表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフが絶滅した日。  作者: 結城 からく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/107

第92話 力の代償

 私は少年に駆け寄ると、彼の身体に宿る粘液を操作した。

 暴れ狂うエルフの怨念を鎮めて、固めた粘液で傷口を埋めて止血する。

 機能不全に陥った内臓も無理やり動かした。


 ただ、あくまでも応急処置だ。

 延命以外の効果は望めない。

 私にはこれ以上のことができなかった。


 過去に多種多様な破壊の力を手に入れてきたが、いずれも誰かを癒すための代物ではない。

 もたらすのは死だけである。

 目の前のたった一人の少年すら救えないのだった。


 私は横たわる少年の状態を確認する。

 生命力が体外へと霧散し、肉体が風化しようとしていた。

 悪魔の力が回復に費やされているが、それでは間に合わない速度で死に傾いている。


(寿命が尽きかけている。無理をしすぎたのだ)


 少年は私との契約で寿命の九割を失っていた。

 ただでさえ死が間近にあったというのに、此度の戦いで限界を超えた。

 その反動が今になって襲いかかってきたのである。


 いつ命を落としても不思議ではない状態だった。

 即死しなかったのは悪魔の力が辛うじて機能したからだろう。


 少年は口端から血を垂らす。

 薄く目を開いて、私の名を呼んだ。


「ペナ……ンス」


「何だ」


「ありが、とう……おかげで、復讐……できた、んだ」


 少年は涙を流しながら笑う。

 己の運命を悟った上で、彼は私に感謝の言葉を述べた。


 過酷な状況に追いやったのは私だ。

 それを知っているはずだというのに、少年は尚も私を慕っている。


 彼にとっては復讐がすべてだったのだ。

 無力な自分が何よりも憎かった。

 そこから脱却するきっかけを与えた存在に感謝している。

 たとえそれが悪魔だとしても、唯一無二の恩人には違いないのだろう。

 彼の表情には一片の後悔も残っていなかった。


「私は機会を提供したが、道を開いたのは自分自身の力だ。存分に誇るといい。とても良い復讐だった」


「褒めて、くれるのかよ……」


「正当な評価だ」


 私がそう返すと、少年は安らかな表情で微笑む。

 そして、二度と目覚めることはなかった。


 少年は死んだ。

 帝国という巨悪に翻弄され、悪魔の誘惑に乗った挙句、その若い命を散らした。


 しかし彼の死は無為ではない。

 帝国に滅びの一手を打ったのは間違いなく少年である。

 彼の執念は、復讐の達成に繋がったのだ。

 私はその生き様に敬意を表したい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 少年が本懐を遂げる事ができたのはせめてもの救い。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ