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エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


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第95話 帝国の死

 城内の命が残らず潰えたのを確認した私は、過去の名に紐づいた能力を解除する。

 鎖と茨が消失し、少年が真っ二つにした城が崩壊を再開した。

 元より懐柔の悪魔が上下を反転させているため、構造的な限界は超えている。

 ずれるような音と共に壁と床と天井が割れて開いていった。


 私は空中を跳んで上空に到達すると、そこから城が消えゆく瞬間を見守る。

 長き歴史を誇る帝国の象徴は、侵略戦争の報復によって死んだ。

 関わった悪魔も多くが消滅した。

 この結果は、大陸全土に波及するだろう。


 消滅した悪魔の分だけ名に空席ができる。

 そこに新たな人格が宿って活動を開始する。

 時期は不明だが、早い者なら半年後になるのではないか。

 いずれにしても人格の精査が必要になる。

 相応しくない者は、再び抹殺して消滅させなければならなかった。


 私は地上に向けて手をかざす。

 エルフの怨念が宿る粘液が吸い上げられて体内に戻っていった。

 同時に彼らの感情が伝わってくる。


 多くが復讐の建前を借りた殺戮に狂喜乱舞していた。

 無念の死から一転して、このような好機を得られたことに感謝している。

 彼らは自らの受けた仕打ちを返すことで鬱憤を晴らした。

 そこに罪悪感は存在しない。

 既に復讐の悪魔の眷属と化しており、生前とは別の存在に変貌しているのだった。


(やがて自我も溶けて記憶も人格も失っていくだろう)


 復讐の過程で成仏する者もいるが、大多数が中毒的な破壊衝動に駆られて怪物に至る。

 彼らの変化を罪とは思わない。

 たとえ私が望まずとも、本質的にそうなる仕組みなのだ。

 悪魔とは命や尊厳を搾取する存在である。



"殺戮"の悪魔は、あらゆる生物を殺し尽くした挙句に克服した。

"破滅"の悪魔は、善悪の一切合切を滅ぼした末に克服した。

"救済"の悪魔は、すべての悲劇を否定した後に克服した。

"苦役"の悪魔は、すべての喜劇を否定した後に克服した。

"試練"の悪魔は、人々の運命を捻じ曲げながら克服した。

"観測"の悪魔は、万物の干渉を無視して克服した。

"修羅"の悪魔は、醜い闘争を是として煽り果てて克服した。

"憤怒"の悪魔は、見知らぬ誰かの怒りを代行して克服した。

"虚無"の悪魔は、世界の揺れを許さず均して克服した。

"復讐"の悪魔は、手遅れな者を焚き付けながら克服した。



 私は常に世界を、人間を、悪魔をも弄ぶ。

 人間性を切り捨てながら誰よりも罪を深めていた。

 それを自覚しても決して止めず、止められることも拒む。

 故に災厄であり、最も忌み嫌われていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! [気になる点] さあ、滅ぼすべき国はあと2つ残っている。 (ペナンスが契約を完遂した後、世界そのものが存続できるかどうかは知らん) [一言] 続きも気にしなが…
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