさ。三十も半ばを過ぎるまで、一昨日まで魔法のマの字も使ったことはなかったくせに、今は一端の魔導師並に考えて魔法を使ってるよ。」


   ◇      ◇ 


 ここまでは魔法試験の課題と言っても()()ばかり。とは言え、それなりに数もこなしてきたので息も上がってくる。ちょっと深呼吸して脈が落ち着くのを待つ。

 オスモ(師匠)によると、呼吸・脈拍のリズムと調和が乱れると魔法は発動しにくくなったり、効果が落ちたりするんだとか。慎重に行こう、慎重に。


『相棒、無理はすんなよ?』


『おう。』


 審査役の二人のほうを向いて頷き、準備ができたことを告げる。


「それでは最後の試験です。アンジェ、標的物(ターゲット)の用意。」


「はい、課長。…UDIUAI…UIDYSBIB……『構築(コンストラクト)』!」


 アンジェ嬢が魔杖(ワンド)を向けた先、20メートルほどの距離の場所の地面が盛り上がり、プリン型の土の塊が出来上がる。


「あの標的物(ターゲット)に、何でもいいので『ダメージを与える魔法を放って』ください。制限時間は三分、魔法の使用回数は無制限です。では、始め!」


 いよいよ最後の課題か。三分以内にアレにダメージね………。

 まあ、オスモ(師匠)から伝授された攻撃用の魔法は『火球(ファイア・ボール)』一つしかないから、種類で悩む必要はないんだけどな。それにも問題があるのはあったんだが、昨夜寝入る前に妙案を思いついたんだ。上手くいくかどうかはわからんが、とにかく全力でやるのみ!!


「行くぜ!……ワインドアップ、そして大きく足を上げるフォームからの~ぉ……渾身『火球(ファイア・ボール)』!!」


   ◇      ◇ 


「…?…ぶひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!おいオスモ!オメエ何を教えやがったんだ!?ツル公のヤツ魔法を『投げ』やがったぞ!」


「いや、それがねえ……。昨日、火球(ファイア・ボール)まで教えたのは良かったんだけどね、あの子のは()()()()()()んだよ。」


「「「「 飛ばなかった? 」」」」


「そう。魔力回路に歪みがあるのを間に合わせアイテムで繋いだだけじゃ、やっぱりどこかに無理があったんだろうね。へろへろと普通の六、七割飛んだところで落っこちるんだ。どうするかねえなんて思ってたら、まさか飛ばさずに投げるとはね、ふっふっふふふ……」


「少し近づいて魔法を放つという考えはあのバカにはないのか……」


「あ~……新人向けの訓練経験がないんで、馬鹿正直に今立ってる場所から当てなきゃいけないと思ってるんじゃないですかね?普通は『確実に仕留められる位置まで近づけ』ってまず教わりますから……」


「だけどよ、何で()()()()飛ばねえであんなみょうちきりんな軌道で飛んでんだ、あの魔法?」


「え?うわ、ホントに気持ち悪い飛び方ですね。標的の手前でストンと落ちましたよ?」


「さっきのは小盾(バックラー)一つ分くらい真横にズレとったな。今のもそうだが、ちょいとエンチャントした防具なら防げると思ってタカをくくっておったら痛い目に遭うかもしれんな。」


「オスモさん、まさかアイツに火球(ファイア・ボール)の飛行軌道操作なんて教えたんですか!?」


「そんな器用な魔力操作が文字通りの一朝一夕でできるわけがないだろう?たぶんアレはあの子が一晩で編みだした新しいやり方だよ……まったく何てことをしてくれるんだろうね……うふっふっふっふふふ。」


「オスモよう、オメエ随分とツル公を気に入ったみてえだな。さっきから聞いてりゃ『あの子』なんて呼んでっぞ。」


「おや、そうかい?………そうだねえ……二十年とは言わないが、せめてもう十年早くあの子と出会えていたら、お互いもう少し色んなことができてたかも知れないねえ……」


   ◇      ◇ 


「ぜへは~……ぜへは~……アカン!もうアカン!」


 制限時間内にぶっ壊してやるくらいの意気込みでやってみたのだが、あの標的はやたらと頑丈らしい。ありったけの火球(ファイア・ボール)をブチ込んだが傷一つついてない。アンジェ嬢の時間切れを報せる声を聞いたら、倒れてしまった。


『相棒!しっかりしろ!死ぬな!オマエが死んだら俺のネコちゅ~ぶはどうなる!?まだ食べてない味だってあるのにぃいいい!』


 こんなときまで現金なヤツだな。もう少し相棒の労わり方というものがあるだろうに……


「あら~、ツクルさん大丈夫ですかぁ?」


 てててっと寄ってきたアンジェ嬢に、体を起こして応える。


「……いやあ、やっぱり一日二日で特訓しただけじゃあうまくいきませんね。あの標的を壊すつもりだったんですが。」


「白銀板章の魔導師が作った標的物(ターゲット)をそんな簡単に壊されたら、そっちの方が問題ね。」


 ソフィ課長が手元の書類に何やら書き込みながら近づいてくる。立ち上がって服に着いた土をはたいて落としていたら、見物してた五人も連れだってこっちにやって来た。


「おうツル公、お疲れ!」


「ツクル、よくやったね。最後の()()は本当に面白いものを見せてもらったよ。」


 アレ?ああ、あの変化球?


「俺もどうなるかと思ったんだけどな、なんとか標的までは届かすことができたよ。」


「近づきゃいいだろうが!このアホウ……」


「ツクルさん。悪いことは言わないから、時々ウチの新人訓練に参加したらどう?」


 へ?近づいてよかったの?早く言えよ、そういう大事なことは。


「それで……統括本部のお二人に聞きたい。コイツの、ツクルの審査の結果はどうなんだ?」


 あ、そうだ。一番大事な問題はそこだよ。なんか『やり遂げたーっ!』って気になって忘れるところだった。


「マスター・チャガチェフ、ただ今の魔法審査の結果はもちろん『合格』です。冒険者ツクルは魔法を扱えるものと十分認められます。」


「……と言うことは?」


「冒険者ギルド統括本部は冒険者ツクルならびに魔道具ロビンを『特異魔道具及び特定所有者』であると認定し、本日付で同認定章を授与します!」


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