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宝石少年の旅記録(9日更新)  作者: 小枝 唯
【宝石少年と2つの国】
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最後の作戦会議


 そうして辿り着いたのは、ヴィリロスの自室だった。彼がこの部屋に誰かを入れる事は決して無い。それを知っているコランは一歩後ずさる。洗脳されていないという喜びのあまり、着いてこいという幻聴を聞いたのでは? と自分に疑心する。ヴィリロスは自身の国石であるサンストーンを扉へ翳して開け、部屋に入ると再び視線を寄越した。


「入れ」

「しかし」


 戸惑いにヴィリロスは焦ったさを感じたのか、ノイスの男にしては細い腕をグイッと引っ張って、中へ強制的に招いた。2人を入れた扉は閉まり、自動的に鍵がかかる。


「よろしいの、ですか? 私を招いて」

「いいも何も。着いてこいと言ったのはこちらだ」


 ヴィリロスはソファに腰を沈め、しどろもどろなコランへ目線を配る。その目は向かい合う場所にあるソファに転がった。座れと言いたいのだろう。

 腰を浅く下ろした所で、彼は早々に口を開く。


「それで? 阻止しようとするアダマスの企みとは」

「……信じてくれますか?」

「貴方が嘘を言わないのなら」


 コランは、今まで伝えたかった疑念、催眠に近い力や、それを使って行方不明者をここへ連れて来させている事。そして、鉱石病を流行らせた疑い。最後の話は、まだ彼が何をしたか実際に分かっていないため、確信できないものだ。


「鉱石病を流行らせた理由は──」

「あの旅人を、手に入れるため?」

「! それを何故」

「彼から聞いた。あくまで、予想としてだが」


 ヴィリロスは立ち上がると、逡巡する少しの間その場をゆっくり往復した。そしてテーブルに手をつくと、前のめりになる形で静かに問いかける。


「彼は何者だ? 本当にただの、オリクトの民か」

「貴方にしては珍しい」

「………」

「彼はなんと?」

「…………旅人だと」

「そう仰ったなら、私もそうだと頷く他ありません。何か意図があるのでしょう。ですが話をしたという事は、ルルは貴方を信用しているはず」


 それ以上は口を閉ざす。ヴィリロスはそれにどこか悩ましそうな声を小さくこぼし、珍しく乱暴にソファへ座り直した。


「全てを知っているのか」

「ええ」

「……分かった。貴方の言葉を全て信じよう。しかし何故今まで1人で行動をしたんだ? 貴方は無茶をしていい体ではない」

「そ、それは」


 紡ぎかけた言葉を口が歯切れ悪く遮り、ヴィリロスは訝しそうに首をかしげた。何故かこちらの様子を伺って、言うのを躊躇っているのを感じる。

 催促すると、彼はおずおずと続きを話した。その内容は自分がアダマスの力によって操られていたという、想像もしていない目を見開くものだった。彼の名を口ずさめば、たちまち殺意を向けて聞く耳を持たなくなったと。そして彼の行動を黙認していたと。

 全くもって覚えがない。しかし語る悲痛そうな声に、記憶が揺さぶられるものを感じた。そうだ、彼が時折り自分の名前を今と同じように、切羽詰まった声で呼ぶ事があった。今になって思い出したその記憶の時、彼の言葉はまるで水の中に沈んだようにハッキリとしていない。


(一体何故、今になって考えられる?)


 ふと頭の中で、チラリと光った物を見た。ヴィリロスは埃1つ無い棚の引き出しを開ける。中にある小箱を開けると、そこには小さなクッションに鎮座するルルからの『お守り』が輝いていた。これのおかげか? 過去と現在の違いと言えば、これの存在があるか無いかのみだ。

 ヴィリロスはそれを、側にあった小さな籠型をしたペンダントヘッドのネックレスへ入れ、首から下げる。そしてソファに戻り、項垂れるように背中を丸くすると、深く溜息を吐いた。


「すまなかった」

「え?」

「貴方に裏切りを働いた。私を殴ってくれ」


 コランは絶句し、彼の下がった頭を見つめた。しかし思わず漏れたのは恨みではなく、小さな笑い声。ヴィリロスにもその音は聞こえたのか、弾かれたように驚愕した顔が上がる。


「裏切り? ふふ、はははっ、私は1度もそんな事されたと思っていません。むしろ、恨むのはアダマスのみ。一刻も早く、貴方たちを取り戻したいとしか……考えていませんでした。それにもう過去の事です」

「コラン、貴方はどれだけ──」


 お人好しなんだという言葉は彼にしては弱々しく、疲れた様な息と共に吐かれる。コランはそれにまた可笑しそうに笑った。お人好しは、きっとお互い様だ。

 ヴィリロスは何も咎められなかった事に不服そうだったが、気を取り直すように深く息を吸い、姿勢を正す。


「今後の計画を」

「ええ。次はルルを取り戻さなければなりません。鉱石病を解くのは、あの方だけですから」

「牢の場所は分かっている」

「本当ですか?!」


 柱の塔はヴィリロスの家、つまりはイェネオス家が古くに設計したものだった。彼の代は昔から民に支持され、五大柱から外れた事がない。そのため、2つの小国が手を繋ぎノイスとなった頃、国宝を収める柱の塔の設計がイェネオス家に一任されたのだ。

 物心ついた時から、ヴィリロスは柱を継ぐ未来が決定されていた。そんな彼の頭の中には、扉の無い隠し部屋を含んだ見取り図が正確に描かれるはずだった。

 彼は眉根を寄せて険しそうな顔をする。何故だ、思い出せない。頭に浮かぶのは、牢への一本道のみ。まさかこれもアダマスの仕業だというのか。そうだとすると、少し厄介だ。罠が張り巡らされた部屋もあるのだから。それすら手中となれば、愚直に動けない。


「意見を」

「どうぞ」

「行動はまだ起こさない方がいい。そして私たちが直接向かうのは、得策ではない」

「何故?」

「宴間近だ。私たちの行動……特に貴方の動きにアダマスは過敏になっているはずだ。さらに私が操れないと知れば、慌てて行動を早めるだろう」

「ええ、確かに」

「それに私たちには他にも、アダマスの次への動きを事前に食い止める必要もある。他に協力を仰げる者が居ればいいが……残りの3人も信用ならない」


 アダマスの手中である可能性があるのもそうだが、彼らがまともに手を貸してくれるとは思えない。もしそうなっても、何かあったら逃げ出しそうだ。

 そんな悩ましそうに呟かれた最後の言葉に、コランは比較的穏やかな笑みを見せた。


「その心配はありません。協力者が居ます」


 ベルトに括った小袋から、丸く磨かれた小さな水晶を取り出す。テーブル中央に置き、指で扉をノックする様にトントントンと突いた。すると、水に落とせば見失いそうに透き通る中が、たちまち煙を含んだ様に霧がかかる。霧に色が着き、2人の人影を映し出した。

 映ったのは水晶を覗き込んでいたベリルとルービィ。ヴィリロスは映し出された人物に驚いた顔をした。コランの娘はもちろん納得出来るが、太陽の民がそこに混ざっているとは思っていなかったのだ。


「ベリル……アーベント家を?」

「色々あって、娘の友になったのです。彼に協力を頼んだのも娘です。もちろんルルの良き友である。それに何より、頭もキレます」

「それは、分かるが」


 国民の事はよく分かっている。特にベリルは父親が有名で、息子である彼の手もとても器用であると一目置かれていた。だが彼が驚いたのがそこではないと、コランも分かっている。月の民が迷わず太陽の民に手を借りる事に驚愕しているのだ。


「確かに我らはまだ対している。けれど私は一個人として彼を尊重し、信頼しています」

『あ~、コランさん?』


 呼び出しに応じたら急に手放しに褒められ、赤面したベリルは居心地悪そうに会話へ割って入る。コランはその様子に思わずクスリと笑い、改めて状況を説明した。味方が増えた事や牢の在処、そしてこちらの動きを悟られないよう、裏で動く人物が必要である事。

 それを聞いたベリルとルービィは互いの顔を見合わせる。皆まで言われなくとも、その役が自分たちに相応しいのだと理解できた。


「しかしルービィ、お前は危険だ」

『父様、その事だけれど……実は、鉱石病があれから、少しも進んでいないの』

「何だって?」

『むしろ体は楽になっているわ』

『多分だけど、コレのおかげじゃないかって話してて』


 水晶へ目立つように翳されたのは、ルルから贈られたと聞いている首飾り。近くで見ようと顔を近付けたコランたちは、その奇妙な光景に目を疑った。

 彼らを釘付けにしているのは、アクセントである愛らしいリボンの中心を飾るルビー。それは光を必要とせず、信じられない事に自らの意思で体を輝かせていた。まるで彼女の鼓動に合わせる様に、大きく小さくと輝きを変化させている。ただの宝石ではないと、素人目で見ても一目瞭然だった。


『これは、きっとルルが作った石よ。これが私を生かして、守ってくれる。だからお願い、私も協力をさせて』

「コラン、どちらにせよ彼女を1人にする選択は、あまり賢いと思えん。アダマスは生娘を狙っている。ベリルと行動させた方がいいだろう」


 ヴィリロスの意見は正論だ。1人残った彼女の様子を見れていたとしても、何かあったあとでは遅くなってしまう。そして、ルービィの魔力はとても大きな力でもあった。

 コランは少しの間苦々しい顔で迷っていたが、静かに頷いた。


「ただし、無茶をしてはいけない。いいね」

『はい』

「ベリル、この子を頼みます」

『了解』


 ベリルたちは地下の道を辿って女神像まで移動し、ヴィリロスの説明を辿って牢へ向かう。コランたちは引き続きアダマスの姿を探す事で分かれた。おそらくタイムリミットは日の出直前。宴は早朝から行われるため、それよりも早くルルを救い、アダマスを止めなければならない。

 窓の外を見れば、日差しは赤さを増していた。あと2時間もしないうちに日が沈み夜が来る。4人はそれ以上言葉を交わす事はさず、行動に移った。

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