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エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


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第99話 悲劇の二歩目

 私と快楽の悪魔は、半日ほどをかけて帝国領土を移動する。

 そして誰とも遭遇することなく国境付近に到着した。


 付近の悪魔は逃げるように去っていた。

 帝都の大虐殺を目撃して、敵対すべきではないと考えたようだ。


 隣を歩く快楽の悪魔も、同類の中ではかなり有名である。

 古代より生きる一人であり、新参の悪魔からすればとても声をかけられない相手だった。

 そのような組み合わせで移動しているのだから、中位以下の悪魔が接触を望まないのは当たり前の話だろう。


 その日の夜、私達は橋のない大河の脇に立っていた。

 快楽の悪魔は、対岸を指差しながら説明する。


「ここから先が王国領土よ。三週間も歩き続ければ王都に着くわ」


「そうか。分かった」


 私は淡々と応じて水面を歩いて進もうとする。

 それを止めた"快楽"は愉快そうに補足した。


「王国は新たな降伏方法を探しているそうよ。悪魔の契約の打ち切り方とか」


「私の復讐代行を止める気なのか」


「武力では敵わないと分かったんだから当然の結論ね。歴史書から過去の例を漁っているみたい」


 無駄な努力だった。

 悪魔が契約を切ることは原則的にない。

 特に私はその傾向が顕著である。


 中途半端な覚悟の依頼は受けず、徹底して遂行すると決めていた。

 膨大な数の契約をこなしてきたが、依頼を投げ出したことは一度もない。

 今回も王国と連邦をしっかりと滅ぼすつもりだった。


「お前はこれからどうするつもりだ」


「中立のままよ。今回の復讐劇がどうなるのか見届けるつもりなの」


「大して面白くないと思うが」


「それはこっちが決める部分ね」


 快楽の悪魔は、片目を閉じてそう答えた。

 彼女なりにこの復讐代行の傍観を楽しんでいるらしい。

 娯楽性があるのか甚だ疑問ではあるが、そこは本人の感性によるようだ。


 少なくとも私は楽しさを味わえない部類だった。

 だからこそ名を克服できている。


「帝国の滅亡で悪魔に対する恐怖が増えるでしょうね」


「その分だけ需要も高まるだろう。暴力に備えるには暴力を要する」


「本当に皮肉な話だわ。平和なんて訪れないのかしら」


「平和を求めているのか」


「誰だってそうよ。心のどこかではね。あなたもそうでしょう?」


 快楽の悪魔は、じっと私の目を覗き込んできた。

 その瞳は、比類なき深淵を湛えていた。

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