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エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


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第93話 熱量の先

 少年の遺体が風化していく。

 端から砂のようになり、やがて崩れて形を失った。

 彼は短期間ながら悪魔の力を宿したのだ。

 真っ当な死に方はできない。


 私は室内を見回す。

 辺りに転がるのは夥しい数の死体だった。

 少年が殺した者達である。


 彼らは懐柔の悪魔に操られていた。

 ほとんどの者に罪はなく、自分が何をしているかも理解していなかっただろう。

 そんな彼らは己の存在意義を否定されたまま惨殺された。


 私は人々の犠牲に同情はしない。

 世界とはそういうものだ。

 非業の死などありふれている。

 納得のいく死を迎えられる者の方が珍しいほどだった。

 そういった意味では、少年は実に有意義だったろう。


 悪魔とは、死者の魂から選別される。

 つまり私も遠い過去では人間として死を経験していた。

 ある意味では起源とも言える記憶だが、数々の名を克服してきた私は元の人格からも乖離している。

 当時の景色は忘れていないものの、それを感じ取る心が欠損だった。


 名を兼ねる悪魔は、人間性を削り切った先にある。

 強さを手に入れるほど虚無に近付いていく。

 最終的にはすべてに意味を見い出せなくなって脱落する。

 懐柔の悪魔は、まさにその典型例だった。


(きっと私も碌な末路を迎えないだろう)


 永遠を生きるつもりだが、その一方でどこかに終わりがあるかもしれないという考えもあった。

 もし私の魂が消滅するとすれば、きっとどうしようもない苦痛を味わいながら消える。

 そうあって然るべきなのだ。


 私の罪は、十種の名前と共に積み重なっている。

 復讐の悪魔だけではない。

 むしろ救われる者がいる分だけ"復讐"は良心的だろう。

 もはや単なる死では償えない領域になっている。


(契約に没頭するのは、私なりの逃避行動なのかもしれない)


 もはや何億回目かも分からない自己分析を終える。


 私は頭上――逆さまになった城の床を見上げた。

 少年の斬撃で真っ二つになっている。

 斬痕は壁まで余さず切り裂いており、茨と鎖で固定していなければ倒壊するところだ。


 このまま能力を解除して何もかもを破壊してもいい。

 ただ、もう少しだけ維持しておく。

 まだ仕上げが残っているためだ。


 少年は見事に復讐を達成し、その命を燃やし尽くしてやり遂げた。

 一方で私にはまだ契約が残っている。

 粛々と役目を果たさねばならなかった。

 粘液に潜むエルフ族の怨念は、新たな悲劇を渇望している。

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