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エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


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第98話 不可逆の変貌

「あの少年から学んだことはあるの?」


「無論だ。彼はいくつもの気付きを与えてくれた。無意識のうちに忘却していた人間性だ」


「……意外ね。人間性が恋しくなったのかしら」


「そうではない。ただ思い出しただけだ。戻りたいとは感じなかった」


 人間とは愚かしくも素晴らしい。

 私が手を伸ばしても届かない場所にいる存在だ。


 一方で悪魔とは逸脱した現象である。

 死者の人格が、新たな名と力を得た状態だ。


 これを私は本来あってはならないことだと思っている。

 しかし、必要な存在であるとも考えていた。

 様々な出来事を体現し、歪ながらも人類に関与し続けている。

 悪魔とはすなわち世界――不条理の擬人化なのだった。


 "快楽"と問答するうちに、街では赤黒い粘液のエルフが徘徊を始めていた。

 雨で降り注いだ分だ。

 私が制御を解いた間に形状が変化し、一時的に自律したらしい。


 彼らは獲物を求めている様子だった。

 もうすべてが死に絶えないので無意味な行為だ。


 それを快楽の悪魔は冷めた目で見下ろしている。

 少なくない侮蔑の色が覗いていた。


「憐れね。まるで餓鬼よ。被害者を増やしたって救われるわけじゃないのに」


「救いが欲しいのではない。攻撃の矛先を求めているだけだ」


「それって尚更に悪質じゃない?」


「否定はしない」


 復讐など碌な行為ではない。

 もはやエルフ達は被害者を名乗れないだろう。

 過去にはそういった時期もあっただけで、現在は虐殺に加担している。

 そこに悦楽を見い出しているのは明らかだった。


「邪悪なエルフのために復讐を続けるのね」


「そうだ」


「嫌になってこないの?」


「これで挫けるようなら名を兼ねたりはしない」


「もう……その立場の一貫性には驚かされるわ。皆は異端だって言うけれど、真の悪魔はあなたのような人を指すのかもしれないわね」


 快楽の悪魔は、呆れつつも私の意見を呑んだ。

 彼女なりに認めざるを得ない真理を持っているのだろう。


 その後、二人で地上に下りた。

 隣を歩く"快楽"は楽しそうに話しかけてくる。


「残る二国の情報、教えてほしい?」


「どちらでもいい。やることは変わらない」


「不愛想ね。もうちょっと笑ってみた方がいいんじゃないかしら」


「それこそ不要だ」


 私が前を向いて答えると、彼女は小さく笑った。

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