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エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


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第97話 傍観者

 彼方から接近してくる気配があった。

 敵対的ではないのは明らかなので、私は特に身構えずに待つ。


 現れたのは快楽の悪魔だ。

 彼女とは、この契約を結んだ当初に再会した。

 やはりこの一大的な殺戮を目撃しようと野次馬に紛れていたようだ。

 帝国が破滅する瞬間まで待っていたのだろう。


 快楽の悪魔は、馴れ馴れしく私と肩を組んでくる。


「お疲れ様。これで残る標的は王国と連邦ね」


 私はその言葉で気が引き締まる。

 頭ではよく分かっているつもりだが、他人の口から聞くと意識も自然と高まってくる。

 もっとも、最初から浮かれるだけの感性など持ち合わせていないが。

 昔はあったかもしれないが、気が付けば無くなっていた。


 王国と連邦は、帝国と組んでエルフの国を侵略した。

 帝国ほど強硬な態度は取っていないものの、それが逆に小賢しいとも言える。

 彼らは復讐に伴い甚大な犠牲を知り、なんとか避けようと策略を巡らせている最中だった。

 今もどうにかするために奔走している頃だろう。


 もっとも、私は何があろうと報いを受けさせる気なので無意味な努力だった。

 私は気楽そうな"快楽"に尋ねる。


「まだ傍観するつもりか」


「見られるのは嫌?」


「興味ない。誰に監視されようとやるべきことをやるだけだ」


 それを分かっているから私は強い。

 それを分かっていないから私は強くなれる。


 矛盾した二面を抱えている――いや、違う。

 二面どころではない。

 名を兼ねる私は、そういった矛盾を内包し得る唯一の存在だった。


 私の心境を呼んだのか、快楽の悪魔はため息混じりに呟く。


「相変わらず堅物ね。弟子を取っても性根は変わらなかったようじゃない」


「…………」


 私は黙り込む。

 脳裏を過ぎるのは少年との思い出だ。

 決して長い期間ではないが、彼と過ごした日々は悪くなかった。

 何物にも代え難い価値がある。


 そこまで認めた上で私は宣言する。


「ただの一度の出会いで変われるほど柔軟ではない。頑固だからこそ兼ねる悪魔を続けられる」


「ふふ、それは否めないわね。あなたは精神的な超人だもの。影響は受けても根底から揺るがされることは決してない。ある種の強迫観念よ」


「私だけではない。上位の悪魔の多くが患う特性だ」


 そう述べながら地上を見回す。

 やはり何も存在しない。

 死の気配がこびり付いているが、私には関係のないことだった。

 起きてしまったものはどうしようもない。

 不可逆の痕跡だけがそこにある。

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