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たそがれ通りの異世界人  作者: 篠田 朗
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第十七話



「…外つ国からの旅人ツクル。貴殿は先日の第七ダンジョン崩落に際して、『灯りを点す者』に同行して現場に先行、その高度なスキルをもって全要救助者の生還と事態の超早期収束に多大な貢献を果たしたと認む。よって冒険者ギルド、ラハティ支部はその働きを賞し、貴殿を我らの一員として迎え入れ、「第五等 銀星紋付赤銅板章」を与えて金一封を贈るものである。」


 ギルドマスターは傍らの副マスターに証書を渡し、引き換えに革ひものついたプレートを受け取って俺の首にかける。次いでギルド職員の女性がお盆に乗せられた銭袋をもってきたのでこれも受け取る。ギルドマスターに促されたので皆のほうを向き、右手でプレート、左手で銭袋を掲げると店内に拍手と歓声、一部罵声が沸き起こった。


おおおおおおお!!! パチパチ(拍手)パチパチ! ヒューヒュー!

「いいぞツクル!」「ようこそ遅咲きルーキー!」「お疲れ!」

「『大食い』お疲れさん!」「この一人勝ち(ドロボー)の片棒担ぎめ!」

「オッサンが照れんな!」「ウチのパーティにこおおおおい!!」

「…せ~のっ『『『ツクルさ~ん、抱~いて~』』』!(低いし野太い)」


 恥ずかしさのあまりテーブルに逃げ帰る。


『相棒よう、もっと堂々としろよ、堂々と!』


 うるさい。こんなのに慣れてないんだから仕方ないだろ。せめて酒の一杯も飲ませろ、素面でできるかっての。


 俺を囃し立てる騒ぎが落ち着くと、ジョッキを片手に持ったマスターがホールの中央に歩み出た。


「全員に酒は回っとるな。それでは、諸君!今回のダンジョン崩落の後始末、ご苦労だった。やるべきことはまだまだあるが、取りあえずは現場もギルドも落ち着きを取り戻すことができた。これも諸君らの働きのおかげである。今日はしっかり飲んで食べて、今後の仕事のための英気を養ってほしい。それでは、乾杯!!」


「「「「「「「「「「 乾杯っ!!! 」」」」」」」」」」




 ダンジョンの崩落からおよそ三週間。俺は冒険者ギルド主催の関係者慰労会兼行賞宴会に呼ばれて、真新しいぎらぎら光る赤銅色のプレートを授与された。オマケみたいにくっついてる「銀星紋」というのはギルドに対して特に功労のあった者に対して贈られる追加章で、上から数えて五番目、というか実質一番下の赤銅板章持ちがもらうのは前例がないことらしい。が、ともかくこれで俺もラハティで暮らしていくためのマストアイテムの一つを手に入れたわけだ。今夜からは「門」の出入りでいちいち20ガラ徴収されることはない。ただ一つ()()なのは、いつの間にか俺の肩書が「冒険者」になっているという点だけだ。


「うりゃあああああっ!今日最初のメニューは四つ牙猪のハニーローストにワタリバトの詰め焼き、アガタ貝のニンニク炒め、根菜のピクルスに揚げイモじゃあああっ!食え!飲め!」


 ドワーフの大将を先頭に数人の店員が料理の乗った大皿を各テーブルに置いて回る。


「客人…いやツクル!今度の仕事では大活躍だったようじゃな、重畳じゃあっ!ホレ、最功労者はこれを食う権利がある。楽しめ!」


 俺の目の前に置かれた皿には四つ牙猪のものらしい、()()()()が鎮座していた。悪趣味なことこの上ないように思えるのだが、同席しているミルカたちからは「やったな!」だの「アタシにもわけてよ~」だのと囃される。食い方がわからんのでおろおろしていたら、大将が小さなナイフ一本であっという間に肉を外して食べやすい大きさに切ってくれた。


(タン)は後でシチューで出してやる。この首のところと頬のところが美味いんじゃ。周りの欠食児童(ワルガキ)どもに横取りされんうちに食えよ!かっかっかっかっか!」

 

 上機嫌の大将は俺の肩をばんばん叩くと、猪の頭骨を手に奥の厨房へと戻っていった。


「さすがに俺一人じゃ食いきれんよ。何より最近は油ものとか肉がキツくてな。すまんが()()()()をしてくれるとありがたい。」


 言うやいなや全方位から(隣のテーブルからも!)フォークが突きだされて、肉は半分以下の量になった。


「ツクルさん、ご相伴いただきます!…うめえ!」


「そういやウチの父ちゃんも油っこいものがキツいって言ってたな~。ツクル、お肉とか甘いものが食べられないようならこのニカちゃんに()()()()でいいからね!」


 若いヤツは元気でいい。オジサンは……正直な話、一昨日まで続いた仕事の疲れが抜け切れてない。ギルドマスターが「いい手駒が手に入った」とばかりに、ダンジョンの『土留め工事』だけでなく『ベースキャンプ全体の整理改修再建工事』まで始めやがったからな。物資や機材を運んで、ラハティとキャンプを何往復したことか。


「ツクル、今回は大仕事だったな。お疲れさま。」


 ミルカがジョッキを近づけてきたので、軽くぶつけてそれに応える。


「アンタもな。移動中の護衛なんて退屈な仕事に指名して申し訳なかったと思ってるところさ。」


「ラクな仕事で実入りは良かったからな、気にしなくていい。それにダンジョン管理も重要な俺たちの仕事だ。」


「そうですよ、おかげで冬になる前に野外用のコートを新調できそうです。私からもお礼を。」


「それよりもツクル~?()()()()()のことはいつになったらお話してくれるのかしら~?」


 飲み代がギルド持ちだからなのか、今日のミレナは初手からすごい勢いでワインを()()()()飲んでいる。そんな勢いで飲んで大丈夫か?後でやさしい介抱が必要か?もし必要なら、俺は今から飲む量を控えることについていささかも躊躇はないぞ。


『おい、スケベの大将。俺を()()()()()()にすんじゃねえぞ!』


 うるさい。ちっとは相棒の『夜の冒険』を助けてやろうという気持ちはないのかね。


「ミレナ。少しは控えろ、体に悪いぞ。年を考えろ…」


 ……年?


「ミ・ル・カ・ちゃん?今何て言ったのかしら~?()()()()()()最近耳が遠くなっちゃってよく聞こえなかったんだけど~お?」


 顔こそ穏やかだが、ミレナの放つ殺気がハンパじゃない。俺みたいな素人でも「あ、こういうのが殺気なんだ」ってわかるくらい強い、重い、鋭い。ベテラン冒険者のはずのミルカが「やっちまった…」みたいな顔で視線をずらす。


「お、バアさんどうした?殺気(やる気)出して。死出の旅の道連れでも欲しくなったのか?」


 隣のテーブルで早くもできあがった様子のフィリップが軽口を叩いた途端、ミレナの手が空中に何かの図形を描く。直後、ばごん!という音とともに閃光が奔ったかと思うとフィリップは床に倒れ伏した。


「フィル!アンタこれで二度目だよ!次はもうないんだから覚悟しな!………あら?うふふふふ。フィリップったら、こんなところで寝たら体に毒よ~?」


 俺はいったい何を見たのだろう?

 ミルカが指をくいくいするので顔を近づけると、耳元で小声で教えてくれた。


「いいか、ミレナの前で年齢の話はしないように。特に()()()()()()は厳禁だ。」


 オマエは何を言ってるんだ?こんな娘さんつかまえて。


「いずれ詳しく話す時が来ると思うが……ミレナは()()()()()()()()()()()()()()()だ。」


 は?『母の母親の姉』ってことは……要するに『祖母の姉』ってことで……つまり『大伯母』……?はあ?

 ミレナのほうを向くと人差し指をほほに当てて、軽く首をかしげた。ギルドマスターに俺の『アイテムボックス』を試すよう勧めたときのあの顔だ。


「ツクル?この国にはね、『秘密こそが女を最高に美しく彩る』って言葉があるの。アナタのお国にも()()()()()があるんじゃないかしら~?」


 俺の本能が叫ぶ。「これ以上の深追いをするな」と。「決して手出ししてはならん」と。


『…相棒、やめとけ。きっとオマエさんじゃ手に負えんぞ、このオンナ。』


 そうだね、ロビンくん。ぼくもそう思うよ。


「うふふふふふ…」


「…ははははは…」


…………。


「ところでさ、ツクルはこれからどうすんの?赤銅板章ももらっちゃったし、今日から『冒険者』って名乗っても問題ないんだよね?『灯りを点す者(うちのパーティ)』に入んない?」


 シニッカちゃんナイスタイミング!俺はジョッキの残りを飲み干しておかわりを注文する。


「この店に来る前に聞いたんだが、冒険者ギルドに入ったからといって、必ずしも冒険者稼業で暮らす必要はないんだってな。」


「ええ。自ら山野に出て材料や獲物を集める本草薬師や猟師、各地を旅してまわる商人、様々な主題で研究を行う学者など、その職業本来の組織に属しながらも冒険者ギルドに()()()()で所属する人も珍しくありません。」


「だからまあ、もうちょっとの間は俺でもできそうな仕事をいろいろ考えてみるさ。もう三十六だしな、今さらアンタらのような()()()()の業界でやっていける自信がない…。まあ、ギルドのほうに顔を出すことも多いと思うから、しばらくは『半冒険者』みたいな生活になるんじゃないかな。」


「そうか……無理はするなよ?そういえば宿は大丈夫なのか?姉貴のことだから()()()()()ような真似はせんと思うが、あそこもそれなりにするだろう?」


「そっちは何とかなった。イーヴォっておっさん知ってるか?あの辺で貸し倉庫とか持ってるヤツ。あのおっさんが持ってた家を借りることになった。少し小さいが、俺一人暮らすぶんには問題ない。問題がありゃ、自分で手直ししてもいいそうだし、何より家賃がきちんと払えそうな額だった。ええと…そう、西区の『たそがれ通り(ダスク・ストリート)』ってところにある小さな一軒家だ。」


「西区にそんなところあったっけ?」


「骨董屋とか古本屋、あと魔道具店なんかもあるあたりね、うふふふ。」


「落ち着いたら遊びに来てくれ。また、コーヒーでも淹れてやろう。」


「そりゃいいや。ツクルさんよ、今度は俺もきちんといただくことにするわ。でも、できれば()()してもらえると嬉しいっすね……。」


「そうね。ゆっくりお茶でもいただきながら、ロビンくんのことをきっちりお話して頂戴ね~?」


 すまん、ミレナ。ミルカから「君のあしらい方」を聞いてからにしてくれないか?そこでのびてるフィリップ氏のようにはなりたくない。


「よし!それじゃあラハティの新たな住人(なかま)、ツクルの今後の健勝を祈ってもう一度乾杯といこう!乾杯!」


「「「「「 かんぱ~い! 」」」」」


相棒(ツクル)。』


 どうした、相棒(ロビン)


『いい奴らだな。』


 ああ、いい奴らだ。本当に、いい奴らだ。



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