第十話
『アイテムボックス』もだけど、スキルと言えばもう一つ。『世界間貿易』もこの際実験しておこう。まずはスマホでスキル内容の詳細を確認、と。
[ 世界間貿易 Lv1 についての説明 ]
① これは「異世界の物品を購入することができる」スキルです。
スキルを使用する際はこの端末のホーム画面から始めてください。
② Lv1の場合、以下の条件があります。
(条件1類)
貿易コンテナLv1(コンテナ内寸:縦×横×高→400ミリ×500ミリ×600ミリ)に収まること。
重量制限はありません。
(条件2類)
貿易が可能なのは72時間ごとに1回です。
また発注後、商品が届くまで12時間必要です。
キャンセルは発注後2時間以内なら可能です。
商品発送先は任意に設定が可能です。
(条件3類)
ご注文1回につき、魔力5が必要です。
1回の貿易で購入に使える限度額は10000ガラです。
購入代金の8%(1ガラ未満切り捨て)が輸送費として必要です。
購入代金の5%(1ガラ未満切り捨て)が手数料として必要です。
支払いは商品到着後24時間以内に行ってください。
支払い遅延1時間ごとに10ガラを遅延損害金として徴収します。
冷蔵冷凍発送、温熱発送などを希望する場合、商品代金の5%相当額
(変動することがあります。1ガラ未満切り捨て)が必要です。
キャンセル時は購入代金の20%(1ガラ未満切り捨て)をキャンセル料として徴収します。
商品到着後の返品、返金には応じかねます。ご了承ください。
(条件4類)
以下の仲介業者が取り扱う商品しか購入できません。
・まうまうショッピング
・ゲンバのミカタロウ
③ スキルのレベルアップについて
お取引を重ね、信用ポイントを貯めることでレベルアップします。
! 信用ポイントを貯めるコツ !
・1回の購入額を大きくしましょう
・購入回数を増やしましょう
・代金支払いは必ず24時間以内にしましょう
・キャンセル履歴はポイントを失います
④ カスタマーサポート、お客様相談室
ご相談1回につき魔力2を必要とします。お客様とのご連絡にはこの端末を用い、メールで行います。
☆ それでは『異世界間貿易』スキルで快適な異世界生活を!
多っ!こまかっ!さすが大当たりスキル、気楽にぺいぺいっとはできないということだな。
ソロは「制限がある」って言ってたから覚悟してたけど、この条件を見る限りそんなに不便に思うような制限ではないな。むしろ通販の取引規約として普通なくらいにも見える。しかしこのスマホからしか注文できんということは、これからは最重要機材として丁寧丁重に扱わなきゃならんな。
「もうすぐ夕方だから、すぐ発注すれば届くのは明日の明け方か。よし、早速やってみよう。まずはホーム画面に戻って、『世界間貿易』……コレか。」
まずは何と言っても食料品、まうまうショッピングのほうで試してみる。
「ネットの通販サイトと大して変わりないな、これ。スマホの画面が小さいから見づらいのが難点か。」
もっと大きいのにしときゃよかったな。レベルアップのために1回の購入額は大きく!ということらしいが、25万円分も何を買えばいいのかすぐには思いつかん。最初だから少額でもよしとしよう。
手持ちの残りが心配なのは米に醤油、コーヒーかな。
「相棒!ネコちゅ~ぶ!ネコちゅ~ぶを注文するんだ!ささみ入りのヤツがいい!」
ああ、そんなにかさが張るワケじゃないからそれもいっとくか。
ということで、記念すべき第1回世界間貿易の購入品目が決定。
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米 :我が故郷、O県産のヒノヒカリ 5kg
醤 油 :これも口に慣れた九州S県の会社の1Lボトル
コーヒー :お馴染のメーカーの400g袋
ネコちゅ~ぶ:かつおささみっくす、20本入り
〇 冷凍冷蔵発送、温熱発送の必要なし
〇 発送先 「宿屋・赤い屋根 内藤創の宿泊する部屋」
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購入内容を確定すると、代金明細画面に切り替わる。
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お取引に際して必要な魔力 5
今回のお取引金額 220ガラ
輸送費用 17ガラ
手数料 11ガラ
特殊発送費用 なし
合計 魔力5
248ガラ
商品発送先 「宿屋・赤い屋根 内藤創様の宿泊するお部屋」
これでよろしいですか?
はい いいえ
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日本で買う値段と比べたらすこーしお高い気がするけど、いいですとも!問題なし。それポチっとな。
「はい」をタッチすると、右の手首とひじの中間あたりから温かい何かにゅるっと出ていく感触。……あ、魔力が抜かれたってこと?特にしんどくなったとか、痛みがあるとかはないな。場所的に血液採取を思い出す。
「相棒、いつ届くんだ?俺のネコちゅ~ぶは!?」
「説明通りなら明日の夜明け前ってあたりかな。宿の部屋に送られてくるはずだ。」
「ようし、そんならもうこんな倉庫に用はねえや。とっとと宿に戻ろうぜ。」
ぼふん!と白い煙を出してロビンが黒猫の姿になる。
「軽く車体をを洗ってやろうかと思ってたんだけどいいのか?」
「毛づくろいすりゃ一緒みてえだよ?」
そんなもんか。便利だな魔道具生物。
「じゃあここの戸締りして帰ろうか。晩飯も何か考えなくちゃな。」
洗濯ものを取り込み、忘れ物がないか確認して扉の鍵を閉めると、日も沈みかけて暗くなり始めてる。この町の治安がどうかはわからんが、早く宿に戻るに越したことはないだろう。洗車する時間はなかったってことか。
「行こう、ロビン。」
「おう。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結局、晩飯も昼と同じ店で食うことにした。定食のメニューは昼と変わってむっちりしたパンに野菜の酢漬け、鶏肉と根菜のシチュー。味付けはやっぱり塩とハーブのみ。胃にやさしいのはわかるんだが、せめて塩胡椒くらいは使いてええええええええ!
腹はそれなりに膨れるが、いまいち満足感にかける食事を済ませて宿に戻る。
「トゥーリア。今、帰ったよ。」
「お帰り!すまないけどね、今ちょいと手が離せないんだよ!何か用事はあるかい?」
奥の部屋から女将の元気のいい声が聞こえる。
「……小さい金が要るんだ。後で構わないから両替できるんならお願いしたい。」
「そんじゃ、もう半刻位したらまた来とくれ!」
部屋に戻ってランプに火を点けると、ロビンがベッドに飛び込んで身悶えし始めた。
「あーっ待ち遠しいぜ!はやくネコちゅ~ぶ届かねえかな?」
隣に腰かけて柔らかな腹を指でくすぐってやる。どう見てもネコ、どう触ってもネコ。あの鉄板ボディのトラックとは結びつかん。うにゃうにゃ言いながら俺の手にじゃれつく様は、もうホントにネコ。加古川のおばさん、遂に俺もネコを飼うことになりました。
「なあ相棒、今日はもう寝ちまおうぜ。モノが届くのは明日の夜明け前なんだろう?今からずっと起きてたってすることねえしよう。」
それもそうだな、昼間はよく働いたしな。でも寝る前に行水くらいはしておきたい。
「俺はざざっと水浴びしてくるよ。それに支払い用の金を用意しとかなきゃな。トゥーリアは一時間くらいしたら来いって言ってたから、俺はそれを済ませてから寝るよ。」
「そうか?じゃあ俺は先に寝るぜ。おやすみ、相棒……」
「待てよ、ロビン。」
「なんだよ。」
「お前が寝るのはベッドのはしっこ。そんなど真ん中に寝られちゃ俺の居場所がない。」
「ちぇ。」
中庭でたっぷり時間をかけて髪を洗い、体を拭く。
「体を拭くっていっても湯を使えないんじゃストレスたまるなぁ……。やっぱ風呂入りてえ。」
受付に行って少額硬貨への両替をしてもらい、トゥーリアに「どっかに風呂はないか?」と聞いてみたら
「あれ?まだ言ってなかったっけ?ミルも教えてなかったのかい?兄さん、アンタ風呂を知ってる国のお人だったんだ。そりゃあ悪いことしちまったねえ。ラハティは湧き水が豊富でね、風呂屋もそれなりにあるんだよ。今日はもうしまった時分だから、明日にでも行けばいいよ。」
とのこと。早く聞けばよかった。それでも明日になれば風呂に入れるんだから、と鼻歌なぞ歌いながら寝屋に戻る。案の定、ロビンが枕の上でへそ天で寝てやがった。このやろう。
スマホのアラームを予定より少し早めの8時間後にセットしたら、ロビンを足元に移動させて俺もベッドに横たわる。こっちに来てまだ三日。ネットのない生活の夜の長さを感じながら眼を閉じた。
翌払暁……
ベッドに座って今か今かと待ち構えていたところ、「テロリロリン」という音と共にプラスチック製(?)のケースが現れた。ふたを開けるとネコちゅ~ぶ、コーヒー、醤油、その下に米の袋も見える。本当に届いたよ。ロビンが感極まって叫び出したので慌てて口を押さえて黙らす。品物を全部取り出すと底には一枚の紙きれがあって、
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この度は世界間貿易スキルをご利用いただき、ありがとうございます
今回の 請求額は 248ガラ です。
注文したお品の取り忘れがないようご確認の後、代金をこのケースに
入れてからふたをきっちりと閉じてください。
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なんて書いてある。昨夜用意した硬貨で釣りのないように代金を入れてふたをすると、現れた時と同じような音がしてケースが消え、後には一枚の紙が残っていた。
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領収書
世界間貿易 商品購入代金として 248ガラ 領収いたしました
☆ 初回ご利用特典!
『貿易コンテナ エクステンドサービス』をプレゼント!
30日以内の「世界間貿易」ご利用の際、貿易コンテナのサイズについて縦、横、高さのいずれかを1000ミリまで延長できるサービスチケットをプレゼント。なお本サービスに追加の料金は発生いたしません。
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へえ、なかなか商売というものがわかってる。ひと月以内なら長さ1メートルまでのものが購入できるってことだけど、1メートル以内の長さで欲しいものってそんなにあるか?ゴボウ?自然薯?タチウオ?アカヤガラ?食材ばっかりだな。ま、その辺はおいおい考えていけばいいか。
試験的購入は成功。ネコちゅ~ぶを手にしてご機嫌なロビンと明け方のささやかな祝杯。俺が飲んでるのは昨日淹れといたコーヒーだ。こんなに上手くいくものなら、もう少し買う量増やしてもよかったな。
「そうだよ!今度から買い物するときはあのケースがパンっパンになるまでネコちゅ~ぶ詰めまくってやろうぜ!」
さすがにそれはな……。
最後の一滴まで搾り取るようにすするロビンを見ながらベッドに横たわると瞼が重くなる。
どうせ今は無期限休暇の身。二度寝したところで怒る奴なんていないさ………