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エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


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第96話 終焉の雨

 私は体内に戻した粘液を操作し、続けて全身から分泌させた。

 粘液は空に広がり、雲に吸着して赤黒く染める。

 そのまま帝都全域を覆い尽くした。

 日差しが遮られて、崩壊した城と街並みが影に埋もれる。


 私は知覚範囲を広げて地上を探る。

 帝都内にはまだ生きている人々がいた。

 およそ千人前後の民である。


 懐柔の悪魔の力で操られながらも、城内まで来なかった者達だ。

 そのおかげで少年に殺されずに済んだ。

 彼らは帝都内を右往左往している。

 逞しい者などは無人の家屋を巡って盗みを働いていた。


 天に向けて祈る者もいたが、彼らは赤黒い空にいち早く気が付いたろう。

 それが幸運かどうかは分からない。

 とにかく彼らは気付いたのだ。


 私は粘液の雲を見上げると、力の流れを操作しながら呟く。


「――滅びこそが恵みだ」


 間もなく雲から真っ赤な雨が降り始めた。

 そうして地上を濡らしていく。


 粘液の雨は触れた物体を腐蝕させる。

 建物も人間も無差別に死滅させていった。

 街の各所から悲鳴と断末魔が上がる。

 それもすぐに聞こえなくなった。

 何もかもが蝕まれて消える中、救いは一向に訪れない。


 遠方よりこの惨状を傍観する複数の悪魔がいた。

 中位から上位が大半で、顔見知りの者も少なくない。

 どうやら復讐劇の区切りを見物に来たらしい。


 これがあと二度ほど繰り返されるため、先に顛末を確かめておこうと考えたのだろう。

 そして以降の出来事に関わるか決めるのだ。


 きっとほとんどの者が国外へ逃亡する。

 人格の消滅まで覚悟して契約をする悪魔は滅多にいない。

 ほとぼりが冷めるまでは遠い地で契約をこなすのが安全なのだ。


 兼ねる悪魔とはそれだけ異端である。

 分類上は上位悪魔だが、悪魔の存在意義から逸脱している。


 最も大きな力を持っており、端的に言えば世界最強だ。

 ただし、憧れを抱く者は皆無である。

 誰もが畏怖と嫌悪の目を向ける。

 もっとも、そういったことを気にしないのが兼ねる悪魔だった。


 進むべき道は分かっている。

 たとえ外から何を言われようと関係ない。


 私はこれからも契約を重ねながら復讐を続けるのみだ。

 いずれ"復讐"から新たな名に切り替えて、それからも名に基づいた在り方を心がける。


 いつの間にか粘液の雲が消滅していた。

 含んだ力を使い切ったのだ。


 日差しを浴びる帝都は、何もかもが滅んでいた。

 すべてが死に絶えて更地と化している。


 民も歴史も血統も繁栄も残らず私が殺した。

 帝都という国は、この瞬間を以て終焉を迎えたのだった。

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